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(17)究極なるテマ

 それは、神秘的な光景であった。リンドン大聖堂の上空にまばゆく輝くサークルから、神の来臨のごとく讃美歌が、街中に響き渡っている。


 ナタリーとマーガレットのコーラスは、ほとんどぶっつけ本番のわりには上出来と言っていい仕上がりであった。ジェフリーは、まるで自分が歌唱指導でもしたかのように、腕組みして聴き入っていた。


「なんだ!?」

「どうしたんだ?」

 暴動鎮圧に当たっていた歩兵隊や警官隊は、一様にその異変に困惑した。暴れ回っていた人間たちが天から流れる讃美歌を聴いたとたん、凶器を取り落とし、その場に気を失って崩れ落ちたからである。

 その顔からは虚ろな表情が消え、穏やかさを取り戻していた。

「一体、何が起きている?」

 部下の制止もきかず表に出てきたヘイウッド子爵グレン・ヘンフリーは、その光景をまじまじと眺めた。

 その時、子爵は修道女の幽霊にも異変が起きている事に気が付いた。修道女たちもまた、それまでの虚ろな表情が消え失せて、穏やかに微笑みながら、光の中にすっと消えて行ったのだった。

「魔法捜査課がやってくれたという事か。レッドフィールドめ」

 ヘンフリーは、神々しく輝く空を仰いでにやりと笑った。


「成功だ!」

「やった!!」

 情報局は、次々と入ってくる暴動終結の報告に湧き立った。抱き合って喜ぶ者あり、両腕を上げて歓声を上げる者あり、という様相だった。

「お疲れさま!」

「素敵だったわよ」

 女性局員たちが、『即席の歌姫』ナタリーとマーガレットの周りに集まってその労をねぎらった。ナタリーは、胸を押さえてデスクに手をついた。

「口から心臓が飛び出るかと思った」

「外でやってちょうだい!」

 くだらないジョークにも、局員たちは爆笑で応えた。

「さあ、ここからだぞ!」

 ジェフリーはパンと手を叩いて、局員たちに号令をかける。

「警察や衛生局と連携して、被害状況を把握するんだ!くそったれの保安局にも連絡をつけろ、いがみ合いは全部終わってから改めてやろうってな!」

 だいぶ私的な感情も含めつつ、ジェフリーは各所に連絡をつけるため、自身でオフィスを出て行った。


「上手く行ったみたいだね」

 大聖堂の前のバラが咲く芝生に、魔力を使い切ってくたくたになったブルーたち3人が、背中合わせでへたり込んでいた。

「ご苦労様でした」

 ミランダが、力の抜けた調子で他の面々をねぎらった。ブルーは笑って応える。

「二人がいなきゃ出来なかったよ。ありがとう」

「あなたの、無茶苦茶な作戦が成功したのよ。私達じゃ、とても思い付かない」

 ジリアンに、ミランダも同意する。

「思い付いたとしても、実行するのが常軌を逸しています。普通ではありません」

「それ、褒めてるの?」

「最大級の賛辞ですよ」

「何でもいいよ」

 ブルーは空を仰いだ。作り出した音響魔法のフィールドが、徐々に消えてゆく。 

 周囲に、やがて刑事や警官隊が集まってきて、3人と一匹に盛大な喝采と拍手を送ったのだった。


 あらかたの人員が出払った重犯罪課のオフィスでも、デイモン警部やアーネット達が握手して労を労い合っていた。

「よくやった、レッドフィールド君」

「みんなの勝利ですよ。誰が欠けたって、達成できませんでした」

 その時アーネットの杖に、真っ白な点滅が起きた。魔法電話の着信は人によって大雑把に色分けしているのだが、それは見覚えのない色だった。

「…もしもし?」

『お久しぶりです、アーネット』

 その柔らかい声は、元恋人カミーユのものだった。

「元気そうだな」

『そちらも変わりないようで、安心しました』

