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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
一
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78/86

十一

七-十一

 その姿は全身が真(ま)っ黒(くろ)で胴体(どうたい)にウロコはなく、ゴツゴツした多数(たすう)のイボのような突起(とっき)に覆(おお)われ、鯛といえど体長は四尺(よんしゃく)超(ちょう)で、一対の複雑(ふくざつ)な形の角(つの)が後方(こうほう)に伸び、長いヒゲも蓄(たくわ)えている。金色(きんいろ)の眼光(がんこう)は、身がすくむほど鋭(するど)い。

 魚から見ても無気味(ぶきみ)な姿だが、これが一千(いっせん)万年(まんねん)も生き続(つづ)けてきた不死魚(ふしぎょ)の姿なのだろう。


「リュウビ様の傷が、回復(かいふく)されているので安心しました。」

「ようやく元の姿に戻(もど)れ、建築(けんちく)中(ちゅう)の屋敷を支援(しえん)することができます。ショウさんの提案どおり、太郎という鯛漁師(たいりょうし)を海底に招(まね)けば、私(わたし)達(たち)の未来は安泰(あんたい)でしょう。」

 リュウビが元の姿に戻(もど)れば、数々の術(じゅつ)を使うことができて、凄(すご)いことになる。

「太郎を屋敷に招(まね)き入れたら、亀族(かめぞく)にも接待(せったい)役(やく)をいただけるのでしょうか。」

 だが、リュウビは顔を曇(くも)らせた。まだ何(なに)か未解決(みかいけつ)の問題があるようだ。

 太郎をもてなすために、魚族(ぎょぞく)やタコ族(ぞく)が人間に化身(けしん)するのだが、肝心(かんじん)の人間づくりには問題(もんだい)が山積(さんせき)しているのだ。

 それはゼクスにも分からず、霊感師(れいかんし)のミンクさえ苦慮(くりょ)していることだ。

「本物(ほんもの)の人間を作らねばなりません。身体(からだ)の細(こま)かな部分の色や形(かたち)、動(うご)きや機能(きのう)が分かるよう、着物(きもの)に包(つつ)まれていない人間を調(しら)べないと。」


 フクロウのジータから入った情報(じょうほう)の中に、人間が全裸(ぜんら)になる風呂(ふろ)という場所(ばしょ)があった。

 日が暮(く)れると、そこで着(き)ている物を全部(ぜんぶ)脱(ぬ)ぎ払って、身体(からだ)を洗(あら)うらしい。ところが風呂場(ふろば)は、虫(むし)一匹(いっぴき)入(はい)れない、閉(と)ざされた密室(みっしつ)となる。

「風呂場(ふろば)を見ることさえできたら、身体(からだ)がどんな色や形(かたち)か、だけでも知ることができるのですが……。」

 そこへクンクから連絡(えんらく)が入った。友達(ともだち)にボウという青(あお)大将(だいしょう)がいて、ずっと前に武家(ぶけ)屋敷(やしき)の屋根裏(やねうら)から、風呂場(ふろば)に忍(しの)び込んだことがあると言う。

 喜(よろこ)んだミンクは、ボウを浜に連(つ)れてくるように頼(たの)んだ。しかし青(あお)大将(だいしょう)は冬の間(あいだ)はずっと土中(どちゅう)深(ふか)くで眠(ねむ)るため、春までは無理(むり)という返事(へんじ)だった。

「時が迫(せま)っているのです。どうにかなりませんか。」


「ボウさんは深(ふか)い眠(ねむ)りに入っています。場所(ばしょ)を教えますので、ミンクさんの霊力(れいりょく)で起(お)こしてみてはどうでしょう。」

 ミンクがボウの眠(ね)っている場所(ばしょ)を特定(とくてい)すると、遠隔(えんかく)術(じゅつ)で霊気(れいき)を吹(ふううう)きかけた。ボウはムックリ起(お)き上がり、地中を這(は)い上がって地上を見回(みまわ)した。そこは北風(きたかぜ)が冷(つめ)たく、若芽(わかめ)の萌(も)える季節(きせつ)とは思えない。ボウは近くにいたクンクを見つけて、たずねた。

