冬の終わり
突然の来訪者に、ウィンテルはとうとう自分の仕事が終わる時期を迎えることを知りました。
「こんにちは、冬の魔女さん」
出迎えた先に居たのは、おっとりふわふわした雰囲気の女性でした。淡いピンクのロングコートと帽子が大変よく似合っています。彼女が笑うだけで、陽だまりに包まれるような気分になりました。
彼女は春の魔女。ウィンテルの後にこの塔で暮らし、土地に春をもたらす魔女です。
「寒いところ、ようこそおいでくださいました。……お仕事の引き継ぎのお話でよろしいですか?」
「ええ、そのとおりよ。お茶でもしながらお話ししましょう? 今日は採れたばかりのイチゴを使ったケーキを持って来たのよぉ」
ウィンテルは春の魔女を客室に通すと、手土産のケーキを皿に盛りつけ、紅茶を用意しました。甘いクリームがたっぷりのお菓子を食べるので、少し濃い目に入れました。
「ウィンテルちゃんは若いのに、きっちりとお仕事をしていて偉いわねぇ」
溶けてしまいそうなほど甘いケーキを楽しんでいると、春の魔女はそう言います。
「もう三回目ですから。さすがに慣れますよ」
「そうねぇ。でも、今年は秋のおばあちゃんが早くお仕事を終わらせちゃったでしょう? 大変だったのではないかしら」
確かに大変でした。特に冬の準備は大慌てでやりました。そしてサンタさんに無理なお願いをしたり、湖に落ちた男の子を助けたり。今は管理の仕事をのんびりとできていますが、いろいろあった冬でした。
「準備が忙しかったみたいだから、終わらせるのはゆっくりでいいわ。少し、住民たちがかわいそうですけどね」
かわいそうとは言いますが、もし今から冬終いをはじめれば、ゆっくりしていても平年通りに終わるはずです。春の魔女は、気を利かせて早めに来てくれたのでしょう。彼女はマイペースなようで実は凄く気遣い屋さんなのです。
そんな春の魔女が帰ると、ウィンテルは早速行動に移しました。
まずはじめに、これから降らせる予定の雪を作っておき、冷凍庫の中に保存します。実験器具は片づけて、町はずれにある自分の家に持ち帰りました。それから、仕事の合間を使って次に来る春の魔女が快適に過ごせるよう、塔の中を大掃除しました。どうやらビノは塔の中のいろいろなところで遊んでいたらしく、抜け落ちた白い羽があちこちに落ちていました。
それからは、雪の下で草花たちが芽吹きやすくなるようにさりげなく気温を緩めたり、それでもやはりまだ冬なのでたまに雪を降らせたり。あとはもうほとんどすることがありません。
一方、準備のために毎日塔に来るようになった春の魔女は、太陽の光を調節したり、風を操ったりと、することが多いようです。それでもおっとりとした春の魔女は、のんびり作業を進めていました。
忙しくても、そうでなくても、時間は進んでいきます。気付いたときにはもう、最終日。
「長いようで、短かったな」
仕事が終わるのを名残惜しく感じ、ウィンテルは呟きます。秋が短かったぶん冬は長かったはずですが、こうして春を迎えてみると、なんだか短かったような気がします。
「長かったよ」
ウィンテルの呟きを聞いたビノは信じられないとばかりに言いました。
「もうこき使われないんだなと思うと、清々するね」
どうやらいろいろと頼みごとをしたのが気に入らなかったみたいです。春が近づこうと、ビノの面倒くさがり屋は相変わらずでした。次の冬が来るまでの間、この面倒くさがりな性格を直して見せよう。ウィンテルはひそかに決意するのでした。
春一番が吹きました。
今年のウィンテルのお仕事は、これでお終いです。