 ほんの数秒、沈黙があった。話を切り出したのはカミーユだった。

『さきほどのご依頼ですが、ドロテオ・バンデラ殺害は阻止しました。殺害未遂の犯人はアズーラ・エウスターチオです』

「間に合ったのか!」

『どうにか』

 アーネットは胸をなで下ろした。

「助かったよ。ありがとう。その…済まなかったな、電信なんて急でぶっきらぼうな依頼をして」

『急で、ぶっきらぼうなのはよく知ってます』

 そう言ってカミーユは笑う。

「それで、アズーラ・エウスターチオはどうしたんだ」

『逃がしました』

「そうか。まあいい、ドロテオ殺害を阻止できただけでも…」

『いえ、そうではなく』

 カミーユは突如訂正を入れてきたが、アーネットにはその意味がわからなかった。カミーユは続ける。

『アズーラを、逃がしたのです』



「はあ、はあ、はあ」

 カミーユとの戦闘でダメージを負ったアズーラは、ホテル「レザボア」の付近の裏路地まで歩いてきていた。それほど魔力を消耗した覚えはないのに、体が重く、歩くのがやっとだった。

「あの銀髪の魔女め…それに何よ、この下手くそな讃美歌は!こんな素人どもに…」

 そう、恨み節を呟いた時だった。慌ただしい足音が近付いてくるのに、アズーラは気付いた。

 それは、間違いなく自分の方に向かっていた。

「な…何だ?」

「本当にバカな子」

 前方から、女の声がした。

「そこが可愛いのだけれど」

「エスメラルダ!」

 声の主はエスメラルダ・バンデラであった。エスメラルダは、アズーラに近寄ると頬に手を添えた。

 それと同時に、背後からスーツの男性と警官隊四名が現れた。

「アズーラ・エウスターチオ!両手を上げてこちらを向け!!」

 魔法の杖を構えるそれは、アーネット・レッドフィールド巡査部長であった。アズーラは驚愕する。

「魔法捜査課!?ど、どうして!?」

「これよ」

 エスメラルダは、アズーラの首をぐいっと持ち上げる。すると、首筋に文字列のようなものが光っていた。

「あなた、おそらくカミーユ・モリゾあたりとでも戦ったんでしょう?その時、追跡魔法を埋め込まれたのよ。それを、あの魔法使いの刑事に伝えて追わせたというわけ」

「あ…あの時か!」

 アズーラは、またしてもカミーユという相手に恐怖を感じる事になった。自分を攻撃する最中、わざと逃してエスメラルダの元まで泳がせる計略を立てていたのだ。

「お前はアズーラの仲間だな!質問がある、手を上げてこちらの指示に従え!」

 アーネットが叫ぶと、警官隊が二人を包囲した。

「エスメラルダ、まずいわ。魔法が使えない」

「カミーユ・モリゾが何か仕掛けたのね。食えない女」

 エスメラルダはそう言うと、魔法の杖を取り出す。

「残念ね、色男。まだ私達と釣り合いが取れるほどじゃないわ」

「お前、もしやエスメラルダ・バンデラか?」

 杖を向けたまま、アーネットは詰問した。エスメラルダは不敵に笑う。

「ふふ、だったらどうすると言うの」

「色々と訊きたい事がある」

「何も犯してない一般市民に?」

 堂々と言ってのけたエスメラルダは、杖をひと振りした。

「私の事なら、明日の新聞を読むといいわ」

「待て!」

「ごきげんよう」

 アーネットは拘束魔法を飛ばしたが、エスメラルダが一瞬早く、その姿はアズーラともどもその場から消えてしまったのだった。

「くそ」

 追跡対象が消えた路地を、アーネットは恨めしそうに睨んだ。そしてエスメラルダが言った、明日の新聞とはどういう意味だろうかと考える。

 明日の新聞は、どう考えてもこの未曾有の大事件について紙面の大半が割かれると思われた。それ以外に何があるというのか。

 考えがまとまらないので、アーネットはかぶりを振って、警官隊とともにその場を引き揚げた。


 

