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錯乱

 友人の家へと遊びに行った深夜の帰り道のこと。

 近所に友人の家があったので、よく遊びに行って帰りが深夜になるということを繰り返していた。

 その頃の友人宅は坂の下の方にあって、歩いて二十分とかそんなものだったと思う。



 我が家から友人の家にいく坂道で近い場所が二か所ある。

 公園の話でも書いたが、一つが公園の後ろ、墓地に挟まれた二車線道路が下へと通る道。

 もう一ヵ所が、墓地横に小さいマンションや一軒家を挟んで、少し離れたところにある小道。

 この二ヵ所、それぞれデメリットというか、嫌なところがあった。

 せっかくなので、それも説明しようと思う。



 まず二車線道路の道であるが、こちらの坂は長く、比較的緩やかな角度の坂道である。

 以前は車が通ることだけを想定していたような道路だったので、人が通るような路側帯などあってないようなものであり、車が通る幅しかなく少し危なっかしかった。


 そしてもう一つ嫌なところは、昔は下の道路と合流する辺りには20M四方の広さはありそうな竹林が続いており、密集しているから中は暗く、夜は何かがいそうで通るのが怖かったのを覚えている。

 竹林横の合流地点に数階建てのマンションが存在していたが、何の足しにもならないくらいともかく不気味な竹林だった。

 時代が進むとその竹林はなくなって、同じように小さいマンションでも立ったような気がするが、今はコンテナ貸し倉庫になっている。

 取り壊したなら理由が気になるところだが、もしかしたら記憶違いで駐車場かなにかだったという可能性もある、か……?



 そしてもう一方の小道なのだが、合流地点からやはり10Mくらい行くと、その小道がある。

 下は先ほどの小型マンションと、周りにある一軒家が左右に並び、上へ上って行こうとすると、同じように左右が竹林。

 おまけに急な角度の坂にプラスして急カーブになっており、カーブミラー一つと、心細い電灯が上に付いているだけで、こちらもこちらで怖いものがある。

 何せこちらは車が一台通れるか、という狭い道で、左右は竹林に囲まれているわけで。

 坂の下、坂の上には家があって、この竹林が続いている距離はそこそこあるものの、幅自体は数Mしかないので、実は竹林で遮られているその先には家があるはずなのだが、遮られて見えないし、圧迫感がある。

 数M幅の竹林が数十M続いてる急勾配な坂の小道、といえば想像しやすいか。





 昔は正直、どちらも日が沈んでからは通るのが嫌だったが、墓場の間を通る道の方が竹林が消えてからは通りやすくなった。

 なにせ車の通りがあって道自体は広いわけだし、暗い小道の竹林通るよりは墓場を見ながら帰った方がまだ安心できるからだ。



 あの頃はどうだっただろうか?

 覚えていないが、小道をわざわざ通ったからには、墓場側の竹林はまだ存在していたのかもしれない。

 その日もおっかなびっくりといった感じで、嫌だなぁ、とか思いながら坂道を上っていた。

 いつも通っている道とはいえ、やはり夜通るのは不気味なものがある。

 だが、この日はいつも通りでは終わらなかった。

 まずこの通り道の中ほど、ちょうど竹林ゾーンの真ん中らへんまで来た辺りだろうか。

 ここは急カーブで、坂下にある家々も見えなくなるし、坂上も見えない位置だ。

 坂上が見えたところで、角度的に暗い空がぽっかりと顔を覗かせるだけだが。

 ふと、なんか嫌な気配がした……ように感じた。

 それはあまりにも小さく、気のせいかとか、ビクビクしているからそう感じたように思っただけでは?と言えるような、微かな感覚。

 やっぱり気のせいなのかな、怖がり過ぎなのかなとか、そんなことを思って家に帰宅した。



 この日は我が家には祖母しかおらず、祖母もまたとっくに就寝していた時間で、自分も帰宅してほどほどで寝ることに。

 ベッドが確か壊れていて、ベッドの上に色々と物を置いてたと思う。

 なので、いつもベッドの下で寝ている。

 重めの毛布を被っていたので、秋や冬の時期だったのかもしれない。

 寝てからどれくらい経ったのか、ふっと目を覚ました。

 あれ、まだ暗いな……と寝ぼけまなこな状態で、あれ……おかしいな?と、心臓が跳ね上がった。



 何(・)か(・)に(・)抱(・)き(・)つ(・)か(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)…(・)…(・)?(・)



 それは両手の二の腕に、両足の太ももに。

 まるで誰かが抱き着いて絡みつくような感触があった。

 人だ、と思った。でも同時に、人ではない、とも思った。

 ゾゾッとした。

 次の瞬間、自分は全力で叫んでいた。

 叫びながら、体に絡みついているものを振り払うかのように暴れまわり、急いで真っ暗な部屋からドアに向かって駆け出そうとする。

 無我夢中で部屋を飛び出し、台所で電気をつけると、部屋の方を見てガクガクと震える。



 怖い怖い怖い怖い怖い怖い……



 何も考えられないほどに、ともかく頭が混乱していた。

 人生で初めて、錯乱するという経験をした。

 自分の部屋に得体の知れない化け物がいる……そんなとても恐ろしい気持ちだった。

 しかしこんな絶叫して、ドタバタとやっていたら祖母でも起きそうなものだが、部屋だって数メートルしか離れていないのに全く起きてこない。

 部屋から何かが現れる気配もない。





 しばらく恐怖に怯えながらも、何も起きないことで徐々に落ち着きを取り戻してきたので、恐る恐る、部屋を確認することに。

 部屋の中は、特に散らかっている以外は何もいなかった。

 そして、そこで自分は初めて気づいた。

 自分の左親指の右先端の皮膚が抉れて、出血していることに。

 しかし怪我するようなものは特に見当たらない。

 いや、一つだけ、大きなドライバーは落ちていた。

 だがこれで、こんな怪我するってどんな確率?



 さきほどのあれは、なんだったんだろう?

 寝ぼけてて体に絡まった毛布と勘違いしたのだろうか?

 でも確かに、生々しく誰かにしがみ付かれて絡まれている、人っぽい感触がした。

 あれは錯覚だったのか?

 それとも、変な霊でも連れてきてしまったのだろうか?






 ここからがまた苦い記憶なのだが、それからは怪我の場所が場所だったので、爪を切れないまましばらく時間が経過した。

 治ってきた頃には左足親指の爪は結構伸びて来ていたので、爪を切ったのだが、それがいけなかったらしい。

 足親指の爪の先端、左と右端は爪が上に伸びてくると皮膚にぶつかると思うのだが、その辺りが化膿して膿がでたり、血が出たりと、靴下履いて靴で歩くと、帰ってくる頃には体液で靴下の親指辺りが染まっている……という状態が数年続いた。

 歩かないわけにもいかないし、まるで呪いのように怪我が治ることはなく、かなり長い間苦しめられた。

 クリニックにもいったが、このままだと切開した方が良いかもと言われ、そこまでしたくないと様子見して、なんとか治らないかと願ったものだが、年月はかなり経ってしまったとはいえ、いつの間にか治ってしまったことには喜んだ。



 果たして、すべては勘違い、偶然が重なった……だけなのだろうか?

 偶然ならば、まだいい。

 だが偶然でなかったとするならば……それほど怖い話もまた、ないだろう。

 怖い話が、とても恐ろしい話になってしまう。

 だから、自分が本物の心霊現象に遭遇したら怖いなと思うのは、なんとなく理解してもらえると思う。

 そんな話。

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