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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第一章 森の獣
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第36話 雨乞い

魔術講義を受ける時間の分、アンナマリーさんの所で写本をするのは止めることになった。

もともとわたくしの仕事なので後は自分でやりますよ、今まで有難うとやんわりとだがきっぱりこれ以上のお手伝いは必要ない旨、宣言されてしまった。

最近神殿でも父さんの書斎で読もうとする本をハンネにさりげなく取り上げられてこちらをどうぞ、と別の本を渡されることがある。

どうも子供には不適切な内容らしい、と段々察しがつくようになってきた。

ひょっとしたらそのあたりも原因かなあ。

写本作業はやめても、週一で神殿のお掃除やお祈りに通うのは続けた。



他の作業は今まで通り。

だけど、兄さんと玉遊びをしていた子供にこれから混ぜたりして試す予定だった赤と紫の染料をひっくり返されてしまった。裏庭に置いてあったのに・・・・・・。

あの二人はもう大人の仲間入りの準備をするのではなかったのだろうか。

二人とも正座で反省させたので、今回はこれで許すけど。

まったく、あの子も最近は兄さんの家庭教師についでに面倒を見て貰っているというのに昔から全然変わらない。あ、いや本館に出入りしてるから大分取り繕えるようになったのかな?


ハンネにレベッカ先生みたいに腕を組んで仁王立ちになるのは止めて欲しいとお願いされてしまった。うむむ、ハンネの理想のお嬢様像を叶えつつレベッカ先生のようにもなりたいところだ。


赤紫系の染料開発は原料がサンプル品程度の量しかなかったので中断だ。

あれをもう一度作るには虫の鱗粉や樹液が足りないので森に行けない今は保管分が足りない。


青系はいい色合いが出るようになったけれど、染料は出来ても染色技法が無い。

母さんが丹精込めて育てている菜園の花々を見ながら思う。

本物の花では有り得ない色の造花や刺繍はできても、本物の花のように花弁の根元から先まで連続的に変化させながらの染め方はできない。

どうやってやれば実現できるのだろう。


長時間外にいるのでこの前買ってもらった帽子を被って私邸の庭を散歩しながら思索にふける。赤や白の花々が見事に咲き誇っているけれど、いちいち名称がついていて図鑑によると白燕斑爪覆輪咲きとか、七曜紅覆輪星咲きとかいうらしい。


「あらまあ、溜息ついてどうしたの?」


母さんも水やりにやってきた。

わたしは例によって水くみ禁止が続いている。

ギィエッヒンゲンみたいに水道が走っていれば楽なのに。


「うん、こんな色合いで変化させながら染色できたらなあって」

「あら、これはさすがに素人が再現するのは難しそうね。織り方や使う糸である程度はなんとかなるけど、染め方を工夫した方がいいかしら」


母さんと二人でいろいろ検討してみたけど、専門家に任せちゃった方がいいという結論になった。


「それにしても大分暑くなってきたわね、帽子だけじゃなくて日傘も用意した方がいいかしらね」


わたしは夏になると何もしていなくても自分のかいた汗で、日差しの中でも冷えてしまう。

そんなわけで日傘もいいけど、吸水性の高いタオルとか汗をよく吸ってかつ蒸発も早くなるような織り方の肌着が欲しい。肌から直接乾いてしまうと体温が下がって節々が痛み始める。快適な夏を過ごすには新しい長袖の肌着が欲しい。

父さんに触発されて母さんも実家と協力して新製品の開発に勤しみ始めたので、この前きたお針子さん達に頑張ってもらおう!


職人さん達には既にナジェスタから貰った民族衣装に似せた衣を作ってもらっている。

刺繍とかは一切ない形だけ似せたもので、舞のお稽古の際の練習着にしているのだ。

父さんが派手な・・・荘厳な糸をたくさん買ってきてくれたので、神々のシンボルを刺繍の練習題材にしてみて、そのうち縫い付けよう。


レベッカ先生との毎朝のお稽古で体の動きがよくなってきて早く動けるようになるにつれ、出来ることも増えたので、ナジェスタ達遊牧民の踊りを教えて貰った事、この地方の収穫祭の見学で得た事を取り込んでみた。


今日も今日とて毎朝裏庭の祭壇の前で祈り、舞い踊る。


やはり布のたなびく姿は美しい。


故郷の巫女様達のしていたそれとはもはや別物だけど、ここの土地神は風神様だし、こういう動きの速い舞でもいいのではないだろうか。神様が楽しんで頂ければいいのである。

残念なのは自分で舞い踊っている以上、自分じゃそれを楽しめない。

踊るのも楽しいけど、見るのも好きなんだよねえ。

せめて一緒に踊ってくれるひとがいればなあ。


それでも最近は家庭教師に来てくれた音楽の先生が演奏してくれるので高揚感もまた一段と上がった。今まで音楽の授業苦手にしててごめんよ、先生。

でも練習頑張り過ぎたわけじゃないのに、関節脱臼しちゃうんだもの。

仕方ないので楽器の扱いは常識程度を学んだら、お唄を歌う方に授業内容は変更された。

幸い咽喉はそこまでやわでもなかった。

先生は絵画もできるそうなので、音楽よりはそっちの方が気が落ち着いていいかな。


さて、高揚感と同時に内なるマナとやらも高まってる気がする。

イーザン老師の魔術講義でマナの概念を理解し知覚できるようになったことで、外なるマナも手の動きに追随してうねるように集まって来ているのが把握できる。


今はうまく制御できているけれど、どうしよう、これ。


わたしの魔力容量は一般人並みだそうで魔術師として大成するのは難しい、なので高まっても溜め込む事はできず、集まっても危険な魔術行使は避けないといけないので、無意味に放出霧散するしかない。


せっかく祭壇の前だし、どうせなら神様に奉納してしまおう。

神様はたくさんいるだけにどちら様にしようか悩む。

ここは水の大神ドゥローレメと眷属の雨雲の神様達に奉納して雨乞いをしよう。

夏だけに。

毎年水不足で困ってるからね。


うねりを神像を通して天の神様に捧げると、体に籠りつつあった熱も消えてすっきりした。

ふいー。



「あら?お嬢様、雨が降りそうですよ。今日はこれまでにしてお屋敷に入りましょう」


ハンネが空に黒雲が立ち込めてきたのをみて告げた。

どうやらわたしにも水やりができそうだ。


よっしゃ。

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2022/2/1
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