 一方で情報局には、暴動以上に奇怪な報告が舞い込んできており、局員たちは困惑の色を隠せなかった。

 暴動で死亡したと見られていた人々が、蘇生しているとの報告が次々に寄せられているのだ。

「どういう事だ?詳しい情報は」

 ジェフリーは、保安局から派遣されてきた人員に訊ねる。

「原因はわからない。ただ、クリーム色のドレスを来た若い女の幽霊を見た、という報告が同時に入っている」

「また幽霊か」

「俺達保安局は情報を掴むのが仕事だ。取りまとめて総合的に管理するのは、お前達情報局に任せる」

「わかったよ」

 ジェフリーは諦めたように、粛々と入ってくる情報を整理する事に専念した。


 ブルー達は、大聖堂前にそびえる女神の像を見上げながら、大人たちからの差し入れのフィッシュ&チップスと、コーヒーで寛いでいた。ライトニングにまで干し肉を振る舞ってくれる、気の利かせようである。

「ミランダ、君はあの修道女の霊が、誰かに操られてるって言ったよね」

 ブルーが訊ねる。

「はい」

「操ってたのは誰なの?例の、アズーラ?」

「わかりません。状況から見て、アズーラという魔女である可能性はありますが」

 なんだか煮えきらない返答である。

「ひとつハッキリしているのは、今回の暴動は、あの修道女たちの魂にある種の"負荷"をかける事で引き起こされた、という事です」

「負荷?」

「はい。サリタ・バンデラの魂に対しても、同じ手法が採られました。束縛された魂は負の感情を周囲に撒き散らし、自然や精神のリズム、バランスを狂わすのです。」

 ブルーは、それを訊いて背筋が寒くなる思いがした。

「何それ。じゃあ、まるでサリタの件は、このための実験台だったみたいじゃないか」

「いいえ、ブルー。今回のリンドン市内で起きた件ですら、実験だったのではないかと私は見ています」

 ミランダの口調は、それまでのどこか飄々とした雰囲気ではなく、ごく真面目なものに変わっていた。

 そこで、それまで黙っていたジリアンも口を開く。

「そうね。いくら何でも計画性がなさすぎる。仮に何かの陽動だったとしても、ここまで被害を拡げるのは自分自身にとってもマイナスになるわ」

「非常に未熟なものを感じます。自分が何をしているのか、わかっていないというか。そしてそれこそが、事件を引き起こした何者かの恐ろしさでもある」

 ミランダの言葉に、ブルーもジリアンも頷いた。要するに、何か目的はあるが、そのためには何をしでかすかわからない相手という事だ。


『なるほどな』


 突然、どこかから女の声がした。

 大人の女の声だ。三人は周囲を見渡したが、誰も見えない。その声には、三人を警戒させる何かが感じられた。

「誰!?」

 ジリアンが立ち上がって周囲を見渡す。

『魔女の息のかかった少年少女に最大限警戒しろ、との事だったが、納得したよ』

「誰だ!姿を見せろ!」

 ブルーも立ち上がって、杖を構えて叫ぶ。すると、ライトニングが大聖堂の周辺にある木立ちの一角に向かって唸り始めた。

「そこか!」

 ブルーは、杖を一閃して魔法を放った。すると、空間が一瞬歪んで、その中から黒いローブで全身を隠した、何者かが姿を現した。ブルーの放った魔法は見えない障壁に弾かれて、消えてしまった。

