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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第一章 森の獣
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第29話 来訪者

秋が近づいてくると、獣たちの動きが活発化して人里近くでも出没するようになる。

獲物が少なくなる冬の前なので毎年のことだけれども、近年は大型化して危険なので父さんからレベッカ先生が一緒でもしばらく森に入らないよう釘をさされてしまった。

初老といってもいい年齢の父だけれど、強面で口調からは想像もつかないほどの愛妻家で家族思いなのである。


「昨年、オルステンド男爵にも伝えておいた、この領地の狩人に任せるのはちと危険でな。本来は騎士の業務だが領主が不在なので騎士もいないのだ。わたしの権限では領地自体が危険な事態に陥らない限り自由に兵士も動かせん」


平和でいいことなのだが、もともとここにはろくに兵士もいないし訓練も積んでいないから無駄死にするだけだろう、と付け加える。

前に会ったアグラーは武装した大人の男性が数人いればさほどの脅威ではないらしく、もっと強力な獣がいるのだとか。


「先日お隣の領地の結婚式に招待された時にも伺ったのだけれど、この地方はどこも同じみたいなのよ。兵士を動員して追い立てた場合隣接領地に逃げたりする場合もあるんですって」

母さんが説明を補足し、改めて父さんがわたしやヨハン兄さんにわかりやすいように教えてくれる。

要約すると、通常大規模な狩りをする場合近隣の領地に動員兵力を通報する。

歴史上、連絡を怠って誤解から戦争に発展したこともあるという。狩を装って奇襲をしかけたこともあるとか。そういったことにならないよう定期的に害獣を狩る騎士がいたり、ハンターを雇ったりして増えすぎたり大型化しないように調整をするんだって。税を払う民衆を守るのは領主の義務で平和な世の中なので騎士達の腕の見せ所でもあるそうな。


経費削減の為、領主様からも不要な兵士は解雇するよう指示があり、守るべき領主もいないこの領主館の兵力は20名にも満たず、定期的に害獣を狩る騎士もいない。

他の領地には騎士がいて武芸大会で剣闘や馬上槍大会が開かれ遍歴騎士が参加したりするので腕利きが集まるのだとか。


ん?近隣にも迷惑かけてる獣ってうちの領地で繁殖してるんじゃない?

ヨハン兄さんも同じ事を考えたらしい。


「この問題ってそのうち他の領地からも抗議が来たりしない?」

「かもしれん、獣には人間の領地の境界線などない。他の領地では個体数を調整している」


生態系管理の為、狩りつくすことはしないそうだ。

うちの場合は領主がケチなので今まで予算が出なかったらしい。


隠れる所が多い森の中で安全を確保するのはレベッカ先生でも難しいといわれては、残念だけど仕方ない。レベッカ先生が一緒なら大抵何処に行くのも許してもらえるんだけど。

それだけレベッカ先生への信頼感が凄い、先生は本当の娘さんを助けられなかったのが心残りなのと、ここが居心地いいから契約を続けているそうだけど。


そして秋に入ると、領主館を訪れる人が増えてきた。

近隣領地と凶悪な猛獣の個体について情報交換をしているらしい。人間にとって危険でなくても牧場や生態系を荒らすものもいるので、そちらも兼ねて。

父さんも領主の許可を得て狩人を募集して狩りを始めた。もともと、徴税や公務の忙しい時期で加えて報酬を支払ったり、狩猟頭数や対象地域を整理する為連日大忙しだ。


忙しい日々が続くので私邸で夕食を取ることが少なくなり、母さんから本館で父の今晩の予定を聞いてくるよう頼まれた。

本館に行くのでお客様に会っても失礼のないように母さんが縫ってくれた外向きの服で多少の刺繍も施してある。試作した染料を使ってみたけれど、なかなか良い翠色が出たと思う。

ハンネと一緒に本館の広間に入った所で階段から降りてきた重武装の戦士の一団と鉢合わせになった。

若いけれども最も地位の高そうな戦士はわたしのような子供が相手でも道を譲ってくれて、美しい所作で名前を名乗り一礼してくださった。やっぱり偉い騎士様らしい。

わたしも習った通り返礼をした。

だが、あちらは眉を顰め皮肉気な顔で呟いていた。


<<お上手だ>>


むむ・・・む、なんか感じ悪い。不快だったけど、ちゃんとお答えしました。


<<恐縮です、サー・エドヴァルド>>


あちらは、なんかぎょっとした目でこちら見て固まっている。

右斜め後ろから控えめにスカートを引っ張られる、ハンネだ。

引っ張ったとき静電気が走ったみたいで、手をばちっとやられてビックリしてる。

そこで思い出した。


あ、しまった。

あああああ、そうだった。

咄嗟に返礼返したけど、この地方の挨拶の返し方違ったんだったあああああ。


ついつい二の姉様に習った通り、右手を左胸から一回転させてまた戻して胸に手を当て、左脚を引いて膝をかがめて左手でスカートを摘まんだけど、こちらの挨拶は両手で左右それぞれのスカートを摘まんで腰をかがめてから少し持ち上げるんだった・・・・・・。


