第45話 騎士王と裁判②
「ご存じの通り帝国大法典に収録された内容はあらゆる国家が守る義務があります。過去全商業ギルドと帝国政府で取り決めを交わし、ハンゼ法として公布された通り海洋漂着物は5年以内に荷主が届け出れば大陸の反対側であろうとも返却の義務があります」
それは知っているが、と列席者が訝しがる。
「改めて申し上げますが、男爵からはその漂着物は自分の財産でありオイゲンが横領したという訴えがあります。荷主が現れない場合、男爵の言う通り漂着物は発見者でなく領主のものとなります」
この法律は大陸中に白の街道網が敷設され、治安が改善し、貿易港が次々と開かれ商業活動が活発化した時、事故や盗難が起きた際の共通法を定める必要が出てきた。
地域によって慣習に差があり過ぎた為だ。
昔は領主の横暴が効いたものだが、それでは経済が停滞する。
ギルドを通じて返却を徹底させる事は帝国にとっても都合が良かった。
基本的に各国の自治に任せる事が多い帝国も自身の優位を確保する為に積極的な商業活動と正確な納税を支援し法による保護を行っている。
「それほど貴重な漂着物なのか」
裁判官とドゥーカス家の若造の話は続く。本来なら裁判官は話を打ち切って審理を続けねばならないが、さすがに黙れ、とはいえんようだ。
「はい、ゲオルギウス様。それは一人の奴隷の娘です」
「優れた教育を受けた奴隷の値段は魔術師の職人が作った魔術装具よりも高いというが、それほどのものか?」
「いいえ、ゲオルギウス様。この場合はその奴隷を養女としオイゲンが資産隠しに銀行口座を開設し利用したというのが訴えです」
故にその娘と資産は男爵のものである、と。
今度はオルステンド男爵が満足げに頷く。
「被告、弁護人、反論をどうぞ」
「既に提出された書類の通り、娘の資産は既に男爵領の年間予算を遥かに超えている。どれだけ収入を横領しても不可能な額である」
「原告、法務官」
「法務官として申し上げます、オイゲンは公務中に知りえた知識で蓄財を行いました。その利益を娘の口座に移したのです。この件は東方商業ギルド、染料ギルドなどからの訴えもあります」
証拠として染料ギルドが独占している染料を不法に作成して着色したという端切れや薬品の数々を持ち出してきた。
「弁護人」
「それはオイゲンが公務中に知りえた知識で開発し販売したという証拠にはならぬ。大方適当な物を持ち出して罪を被せ財産を奪ってやろうとしたのだろうがそうはいかぬ」
「無礼な!口が過ぎるぞ!!」
弁護人の発言に法廷が騒がしくなる。
「静粛に!弁護人は余計な発言を慎んでください」
裁判官が再び木槌を打ち鳴らし黙らせる。
「本件では西方商工会と特許局から証人が来ています、証人前へ」
「先ほど提出された証拠と娘の名で西方に登録されている製法について依頼により特許局で関係機関と分析しました。結論としては東方で登録されている既知の製法ではありません。品質についてもまったく違います。西方圏では量産が開始されていますが、問題ありません」
故に東方ギルドに出る幕無し、と断言した。
「先ほどの端切れとその染料についてですが、聞き取り調査や自由都市連盟とも協議した所いまだ販売されておりません。代官の邸の使用人達から聞き取り調査を行いましたが、それは庭に置いてあったゴミを遊んでいた子供がひっくり返した時にできた偶然の産物とのことです」
「裁判官殿、発言してもよろしいか」
「どうぞ、行政副長官」
「本件について自由都市とディシア王国からの仲裁依頼を受けた選定候の依頼に基づき法務官に調査を行わせた。特許局の局員の発言が事実である事を保証する。そして代官の妻よりその端切れを持っているのは染料モドキをひっくり返した子供本人と娘の下着を盗んだ人間だけだと訴えがあった」
下着泥棒ですって・・・男爵が?
傍聴席からもくすくすとした笑い声が聞こえる。
「静粛に!原告、法務官!!」
顔を真っ赤にしていた原告陣営が発言する。
「法務官として申し上げます、その端切れは少年から染料ギルドの人間が購入し持ち込んだものです」
だからといって下着泥棒じゃない、とは限らないんじゃないか?
そんな声が傍聴席から漏れる。
「静粛に!!待機させている証人をここへ」
裁判官が再び木槌を鳴らす。
「証人発言してよろしい」
裁判官が入廷した少年に端切れについて尋ねる。
「あ、はい。確かに村の人間じゃない人が干してるオレの服を勝手に持っていきました」
「染料ギルドの人間をここへ」
「金は置いていきました」
「オレは納得してない!第一それほんとにオレの服か?」
千切られているので判断がつかないようだ。
これでは下着泥棒かどうか判断つかんな。
「染料ギルドの窃盗行為については別件として審理します。販売もされておりませんし本件とは直接関わりありません」
裁判官が少しばかり疲れてきたようだ、こんな話を我々の前でする予定ではなかったのだろう。
「つまり、娘の資産は正当な収入であったということでいいのか」
確かめるようにドゥーカス家の若造がいう。
奴の発言は好都合だが、それを判断するのは後でのことだ。