「何者」

 ミランダも杖を構えて、黒衣の女に問いかけた。ローブのフードからは、真っ白な細い顔と、眩いブロンドが覗いて見える。目元は隠れていてわからなかった。

「どうしたものか。今なら始末するのは容易だが、殺すには三人とも、あまりにも惜しい逸材でもある」

「何を言ってるんだ?さては、お前がこの事件の首謀者か!」

 ブルーはいきり立ったが、目の前の黒衣の女からは、言い知れぬ禍々しい何かを感じるのだった。

「そう急くな。大人の世界では挨拶と礼儀が大事だと、魔女は教えてくれなかったのか?そうだな、差し当たり今回は挨拶の手土産を置いて行く事にしよう」

 そう言うと、黒衣の女は美しい人差し指を優雅に、ブルーたちの上に向けた。

 一切の呪文を詠唱することなく、指先からひとつのエネルギーが放たれ、ブルーたちの頭上を飛び越えて行く。その先にあったのは、大聖堂の女神像であった。

「また会いましょう、子供たち。生きていればね」

 そう不気味に笑うと、黒衣の女の姿は木立の闇の中に消えてしまった。

「待て!」

「アドニス君、後ろ!」

「え?」

 黒衣の女を追おうとしたブルーは、ジリアンに肩を掴まれて振り向いた。

 それは、およそ信じ難い光景だった。大聖堂のシンボルである翼の女神像が、まるで粘土の人形のように動き出したのだ。

「うわわっ!」

 考える隙もなく、女神像は台座を踏み壊すと、ブルーめがけて拳を振り下ろした。女神像は台座の上にあると距離感のせいで大きさが実感しにくいが、ゆうに15mはある。いつか、ブルーとジリアンが地下遺跡で対峙した魔導人形より、大きさだけならはるかに上回っていた。

