★第50話 ハンネの日記④
皆様お久し振りでございます。ハンネです。
底意地の悪い貴族達には本当に悩まされております。
旦那様のおっしゃる通りだったと思います。正面から反抗していた場合、今頃侍女達の実家からあの男に注進が入って役目を解除され実家に戻されていた事でしょう。あの男は思ったほど貴族達から人望はないようです。
天気が悪いある日、いつものように婦長のお仕事を手伝っていると、今日は私の当番では?と声をかけてきた下働きの子がいたのです。
当番というのはもちろんお嬢様の朝のお世話のことです。
その子が奉仕している侍女が当番だったのですがいったいどういうことでしょうか。
慌ててお嬢様のお部屋に行くともぬけの殻です。アルミニウス様もいませんが、さすがに彼だけでお嬢様の護衛を常に行うわけにはいきませんのでこの時間はいつもいません。
彼は下手をしたらほんとに常にお嬢様の側で護衛をしかねないくらいの忠誠心を持っているようですが、やはり男性なのであんまり側にいられても困ります。このお城にお嬢様に真摯な忠誠を捧げてくれる腕の立つものはいないのでしょうか。あの男は探す努力をしているのでしょうか。そうは思えません。
心が千々に乱れますが、まずはお嬢様をお探しすることが先決です。昔家出した事がありますが、今はそんなことはしないはず・・・です。ああ、でももしもの事があったらと思うと恐ろしいです、天気はますます悪くなり雷鳴が聞こえていきました。
行先があの森の神殿なら問題はないのですが。正直あの神殿を改修してそこで暮らすのが一番お嬢様に相応しいのではないかと思います。
とにかく城内を捜して、婦長に人を出してくれるようお願いしようと飛び出したら以前お嬢様の侍女だったジュディッタ様が廊下で硬直しています。
お嬢様の行方を知らないか聞いてみても、何もいわずに茫然としているので何かあったなと思い頬を引っぱたきました。
これは気付けの医療行為です、レベッカ先生もきっと同意してくださいます。
お嬢様は何処か再度問うと指だけ中央塔の方へ向けますが、それだけではわかりません。
首根っこ掴んで引きずっていきます。私ももう成人となりました、こんな小娘引きずるくらいわけありません。農家の女は強いのです。
激しい雷の最中あちこちに人が空を見上げて出てくるようになったのでお嬢様を見かけたものがちらほらおりました。ジュディッタ様にはもう用はなかったのですが、道中自分が当番の娘にわたしが代わるから今朝は寝ていても大丈夫と吹き込んだ事を白状しました。
もう許せません、我慢の限界もここまでです。
私とお嬢様の信頼関係を壊そうとしたこと、お嬢様をひとりにしたこと、これまでの嫌がらせや無礼の数々、お嬢様の侍女から外れてもこうも邪魔をされてはあの男かお嬢様の前に引きずり出して裁かねばなりません。
この娘はこれ以上この城においておけません。
長い階段を登ってお嬢様の所に辿り着くと既にグリセルダが居ました。
グリセルダはお嬢様が気に入った数少ない侍女です。今日の当番でもないのにお嬢様の下にいるとはなかなか感心な娘です。兵士達とお嬢様を遠巻きに囲んでお怒りをお鎮めてくださいとお願いしています。ジュディッタ様もお嬢様を見て雷を操るなんて、と茫然としています。
お嬢様は前にも天の神様に雨を降らして欲しいとお願いしていました。雨も雷も対して変わらないでしょう。お嬢様におねだりされるとはうらやましい神様です。私にも何かおねだりしてもらえないものでしょうか。でも私にはお医者様やお針子さんや音楽教師や魔術師の方々のような特殊技能はありません。残念無念です。
とりあえずジュディッタ様はこの分ならもう平気でしょう、自由にして差し上げます。
お嬢様は楽し気に笑いながら踊っていらっしゃいます、お元気そうで安心しました。
あの男もようやくお嬢様に目を向ける様になったようで、お嬢様の生活環境は劇的に改善されました。まったく鈍間な事ですが、保護者としては現状これ以上の権力者はいませんので今後はお嬢様をしっかりお守りして欲しいものです。
ですが、あの男はお嬢様にお気に入りの本の読み聞かせをおねだりされたのに断って出て行きました。まったくもって信じられません。
お嬢様はとても不機嫌になってしまい私が代わりに読みましょうかといっても、もういいと断られてしまいました。
いじけるイルンスールでした




