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ライド・サイド


妹のミュウが言ったんだ。


ユーティリア様はライド兄様に相応しくありませんーと。


王宮の中庭でお茶会を開いていた妹が、高位貴族の令嬢達を前に、残念そうに頬に手を当てながら。


お茶会に参加していた令嬢達も賛同していたんだ。


だから、俺はユーティリアとの婚約破棄を決意したんだ。


第一王子の俺より6歳下の公爵令嬢、ユーティリアが生まれて直ぐに決まった婚約。


ユーティリアは美しく優秀だが、愛嬌も人間味もない。


そんな婚約者より、可愛らしく愛嬌のある令嬢は沢山いる。


特にチュニカは俺を慕ってくれ、頻繁に会っては、有意義な時間を過ごしている。


俺は、ユーティリアと婚約破棄し、チュニカと婚約したい。


なのに…


「兄上、これは何事ですか?」


夜会でユーティリアを前に、周囲に聞こえるように婚約破棄を宣言すれば、3歳下の弟レイゴが優雅な足取りで近づいてくる。


「レイゴ、お前には関係ない話だ。これは、ユーティリアと俺の問題だ。」


俺が話しているうちに、ユーティリアを背に庇うように俺の前に立ったレイゴは、俺の後ろにいるチュニカを確認し溜息をつく。


「関係あります。兄上はユーティリア嬢との婚約の重要性について理解されてません。」


婚約の重要性?


そんなもの理解している。


レイゴはいつも俺を見下すような発言ばかりのムカつく奴だ。


「第一王子であるライド様は王位を継ぐ方ですから、結婚する方は次期王妃様となります。だから、幼少期から婚約者として王妃教育を徹底的に叩き込むのでしょう?」


チュニカは話しながら俺の隣に立つと、俺を見上げ微笑む。


うん、可愛い。


やはり、結婚するならチュニカしかいない。


「ライド様と結婚する為ならば、私…どんなに厳しくても頑張ります。」


「チュニカ、君なら出来る!」


健気なチュニカを抱きしめると、周囲はざわざわと騒ぎ出す。


俺とチュニカが羨ましいのだろう。


「王妃教育は頑張るだけでは無理です。そもそも、貴方ではユーティリア嬢の変わりにはなりません。」


チュニカが、ユーティリアの代わり?


「チュニカはユーティリアの代わりではない。ユーティリアが代わりだったんだ。」


「は?」


今、地を這うような低い声が聞こえたが…?


俺が婚約破棄したときでさえ、顔色ひとつ変えなかったユーティリアが慌てている。


「レイゴ殿下…」


「ユーティリア嬢は、ユグルタ王国の王家の孫娘です。我が王家は、ユグルタ王家の血を取り入れるため、ユーティリアが生まれて直ぐに兄上の婚約者としたのです。」


何かを言おうとしたユーティリアの言葉に被せるように、レイゴが話し出す。


ユグルタ王国…大陸一の武力と豊かさを誇る大国ではなかったか?


ユーティリアがユグルタ王家の孫娘?


聞いてないぞ。


「覚えていないのですか…私は兄上と共に、この話を聞いたのですよ」


呆れた様子のレイゴが、話は終わりとばかりに、俺に背を向けユーティリアの前に立つ。


「ユーティリア嬢、この雰囲気では夜会はお開きでしょうから、馬車までエスコートさせて下さい」


「よろしくお願いします」


レイゴの差し出した腕をとったユーティリア。


「レイゴ待て! 話は終わってないぞ!」


「終わってます。兄上は婚約破棄し、そちらの女性と結婚するのでしょう? 第一王子という立場を捨ててまで愛を選ぶ兄上は立派だと思います。」


顔だけ振り返り、感情のこもってない言葉で、言いたいことだけ言ったレイゴは会場を去っていった。


第一王子の立場をすてる?


…次期王である、この俺が?


「ミュウ! お前だって、俺にユーティリアは相応しくないと言っただろう?!」


妹ミュウに向かって叫べば、扇を広げ口元を隠したミュウは、軽蔑するように俺を見る。


「嫌だわ、盗み聞きしてらしたの?」


怖いわ、と呟いたミュウは瞳を伏せてから、幸せそうに笑う。


「確かに言いましたわ。 だって、立派なユーティリア様におバカなライド兄様は相応しくないもの。」


俺がおバカ?


ユーティリアが俺に相応しくないのではなく、俺がユーティリアに相応しくない?


「ずっと思ってましたの。ユーティリア様の婚約者がレイゴお兄様なら良かったのに、って。」


笑顔のミュウは、俺を気にせず毒を吐き続ける。


「良かったわ。ライド兄様が婚約破棄を宣言してくれて。生まれだけでライド兄様のモノになっていたモノが、相応しい者の手に渡るもの。」


ーこの後のことは、ほとんど記憶がない。


気づいたら、側にいたはずのチュニカが消えていて。


気づいたら、自室にいて。


気づいたら、父に廃嫡されて婿養子としてチュニカと結婚していた。


あれだけ好きだと言っていたチュニカは、俺を見ると暴言を吐くようになった。


第一王子から子爵家の婿養子への転落を受け入れられない俺は、父の元へ出向いたが会ってすらもらえない。


婚約破棄せずユーティリアと結婚していれば、次期王としての未来があったのだろうか。


レイゴはユーティリアと婚約し、仲睦まじいと噂だ。


互いを思いやり、信頼し合って、互いに優秀。


ユーティリアの1度目の婚約が破棄されて良かったとさえ言われてる。


こんなはずじゃなかった。


ユーティリアと婚約破棄し、チュニカと婚約し直し、幸福な生活を送るはずだったんだ。


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