 すんでの所でかわしたブルーだったが、休む間もなく今度は背中の翼を振り回してくる。翼が直撃した木や舗道は、音を立てて折れ、砕けてしまった。

「なんか、ちょっと前にもこんなのと戦った覚えがある!」

「デートの思い出語ってる場合じゃないでしょ!」

 ブルーとジリアンは、揃って杖を構え衝撃魔法を放った。それは女神像の頭部を直撃した。

 しかし、女神像は全く堪えておらず、どこにも損傷はないようだった。

「きっ、効いてない!」

「はあ、はあ…さっきので私達、魔力を使い果たしちゃったんだよ!」

 ジリアンの息が荒い。ブルーも立っているのがやっとだった。

「ライトニング、力を貸して!」

「ワン!」

 ライトニングから立ち昇ったオーラが、ブルーに魔力を供給した。しかし、ライトニングもそろそろ限界のようで、先程とくらべるとその魔力に勢いはなかった。

 だが、やるしかない。ブルーは残る力を込めて、一気に魔力を解放した。

「いけーっ!!」

 エネルギーの奔流が、ブルーの杖から怒涛のように、女神像の心臓めがけて放たれた。

「きゃああっ!!」

 ブルーの放った魔法の余波が、大聖堂の広場一帯に拡がって、舗装や縁石を打ち砕く。ジリアンは身を守るので精一杯だった。

 さすがに女神像もいくらかダメージはあったようで、胴体にはヒビが入っているのが見えた。

 しかし、見た目ほどのダメージはないらしく、再び女神像はその拳をブルーめがけて振り下ろした。

「逃げてください」

 そう言って、ブルーの前に立ちはだかったのはミランダである。ミランダは魔法による障壁を形成し、女神像の拳を受け止めた。

 しかし、明らかに魔力が足りず、障壁はいとも簡単に砕かれてしまう。その衝撃で、ミランダは吹き飛ばされて生け垣に叩きつけられた。

「あうっ!!」

「ミランダ!」

 ブルーとジリアンは、ミランダに駆け寄る。しかし、二人ともすでに体力は限界であり、思考もままならない状態だった。

 女神像が拳を改めて振り下ろすのを、ひょっとしてこれが人生最後に見る光景なのだろうか、と三人が思った、その時である。


 誰かの手がスッと現れて、女神像の拳を受け止めた。

 音もなく、まるで赤子の手を受け止めるように、その美しい白い手がそこにあった。


「!?」

 ブルー達は、何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと、その手の主を見る。

 それは、黒いローブに真っ直ぐな黒髪を垂らした、妖艶な魔女だった。

「せ…先生…」

 ブルーは限界に近い意識の中で、師であるテマ・エクストリームの姿を認めた。ブルーは、安心したようにその場に崩れ落ちた。

「アドニス君!」

 ジリアンは、慌ててブルーを抱き留めた。気を失ってはいるが、生きてはいる。

 安心しつつ、突如現れた黒髪の魔女の姿をまじまじと見た。

「よく耐えた、若き魔女たち」

 その、深みと凄味をたたえた声色に、ジリアンとミランダはとてつもない畏怖と安心感を同時に覚えた。

 いま、ブルーは確かに「先生」と言った。この妖艶な魔女が、初めて目にするアドニス・ブルーウィンドの師らしかった。

「お前たちにばかり困難を押し付けて、申し訳ないとは思っている。こんな事では、罪滅ぼしにもならないが」

 そう言って、テマは女神像を振り向いた。

 女神像は再び動き出し、今度はテマを標的に、両手を組んで思い切り振り下ろしてきた。

「あぶない!!」

 ジリアンが叫ぶが、テマは一切避けようとしない。

 女神像の手が、テマの頭上に到達し、細い体を粉々にするかと思われた、その時だった。


 テマの目の前で、女神像の動きが止まった。テマは、微動だにしていない。魔法の杖はおろか、指一本さえ動かしてはいない。


 だが、女神像の両腕は、まるでハンマーを打ち付けられたビスケットのように、粉々になってしまったのである。


「な…なに!?」

「わかりません」

 ジリアンとミランダは、目の前で起きている事が信じられなかった。

 女神像はなおも攻撃を続ける。今度は、脚でテマを踏み潰そうと試みた。すると、テマは今度こそ魔法の杖を取り出す。それは、ローブの内側から取り出した時には20cmほどの杖だったのに、一瞬で身の丈ほどもある巨大な杖に変化した。

 テマは呪文を詠唱するかと思いきや、振り下ろされてくる女神像の脚を、その杖の先端で軽く受け止めた。


 次の瞬間、15m以上ある女神像は、杖の先端から放たれた目に見えないエネルギーに晒され、全身が砂粒と化して空高く吹き飛ばされ、消え去ってしまったのだった。

 ジリアンとミランダは、その圧倒的な実力に恐れをなした。今まで、カミーユと同等だという認識でいたが、そうではない。恐るべき実力者であるカミーユの、さらに上の存在である。


 テマは何事もなかったかのように杖を懐に仕舞い、ジリアン達を振り向いた。

「お前たちが、アドニスに力を貸してくれている若き魔女だな。私はアドニスの師、テマだ。礼を言う」

「テマ…カミーユから、名前だけは聞いています。テマ・エクストリームと」

 ジリアンは、何度となくカミーユから聞かされた名を言った。テマは小さく笑う。

「それは誰かが勝手に呼び始めた名だ。だが、それで通っているなら構わない」

「おかげで、助かりました。ありがとうございます」

「気にするでない」

 テマは、きっぱりとそう言った。

「知っていようが、私は自由には動けぬ。人の世に手出しをしてはならぬという、古代より続く魔女の掟と、私個人に課せられた咎によってな」

「では、今こうして私達に力を貸してくださる事も…」

「そうだ」

 テマは、静かにそう言った。

「心配するな。その辺は上手くやっている。だからこそ、こうしてお前たちを助けられる事もある。だが、もっとも重い掟を破った時には、もっとも重い罰が待ち受けていると思え。かくいう私も、過去に罰を受けた身だがな」

 それは、ジリアンではなくミランダに向けられた言葉だった。ミランダは『正規』の魔女だと、テマは見抜いていた。

「今、わたしが力を貸せるのはここまでだ」

 そう言って、テマはローブを翻し背を向けた。

「成長せよ、若き魔女たち。いつか、このテマの地平に辿り着いてみせよ」

 テマの姿は、一瞬で風の中に消えてしまった。あとに残されたジリアンとミランダは、疲れた顔を見合わせた。

「テマ・エクストリームか」

 ジリアンは、テマと対峙した緊張で足が強張っている事に気付いた。

「恐るべき魔女です。何者なのでしょう。一体、どこまでの実力を秘めているのか」

 普段あまり感情を見せないミランダも、さすがに驚きを隠せないでいるようだった。テマの存在感そのものが、何もかもを圧倒していたのだ。

「彼女に師事してるアドニス君も凄いけどね。この子も並大抵じゃないの、納得した」

 ジリアンは、腕の中で気を失っているブルーの顔を見た。この少年もまた、一体何者なのだろう。

 だが、今はとにかく疲れた体を休めたいと思うジリアンだった。


 リンドン史に残る大変な一日が、ようやく夕刻を迎えようとしていた。


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