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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
79/86

十二

七-十二

 でも着物を()ていない人間の姿(すがた)だけは、(だれ)調(しら)べようがないのです。この調査(ちょうさ)風呂場(ふろば)(しの)()める、ボウさんしかいないのです。」

「……。」

 ボウがどう受け()ったのか、最後(さいご)まで聞いていたのか確認(かくにん)できないが、クンクはこれ以上(いじょう)(ねむ)りの邪魔(じゃま)をしてはいけないと、この場を引き上げた。

 だがミンクから、思いもかけない報告(ほうこく)()けた。何とボウが、今夜(こんや)風呂場(ふろば)を見てやると言って、差江(さえ)に向かっていると言うのだ。

 そろそろ夕日(ゆうひ)が西に(かたむ)き、風が(つめ)たくなるのに大丈夫か。(いそ)いで後を()って、差江(さえ)方面(ほうめん)へ走る。

「ボウさんは城の南に()つ、(やぐら)(ふた)つある屋敷(やしき)に入るそうです。」

「分かりました。あの屋敷(やしき)はボクも知っています。」


 海伝(うみづた)いの雑木(ぞうき)(ばやし)を走っていると夕日が(しず)み、急速(きゅうそく)寒気(かんき)(おそ)ってきた。ボウがこの(さむ)さの中を差江(さえ)に向かっていると思えば、速度(そくど)をゆるめる気にはなれない。

 半刻(はんこく)ほど走って(はやし)()けると、差江(さえ)(あか)りが見えてきた。クンクは速度(そくど)(たも)ったまま、ボウに話しかけた。

「ボウさん、今どこですか。ボクも屋敷(やしき)の近くに来ています。」

「おう、クンクも来たのか。(おれ)風呂場(ふろば)に入って、屋根裏(やねうら)(はり)(かく)れているところだ。」

「わあ、もう入っちゃったのですか。風呂場(ふろば)って、どんな所ですか。」

()(くら)で何も見えないが、ポカポカ(あたた)かくて(ねむ)くなりそうだ。」

 クンクは門扉(もんぴ)隙間(すきま)から庭に入った。対面(たいめん)(へい)まで半丁(はんちょう)(約五十m)ほどある庭には、等間隔(とうかんかく)十本(じゅっぽん)松明(たいまつ)(とも)り、かなり明るい。


 小石を()()めた庭には、数個の灯籠(とうろう)(さくら)の木が、松明(たいまつ)(あか)りでユラユラ()れながら、浮かび上がっている。

 人間はいつ風呂場(ふろば)に入るのだろうか。そこで(なに)をするのだろうかと、想像(そうぞう)もつかない人間の行動が、早く()りたくて仕方(しかた)がない。

「ボウさん、人間は()ましたか。」

「おう、(おす)ばかりだが、何匹(なんびき)(あか)りを()って入って来たけどよ。入口の外で(はだか)になるなり、(ゆか)の石に水をぶっ()けて煙幕(えんまく)()りやがった。()(しろ)になって、(なに)も見えやしない。急に風呂場(ふろば)(あつ)くなって、人間の体温(たいおん)感知(かんち)できないんだ。」


 ヘビは暗闇(くらやみ)でも障害(しょうがい)(ぶつ)があっても、動物の体温(たいおん)感知(かんち)できる。しかし煙幕(えんまく)(ねつ)で、それもできない。()(ぱだか)になるのは分かったが、()ぐに煙幕(えんまく)で身を(かく)すとは。

 人間は着物を()(はら)うと、身を(かく)さねばならない、どんな理由(りゆう)があるのか。それほど警戒心(けいかいしん)の強い人間に、ボウが近付(ちかづ)くのは危険(きけん)だ。

