第10話 貧乏貴族の侍女③ ~姫様は天衣無縫です~
姫様は食生活を変え始めたのが功を制したのか、少しずつ背が伸び始めました。
いやあ、よくいってくれた、これからも頼むぞとレベッカ医師にいわれてさらに世話を任されるようになりハンネが休暇を取った時などの代役になりました。
一応まだ私よりも高位の貴族の侍女がいるのですが。
・・・私もジュディッタ様のようにエーヴェリーン様の侍女の方がいいです。
どうやらあの方は伝手を使っていつの間にかあちらに移ったようですね。
イルンスール様の方が私物が多いので身の回りの世話をする侍女が必要です。
高級品ばかりなので下級使用人には任せられませんが、このままだと使用人を統轄している家政婦長の手を借りることになりそうです。
森の散歩も採集活動に変わり段々奥地に入ってきている気がします。
ていうか採集なんてそれこそ人にやらせればいいじゃないですか、時々指切ったりするし、わざわざお城のお姫様のやることじゃないですよ。
採集しながらついでに酸っぱい木の実をもいで、もしゃもしゃ食べている姫様に話しかけます。
「大丈夫なのでしょうか」
「ん、どうかしましたか?」
だから奥には魔獣がいるって噂じゃないですか、木の梢も高くなってきましたし大分植生も変わって来ましたよ。
「別に変な気配もしないし大丈夫じゃないか?誰も見たことある人間はいないんだろう 」
レベッカ医師は護衛も兼ねているならもうちょっと真面目に警戒してくださいよ。
ここにいるのは外国人ばかりで今一つ勝手がわかりません。
「お嬢様、これ見てください。凄く綺麗ですよ」
ハンネが何か見つけて呼んでいます。
きらきら光る綺麗な糸が木々の間に垂れ下がっています。
辺りを見回すと高い位置にいつの間にか同じような光があちこちに見えます。
木漏れ日ではなかったようです。
「あ」
真上を見上げた私が上げた驚きの声に釣られて皆さんも見上げます。
音もなくそれは私たちの前に降りてきました。
凄く、大きいです。
頭の高さは成人男性並み、胴体、奥行きはそれ以上、脚の長さは測定も難しい長さの白い大蜘蛛です。
「姫様引き返しましょう」
内心の怯えを隠し、耳元で囁いて後退を促します。
勝負を挑んだ騎士は返り討ちに遭いましたが、無理に奥へ入ろうとしなければ見逃してもらえるという噂です。
これがその神獣ならば。
緊張に震える声で姫様に声をかけたというのにあの方と来たら!
「貴方凄く大きいのね?ちょっとそこを退いてもらっても良いかしら」
無邪気に話しかけてますよ、この方!
ジュディッタ様を廊下で脇にどかしたみたいな口調で神獣様を扱わないで下さい!
ていうか貴方も大人しく退かないで下さいよ。
神獣じゃなかったんですか?
誰かこのお姫様に世間の厳しさを教えてやって下さい!!
役立たずの白蜘蛛は姫様を先導するように先に行き、通り道を塞ぐ蜘蛛の糸があれば操って脇にどかせてしまいまるで下僕の様です。
人間強気に出てみるものですね。
蜘蛛に誘われるかのように着いた先には朽ち果てた建物がありました。
大丈夫ですかね?退路を断ってからペロりなんて嫌ですよ、私は。
私の心配をよそに皆さんは奥にあった泉で水を汲んだり書庫から本を回収したり探検を楽しみました。
帰り際に姫様ときたら蜘蛛に話しかけて繭のように丸まった糸を貰ってもいいかと聞いてました。無邪気で厚かましいったら無いですよ、もうもうもう。
その後も気に入ったのか森に通い続けた挙げ句、私物を持ち込み神殿内の石で出来た広場みたいな所で昼寝を楽しみ、大分暑くなったと泉で水浴びをし別荘のようにしてしまいました。
それにしてもここ最近日に日に大きくなっていきますね、年齢にしては小さいと思ったのが嘘のように毎日服のサイズが合わなくなって仕立て直しが必要です。
悔しいですけどちょっと綺麗になってきましたね。
いつもぴったりとした服にマントを纏い外出時は帽子を手放さないので色白ですし顔の険も目の怖いところも無くなってきました。私もそばかすまみれであまり美人とはいえないですからね、ジュデイッタ様達の様に顔の傷がどうのとはいいたくありませんでした。
月並みな言葉でいえば蛹から蝶にでもなったというところでしょうか。
もう安心です。
ちなみに姫様は貰った繭で職人に服を作らせて自分も作り方を習っていました。
キヌみたいっていってました。
何ですかね、それ。聞いたことないですけど。




