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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
72/86

七-五

「どうもこうも。差江(さえ)殿様(とのさま)(いそ)いで苗木(なえき)()えたが、あの(くらい)にしか(そだ)っとらん。木はワシ()の思うようには、(そだ)ってくれん。」

 丘の(はず)れにある、八尺(はっしゃく)ほどの木を指さした。四十(よんじゅう)(ねん)五十(ごじゅう)(ねん)も前に()えた木なのに……。

「そんじゃ、まだ氾濫(はんらん)渇水(かっすい)は続いとるんか。」

「いいや。上流(じょうりゅう)に大きな(つつみ)水門(すいもん)のある(せき)を作って川の水を止め、(なが)れる(りょう)調節(ちょうせつ)しとる。雨期は水門(すいもん)を閉ざして大きな()め池にし、雨が少ない夏場は少しずつ流すんじゃ。」

「さすがじゃな。人間には知恵(ちえ)創造(そうぞう)(りょく)があると、ゼクスが言うたとおりじゃ。」


「ワシも、これこそ人間の(わざ)と、感心(かんしん)しとった。じゃがなぁ……。」

「じゃが……って、(なに)かあったんか。」

「ああ、その(せき)が出来てしばらくすると、夏場に川の水が(にご)って(くそ)うなった。」

 磯八は、そうなった因果(いんが)()って腰を()かしたと言う。奥山が禿()げて、トビやタカが()()(うしな)い姿を()した。するとエサになっていた山ネズミやカエルが、一気(いっき)繁殖(ぞうしょく)した。()()ぎた山ネズミやカエルは、食べ物を求めて(ふもと)に下りる。

 また流れを()められた水は(にご)るので、(じょう)(りゅう)()め池は、山の動物の墓場(はかば)になった。


「川の水が()めんようになってのう、川に近い海にも(さかな)がおらんようになった。ワシ()は天地の(いとなみ)みに(さか)ろうて、()(くび)()めたんじゃ。」

 水を汚して(さかな)()えた。磯八の話を聞きながら、背筋(せすじ)がブルッと(ふる)える。

「そうか、海にも海の(いとな)みはある。オラは(たい)をいっぱい()ることばかり考え、仲間(なかま)まで()やそうとした。それが海にとって具合(ぐあい)(わる)かった。」

 (りゅう)は決まって海の中から現れ、(たい)漁師(りょうし)(ちち)標的(ひょうてき)にした。二度(にど)()は、音根と二人で北島へ向かう途中(とちゅう)で、標的(ひょうてき)はオラだった。


 二度(にど)()襲撃(しゅうげき)失敗(しっぱい)したので、(つぎ)(おお)海亀(うみがめ)を使って海に(さそ)った。鯛漁(たいりょう)を防ごうとして(おそ)ったと考えると、これを(くわだ)てたのは……。

「これを仕組(しく)んだ(ちょう)本人(ほんにん)は、まさか魚の(たい)。」

 だが魚にそんな知能(ちのう)技術(ぎじゅつ)があるはずがない。人間が()らせる建物(たてもの)農園(のうえん)を用意し、相手(あいて)をする人間まで調達(ちょうたつ)できるのは……。

「そうか、ゼクスだ。あの楽園(らくえん)を作るほどの能力(のうりょく)があった。ゼクスが(たい)苦悩(くのう)に手を()したに(ちが)いない。」

 磯八も、鯛の作戦(さくせん)と考えるなら(すじ)が通ると言う。

「じゃが海底で、いつでもオラを(ころ)せたのに、なんで生かして帰したと思うか。」

「海に誘い込んで(ころ)すなら、海の底に建物(たてもの)農園(のうえん)世話(せわ)をする人間はいらんじゃろう。太郎さんに海の中を見せ、何かを(つた)えて地上に(かえ)作戦(さくせん)と見たが。」

 展開(てんかい)のつじつまが()ってきた。


「帰したんは海の中にも天地(てんち)があること、多くの(いのち)があることを地上の人間に(つた)えることか。なるほど、地上からは見えんでな。」

 磯八は真相(しんそう)(さぐ)るのが(はや)い。作佐(さくざ)もそうだがこの時代(じだい)の人の、頭の良さに感心(かんしん)する。

「海底には、地上の何百(なんびゃく)(ばい)もの生き物が住んどった。海は広いで、少しくらいの汚物(おぶつ)や、ゴミを流すくらいは(かま)わんと思うとったが、(よご)すのもいけんのじゃ。」

 これが鯛の作戦(さくせん)であっても、海底に(まね)かれたことで多くを体験(たいけん)(まな)んだ。帰っても色々なことに気付(きづ)いている。

 これからは各地(かくち)(まわ)って、天地や海を(まも)必要(ひつよう)(うった)えて歩くことが、自分の役割(やくわり)(あらた)めて痛感(つうかん)した。

 もう音根はいないので、一人(ひとり)で歩こう。


「磯八さんくらいの(とし)なら、大勢(おおぜい)(あつ)まって話を()いてくれるじゃろうが、二十(はたち)()ぎのオラでは(わか)すぎて、(あつ)まってくれそうもないな。」

「え、太郎さんは二十(はたち)()ぎですか。」

 (おどろ)いた顔の磯八に、何歳(なんさい)に見えるかと聞く。

「そうですねえ、三十は()えているかと。」

 そこへ次郎が、葬儀(そうぎ)の事で相談(そうだん)したいと(はま)に来たので、次郎にも()いてみる。

「オラ、何歳(なんさい)くらいに見えるか。」

 口ごもっている次郎にしつこく()くと、昨日(きのう)より(じゅう)ほどは(とし)を取っている顔付(かおつ)きと、うつむいて答えた。

「ウソじゃろ。」

 後頭部(こうとうぶ)を石で(なぐ)られたような衝撃(しょうげき)を受けた。海面に出る直前(ちょくぜん)の、ショウの一言が(よみが)える。

「海から()られたら、(もと)の人間の体質(たいしつ)に戻ります。」


 海底では五日(いつか)と思っていたが、地上では五十(ごじゅう)(ねん)()ぎていた。海を出て元に戻った体質(たいしつ)が、空白(くうはく)歳月(さいげつ)()いかけ、急速(きゅうそく)に歳を(かさ)ねているようだ。

 磯八と次郎の(おどろ)きが(ただ)しければ、(もと)の人間に戻った体質(たいしつ)()ぎた年月(ねんげつ)(ゆる)さない。

 このまま加齢(かれい)すると残された寿命(じゅみょう)は、あと四日か五日しかないことになる。こんな非運(ひうん)があっていいのか、海はここまで残酷(ざんこく)なのか。

「魚を()()ぎんよう、木を()()ぎんよう海を(よご)さんよう(おし)えて、帰したんではないんか。」

 絶望(ぜつぼう)のフチで、乙姫がくれた黒い手箱(てばこ)を思い出した。

 どうにもならなくなった(とき)以外(いがい)は開けてはならないと、こうなる運命(うんめい)を知っていて、(つよ)く言った乙姫。   


 だが海底(かいてい)(やさ)しかった、乙姫のことだ。黒い手箱(てばこ)には延命(えんめい)の薬か、もう一度(いちど)海に入ることができる薬が入っているに(ちが)いない。

「次郎さんに(あず)けた、あの黒い手箱(てばこ)じゃ。中に(とし)をとらん(くすり)が入っとる。あれで(たす)かる。」

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