 ミンクが早々の退去(たいきょ)を伝えたが、ボウはもう少し観察(かんさつ)すると言う。そこは(あたた)かくて居心地(いごこち)がいいからに決まっている。

「ボウさん、長居(ながい)して見つからないよう、気をつけてね。」

煙幕(えんまく)が少しくらい()れる時もあるだろう。それを見逃(みの)さずに、しっかり映像(えいぞう)を受け()ってくれよ。」


  ボウは風呂場(ふろば)調査(ちょうさ)で、人間の(はだか)の映像を送ることができなかった。だが同じ屋敷の寝室(しんしつ)で、(おす)(めす)寝間着(ねまき)()いで一枚の布団(ふとん)に入る情景(じょうけい)があるので、それを見てやると寝室(しんしつ)へ向かった。

「ここは二匹だけだが、(おす)(めす)()(ぱだか)になり、煙幕(えんまく)はないので映像(えいぞう)を送ることができるぞ。」

 だが(さむ)(ふゆ)なので、二匹が布団(ふとん)(かぶ)ったままモゾモゾしていたが、一度も布団(ふとん)から出ることはなかった。

 期待した風呂場(ふろば)と、寝室(しんしつ)調査(ちょうさ)失敗(しっぱい)し、リュウビは落胆(らくたん)(かく)さなかった。

 建物が完成(かんせい)近付(ちかづ)いているのに、もてなし役の準備(じゅんび)につまずいているのが(くる)しい。


 トポスはそんなリュウビの苦渋(くじゅう)を、知ってか知らずか、()り切っている。

「ショウさん、ご(らん)の通り外観(がいかん)は完成したぜ。内装(ないそう)も大まかにできているので、一度(いちど)グルッと見て(まわ)るかい。」

 得意(とくい)げなトポスの言葉どおり、(あらた)めて正面から見た四層(よんそう)屋敷(やしき)は、威風(いふう)堂堂(どうどう)(かがや)いてそびえている。うながされるまま門をくぐり、松並木(まつなみき)(はさ)まれて石畳(いしだたみ)を通り、正面(しょうめん)玄関(げんかん)に着いた。

---よくぞここまで。


 言葉が出ない。真紅(しんく)玄関(げんかん)(とびら)近付(ちかづ)くにつれ威圧(いあつ)を感じる。

(じつ)見事(みごと)出来(でき)()えです。トポスさん、今はこれ以上見ないようにしましょう。内部(ないぶ)は次の(たの)しみにとっておきます。」

 門から正面(しょうめん)玄関(げんかん)に来ただけで、圧倒(あっとう)されたのに「これ以上に(すご)い。」と豪語(ごうご)する内部まで見ると、気絶(きぜつ)するかもしれないと、ショウは思った。とんでもない屋敷(やしき)はできたが、もてなし役が間に合うだろうか。


 岩の前で情報(じょうほう)を集めていたミンクが、血相(けっそう)を変えてリュウビの住処(すみか)へ向かった。

「ミンクさん、どうかしたのですか。」

 ショウが()いかけても(こた)えない。一直(いっちょく)(せん)に向かうので、ミンクの後を()う。リュウビの住処(すみか)に着いたミンクは、大声で(さけ)んだ。

「リュウビ様、地上はもう春で(さくら)()き始めております。」

 その声を聞いて、リュウビが出てきた。

「そのようですね。土ネズミのコロからの連絡では、(しろ)人間(にんげん)(たち)が花見の屋形船(やかたぶね)を出すと言っていました。」

 その(なに)一大事(いちだいじ)なのか、(つぎ)の言葉を待った。

花見(はなみ)(ふね)には、何人(なんにん)ほど()り込むのでしょう。」

「船は二隻(にせき)で、三十(さんじゅう)(にん)ずつ()り込むようです。一隻(いっせき)城主(じょうしゅ)家臣(かしん)屋形船(やかたぶね)で、もう一隻(いっせき)踊子(おどりこ)囃子(はやしこ)と、世話人(せわにん)が乗る演舞船(えんぶせん)です。」

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