第44話 騎士王と裁判
「ようこそ閣下、このようなむさ苦しい所においで頂き・・・」
市長の話を遮ってさっさと案内するよう告げる。
先行していた騎士達が先導し転移の間から抜け、用意された馬車へ乗り込みギィエッヒンゲンの裁判所へ向かう。
この裁判を何処で行うかが問題となった。
ディシア王国は自国の首都での開催を望み、東方行政区の長官は総合庁舎があるノイアンデバーグでの開催を望んだ。結局、役目柄私が仲裁に入り、証人を多く集め話を聞く必要があると、事件から近い都市ギィエッヒンゲンでの開催を命じた。
「東方世界の大君主にして帝国選帝侯であるフランデアン王がいらっしゃいました。皆さまご起立してお迎えください」
衛士が私の入廷を告げる。
案内された裁判所にはディシアの国王、自由都市連盟の東方圏議長、ドゥーカス家の嫡男、東方行政区の副長官とそれぞれの法官貴族、法務官が助言役で臨席している。
他のやつばらはともかくドゥーカス家までいるのか、面倒な。
第三帝国期、内乱の時代に巨大化し過ぎた帝国を効率的に統治すべく東西南北各地域に副帝を二人ずつ配置した時の名残で配置された皇族の一家であり、その政策は失敗し制度は廃止された。
今は東方諸国のお目付け役として、北方蛮族の監視役としての地位を与えられて残っているが、軍事力は領内に帝国正規軍の東方駐屯軍本部と要塞がある為必要最低限に抑えられていて実権がない。東方諸王の投票で決まる選帝侯の方が上席とされている。
我々もまた時期が来れば皇族から次代の皇帝を選ぶ。
ドゥーカス家は帝国議会でも選択対象にならない家柄だ。
実権は無いが皇室に伝手はあり、我々東方圏の諸王にとっては目の上の瘤という奴だ。
やりにくいことこの上ない。
「またせたな、諸君。まずは法の女神エミスに嘘偽りなく発言することを誓ってくれ」
まず私から宣誓の聖句を私にあてがわれたひと際高い中央の席よりもさらに上位に置かれている神像に奉る。
続いてエミスの神官と詐欺と盗賊の神ナルヴェッラの神官が同じように聖句を奏上する。
ナルヴェッラの神官までいるのは古代から続く儀礼上のことで、かつては嘘を見破る為に立ち会ったが今はただの事務手続きに過ぎない。
残り全員の宣誓が終わってから現地の裁判官に進行を命じる。
原告や被告、弁護人達が入って来て着席し開廷が宣言される。
「オルステンド男爵からの訴状を確認します。被告オイゲン・カウフマンは原告より代官を任されていながら、不正蓄財、公金横領・・・」
次々と罪状を読み上げられる。
出席者の顔触れが顔触れなので早期解決の為、事前に書類は読んでいるし、法官達も打ち合わせ済みだが、形式は形式だ。
「以上の罪状により帝国追放刑を要求する。男爵、間違いありませんか」
「そうだ、その男は儂の財産権を侵害し・・・!」
「静粛に!!余計な発言は慎んでください。高貴な方々がご臨席です」
裁判官が木槌を打ち鳴らし、男爵に警告する。
平民風情が偉そうに、と不満の声を漏らすが側近らしき男が袖を引いて止めさせる。
強欲な貴族め。
公正な裁判の為、訴えが寄せられてすぐに男爵の身柄もオイゲンという代官の身柄も派遣した騎士に確保させていた為、ディシア国王も男爵とは直接連絡を取っていないので、男爵がどういうつもりで何を言い出すのかまでは分からなかったようだ。
ディシア王も自国貴族の醜態に少しだけ不満げに見える。
帝国追放刑は、犯罪者から全ての財産を奪い、妻は実家に帰され、子供は孤児となる。
犯罪者は死刑にはならないが、一切の法の保護から外れる。
与えられるのは毛皮だけ。野の獣として扱われる。
故に帝国勢力圏内では生きて行けず人跡未踏の僻地や無人島を目指すしかない。
だが、近年帝国上層部では追放された人間が蛮族の地に身を寄せているのではないかという疑惑が浮上し、かつては政敵を追放するのに盛んに使われたが、今は執行には慎重になっている。ディシア国王も直接知りはしないだろうが、察していてもおかしくない。
続いて証拠の提出と被告弁護人の反論が始まるが、私の所には両者の言い分は先に届いているので特に目新しい内容は無い。最終的には臨席している国王達が投票で結論を出し最高裁判官となる私が採用するかどうかを決める。
この裁判の流れで国王達がどう判断するか・・・。
髭に手をやってもてあそびながら思案する。
事務手続きが終わると証人喚問が始まる。
「西方商工会財務部長から証拠の提出がある、ギィエッヒンゲンの銀行の記録と確認してもらいたい。弁護人として申し上げるが、オルステンド男爵の代官オイゲンに不正や汚職はない」
法務官と財務官が内容を確認し、裁判官に告げる。
「確かに、金銭の流れに問題はありません。オイゲンの資産は増えていません、むしろ任官以降減り続けています」
「そんな筈はない!提出した関所の記録は確認したのか!?既に我が領地の収入額30000エイク以上の荷が動いておる!!」
「問題ありません、その分オイゲンの預金額は減っています。納税も適切に行われています、自由都市連盟から提出された証拠とも一致します」
自由都市連盟東方圏議長が満足げに頷く。
派遣した人間が汚職したとあっては彼らの名声に傷がつくからな。
どこの国の貴族も田舎の自領の経営をやりたがらず、人任せにしたがる手合いがいる。
国によって貴族制度や名誉の在り方が違うのでそれは仕方ないが、任された縁戚貴族の代官は汚職するのが当たり前、信用できる人間をみつけるのは難しい。そこで連盟が経営能力に優れた人間を貸し出し安定した収入を確保させている。天災で赤字になった時の保険までついて至れり尽くせりで優秀な人材は各国から引っ張りだこで中には爵位を与えられ仕官するものもいる。
本来領主に裁判権がある自領だけの問題でさっさと処断して済ませ闇に葬るつもりが、我々の介入で予定で狂ったのだろう。
全員の口を封じてしまえば、議長も知らないまま話は済んでいた。
「不正は無し、で終わりか?そんなことの為に我々は呼ばれたのか?」
ドゥーカス家の若造が口を開く。
先ほどの長ったらしい訴状の読み上げを聞いていなかったようだな。
「まだだ、娘の話が終わっていない!」
男爵の要求に皆が眉をしかめる。
「はい、まだ終わりではありません。横領についてですが、今から4年前オイゲンは漂着物を私物化したとのことです」
進行役の裁判官が我々に告げる。