奴隷商人の所では二の姉様に習ったことが上手にできた筈なのに、役に立たずに姉馬鹿だったんだなんて思ったけど、今度はちゃんとできてしまって逆に失敗しちゃったよ。

ああ、姉馬鹿だったなんて思ってて御免なさい・・・・・・。


他の通行人も来たので改めて一礼してさっさと逃げるようにして階段を登り、これまた子供には段差がありすぎるのでハンネの手を借りながら、父さんの執務室にお邪魔した。


「ああ、イルンよく来たね。ちょうど今帝国騎士の方がいらっしゃったのだが、鉢合わせにならなかったかい?」


帝国騎士!?なんか凄く偉そう、あ、でも領主代行の方が偉いのかな?


「ひとりお会いしましたが、エドヴァルド様とおっしゃった方がその帝国騎士?様でしょうか」

「そうだ、失礼はなかったかな?」


う、やばい。

ハンネが口を挟みそうな雰囲気があったので、それを制した。


「その・・・とっさにした挨拶を間違えてしまって、やり直しました」

「そうか、それくらいなら構わないからハンネも心配しなくていい。あちらも東方出身の帝国騎士だそうだ、7つの娘に目くじらを立てるような方ではない」


なんかちょっと、皮肉気だったけどね。

で、帝国騎士って何でしょう。


「帝国騎士というのは、あの白の街道の敷設者、この大陸の国々の頂点に君臨している帝国に仕える騎士だ。大陸中から優れた者を集め、皇帝から直々に叙勲を受けた直臣であり、中にはああして街道を巡回し街道沿いの治安が護られているか監視しているものがいる」


街道上は他国内であっても帝国の領土として扱われ、全ての国は便宜を図らう義務がある。

街道近辺での争いは帝国の経済活動への攻撃として扱われて、紛争を起こした国は一方的に被害を蒙った側であっても関係なく叩き潰され滅亡に追い込まれた国もあるのだとか。


なに、その狂犬みたいな国。


「本来二級街道しか通っていないこの男爵領にわざわざ巡回しに来る帝国騎士ではないが、付近の領地間で連携してあちこちで巻狩りを始めたから監視に来たのだろう。ある程度人手を動員する事を予め帝国軍駐屯地に事前通告は入れてあるので誰かしら来るだろうと思っていたのだが、まさかわざわざ騎士がくるとはね」


駐屯地に騎士は常駐していないし、通常は軍団から士官が巡回がてら来るものらしい。

父さんはいちおう逗留する部屋を用意すると申し出たのだけれど、あちらからお断りして下の町へ降りて行ったのでほっとしていた。

こんな領主のいない館に下手したら弱小国の王様より偉い帝国騎士がいらっしゃっても満足させるような応対できないので。

でも町の宿なんかでいいのだろうか、あのギィエッヒンゲンのホテルくらいじゃないと。


「軍人なので野宿には慣れているし、安宿でも良いとおっしゃるので紹介はしておいた。従卒達が野宿に必要な用具は運搬してきているそうだから心配はいらない」


帝都から大陸中を旅してきたそうなので準備万端らしい、まあそりゃそうだよね。


父さんはまだまだお仕事があるそうなので夕食は母さんと兄さんと取った。

兄さんも来年は12歳で父さんから仕事を習い始めるらしい。

またエルマーくんと遊び始めたので、最近彼らを私邸周辺でも見かけるけどいよいよ大人になる準備かあ・・・。

将来は公務員になるみたいね、前は海に憧れてたし今でもよくエルマーくんと望遠鏡で海を見てる。わたしもそろそろ彼らとは多少親しくなってきた。

オイゲン父さんもヨハンナ母さんもヨハン兄さんも、まだまだ家族という概念になじみのないわたしにはそういう実感は薄いのだけれど。


結局騎士様は特にこの近隣の狩りによる動員を問題視せず、翌日ギィエッヒンゲンへ向かって旅立った。わたしはお見送りにいくのは止めておいたよ・・・・・・まだ変なことやって絡まれたくないからね。


秋の収穫作業が終わった後は領内の収穫祭を見学して過ごし、祭りの時期が終わると今年も苦手な冬が来る。

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2022/2/1
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