「おはよう、春が来たのかい。」

「いいえ、まだ真冬(まふゆ)です。ボウさんに、大切な頼(たの)み事(ごと)があるので、目覚(めざ)めてもらったのです。」

 突然(とつぜん)、ボウがクンクに襲(おそ)いかかった。尾を噛(か)まれそうになったクンクは飛び退(の)き、毛を逆立(さかだ)て、威嚇(いかく)体勢(たいせい)をとった。

「バカ野郎(やろう)、二度と俺(おれ)を起こすんじゃない。」

 ボウは、そう言い放(はな)つと地中に潜(もぐ)った。


「ちょっと待ってください。話を聞(き)いてください。」

「うるさい。もう一度、俺(おれ)に声を掛(か)けたら本当に殺(ころ)す。」

 困(こま)ったクンクは、穴の周(まわ)りをグルグル回る。ミンクも遠隔(えんかく)術(じゅつ)で話しかけてみる。

「ボウさん、お休みのところを相(あい)すみませんが、お願いがあるのです。」

 だが、いくら待てども返事(へんじ)はない。

「寒(さむ)い冬に地上に出るのは苦痛(くつう)でしょうが、急(いそ)いでいるのです。私たちは多量(たりょう)の魚を捕獲(ほかく)している人間という動物(どうぶつ)を調べ、対策(たいさく)を練(ね)っています。協(きょう)力(りょく)していただけないでしょうか。」  

 ボウに反応(はんのう)があった。

「お前は何物(なにもの)だ、どこでしゃべっているのだ。」

 どうやらボウも、人間をよく思(おも)っていない。ミンクは共通(きょうつう)の目的(もくてき)を作れば、協(きょう)力(りょく)が叶(かな)うと考えた。

「私は人間に狙(ねら)われる魚で、ミンクと申します。海の底(そこ)からあなたとお話をしています。共(とも)に人間を調(しら)べ、弱点(じゃくてん)を暴(あば)いてくれませんか。あなたにとっても将来(しょうらい)、きっと役(やく)に立つと思います。」


「驚(おどろ)いた、俺(おれ)が魚と話しているのか。そんな魔法(まほう)を使う化(ば)け物(もの)は、信用(しんよう)できないな。」

 これ以上は逆効果(ぎゃくこうか)になる。ボウに友達のクンクと話し合うよう伝(つた)え、通信(つうしん)を切(き)った。だがクンクがいくら働(はたら)きかけても、返事がない。

「人間ってさ。すぐボク達を追い払(はら)ったり、殺(ころ)したりするので大きらいだ。このままだと、いつかボク達は滅(ほろ)ぼされるかもしれない。あんな身勝手(みがって)な人間なんか、この地上から消(き)えてしまえばいいんだ。」

「俺(おれ)もそう思(おも)っている。お前の頼(たの)み事(ごと)とは何(なん)だ。話によっては聞(き)かないでもないぞ。」

 地中から声(こえ)がした。ボウは聞いていたんだと、うれしくなり急いで頼みごとを喋(しゃべ)った。

 差江(さえ)の武家(ぶけ)屋敷(やしき)の風呂場(ふろば)に忍(しの)び込(こ)み、人間が着物(きもの)を脱(ぬ)ぎ払(はら)った姿(すがた)を見るだけでいい。ボウが見た映像(えいぞう)は、そのまま魚(さかな)のミンクに送られるので、決(けっ)して難(むつか)しいことはないと、一気(いっき)にまくしたてた。


「俺(おれ)の見た映像(えいぞう)が、ミンクという魚(さかな)に送られると言うのか。一体(いったい)どういうことだ。」

「さっき、ミンクさんとお話しましたよね。あの魚は霊感師(れいかんし)のアンコウです。その時にボウさんは、映像(えいぞう)伝達(でんたつ)能力(のうりょく)を受け取ったのです。ボクだけじゃなく、カモメやフクロウ、土ネズミの他(ほか)にも、色々な動物(どうぶつ)が人間の行動を観察(かんさつ)して、映像(えいぞう)を送っています。

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