第48話 ある一家の主③
「お父さん、ご免なさい。全部罪を被ってくれたんでしょう・・・?」
ギィエッヒンゲンに用意されたホテルの一室で娘がこの世の終わりのような顔をして詫びている。
こんな顔をさせてしまっては父親失格だな。
まあ実際失格になってしまったが。
「イルン、気にするなといっても無理かもしれないが本当に気にする必要はない。選帝侯もおっしゃっていただろう、君に罪はない。君はただの被害者なのだよ」
「でも、実際にはそれで故郷を追放されちゃうんでしょう。わたしそんなの・・・自分が許せないよ。故郷から遠く離れて漂着したわたしをずっと守ってくれていた父さんを故郷から追い出しちゃうなんて」
娘は頭を振って自分を責め続ける。
「私はもともと商人だ、大陸中を飛び回る交易を生業とした商会の主だった。ヨハンを連れていつか商売を教えながら飛び回ろうと思っていたくらいだ。今回の件でも商売が楽しくてついついやり過ぎてしまっただけだ。いずれ誰でも目をつけていたさ」
法廷の指摘の通り、私が娘を利用しただけだ。
私腹を肥やした訳ではなく、西方商工会の協力で思ったより流通量が増えて制御不能になって想定以上にこの子の口座が膨らんでしまった。
自分を責め続ける娘を止めようと手を伸ばす・・・が、やはり躊躇ってしまう。
初めて会った時、彼女は随分と怯えていた。
あの目を見て以来ずっと、距離を取って抱き上げてやったこともない。
彼女はそんな私の手を掴んで、自分の頬にあてた。
優しい娘の頬を撫で、髪をかき分ける。
「済まなかったな、この左目も体の傷も。レベッカから高価な医薬品の入手を頼まれた時、私は拒んでしまった。そこまでする必要があるのか、と、卑しい商人の打算が全面に出てしまったのだ。早期に治療が進んでいれば体の奥に毒素を残さずに済み、傷も残らずに済んだかもしれなかったのに。今でも後遺症に苦しんでいるんだろう?」
時々めまいがするようでふらふらしているとヨハンナからも聞いている。
「平気だよ。レベッカ先生もハンネもこれからもついてきてくれるって。エドヴァルド様も構わないって許可してくれた。だから平気。お父さんこそ体に気をつけて、私の代わりに捕らえられて人質にされて、裁判所で大勢から厳しい事いわれたんでしょう、酷いことされなかった?」
ひっくひっくと泣き始めてしまった。
昔から娘をあやすのがうまくない。
怖がってヨハンナにばかり任せていたから二度も娘を失う羽目になったのかもな。
つくづく自業自得だ。
この娘がいたから妻の心も救われた。
妻と共に私も救ってくれた。ならやはり私も娘を助けなければ。
「イルン、君は知らないだろうが法廷で多くの人が君や私を弁護してくれた。ヨハンの友人の少年も、かつて君に石を投げた少年も。町の商人や屋敷の衛士たちも。魔術師殿とあのエルマーくんはどこかで口裏を合わせていたようでな、実に楽しい裁判だった。どうも男爵陣営は予め領民を抱きこんでいるつもりだったようだが、あてが外れたようだったな。私のいない間に随分領民達を助けようと奔走してくれていたのだろう?」
「うん、でもレベッカ先生や皆のおかげだよ」
「ああ、帰ったら皆に礼をいおう、いつまでも泣いていないでせっかくギィエッヒンゲンに来たんだ。明日は二人で買い物に行こうか」
「うん!」
心から喜びの表情を向けてくれる娘を撫でながら、もっと早く娘に歩み寄っていればこんな幸せな時間を過ごせたのか、と残念に思った。
しがみついて泣き続ける娘をあやしているうちにいつの間にか娘は眠ってしまい、そのまま毛布を掛けて私も眠った。
翌日娘を連れだし以前欲しがっていた、大つばで優美な曲線を描き目深に被る帽子を贈った。二人きりの幸せなひと時を過ごした後、馬車で館へ戻った。
それから夏まで父親として毎晩本を読み聞かせてやり、短い期間だが東方の子供としてふさわしい教育を施した。あの帝国騎士がさすがにこの子にそこまでしてくれるとは思えなかったから。




