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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
45/86

十二

四-十二 ()

「ゼクス様、ここにおわします御仁(ごじん)が、地上(ちじょう)太郎(たろう)様でございます。ショウの子息(むすこ)(いのち)恩人(おんじん)として、豊作(ほうさく)(さい)参加(さんか)いただくため、招待(しょうたい)いたしました。」

 皆がゼクスは()(もの)と言っていたが、(つく)(もの)御標(ごひょう)だったのだ。心の中で(むね)をなで下ろす。

---(かんが)えてみれば、ゼクスが(りゅう)でオラを食べると思い込んで、勝手(かって)(ふる)えていたのだ。一太夫は大笑(おおわら)いして、否定(ひてい)までしたのに。


「太郎様、よくおいでくださいました。私は乙姫様と(とも)に、この国の治安(ちあん)を守っております、ゼクスと申します。」

 (たしか)かに声がした。それは耳ではなく、(あたま)の中へ聞こえる。(おどろ)いてゼクスという御標(ごひょう)を見上げると、何も()わりがない。

 乙姫と随臣(ずいしん)や侍達をそっと横目(よこめ)で見たが、誰もゼクスの声に気付かない様子(ようす)でかしこまっている。

(おどろ)かれましたか。私は人間のように(くち)(みみ)手足(てあし)を持っていませんが、意思(いし)遠隔(えんかく)伝達(でんたつ)と言う方法(ほうほう)で、あなたとお話をしています。」

 大きな丸餅(まるもち)を乗せた、白い御標(ごひょう)が話しかけたのだ、やっぱり()(もの)か。背中から後頭(こうとう)()へ向かって稲妻(いなずま)()()ける。


 浜にショウが現われ、人間の言葉(ことば)を話した驚きと同じだ。あの時は家に()げ帰ったが、今は()げも(かく)れもできない。

 あの御標(ごひょう)が龍の化身という(うたが)いが(よみがえ)り、覚悟(かくご)を決めて目を()せると、隣の随臣(ずいしん)耳元(みみもと)でささやいた。

「ゼクスを見られて、驚かれたと思いますが、この国にとってかけがいのない存在(そんざい)です。太郎殿もぜひ、仲良(なかよ)くしていただきたい。」

「オラを食わんのか。」

「もちろんです。客人である太郎殿に小さな危険(きけん)すら、あってはならないのです。」

 随臣の言葉を捕捉(ほそく)するように、ゼクスも語りかけてきた。

「私はこの星の生き物とは(ちが)って、食べ物を必要(ひつよう)としないのです。」


 頭の中に聞こえる、遠隔(えんかく)何とやらだ。(ため)しに頭の中で()いかけてみる。

---この星って、この海底が星か。あんたは何者(なにもの)じゃ。

「それは後ほど、場所(ばしょ)()えてお話しましょう。」

 声を出していないのに、(こた)えてきた。

 ゼクスとの会話(かいわ)は終わり、再び収穫(しゅうかく)祈祷(きとう)儀式(ぎしき)に移った。儀式(ぎしき)意思(いし)遠隔(えんかく)伝達(でんたつ)とかいう方法で、乙姫とゼクスが交信(こうしん)し合っているようだ。

「来年は新しい作物(さくもつ)がひとつ加わります。今年(ことし)以上の豊作(ほうさく)が期待できるでしょう。」


 乙姫が立ち上がり、ゼクスに最敬礼(さいけいれい)をして出口に向かう。その後に続いて随臣達と拝塔(はいとう)を出た。

 収穫(しゅうかく)祈祷(きとう)という儀式(ぎしき)参列(さんれつ)し、なぜかは()せないが満足(まんぞく)感に()たされている。

 前庭(まえにわ)に下りたところで、乙姫が()り返って近付(ちかづ)いてきた。

「太郎様に参列(さんれつ)していただいたお(かげ)で、(みの)りある収穫(しゅうかく)祈祷(きとう)になりました。ゼクスにお会いになられて、誤解(ごかい)()けましたでしょうか。」

 礼を言うのはこちらである。

「オラが勝手(かって)(りゅう)と思うちょったんで、()げたりして乙姫様には迷惑(めいわく)をかけた。じゃが一体(いったい)、ゼクスとは何者(なにもの)じゃ。乙姫様は前に人間の祖先(そせん)とか言うたが、どう見てもそうは見えんが。」


 ()(くら)な上空を、じっと(なが)めていた乙姫が、思い()めた表情でうなずく。

「ゼクスが何者(なにもの)か、お話いたします。こちらへ。」

 右手で随臣(ずいしん)(せい)した乙姫と二人だけで、屋敷(やしき)の部屋に入った。壁にも天井(てんじょう)にも金箔(きんぱく)()り、(すみ)から(すみ)まで細かな紋様(もんよう)を彫刻した、(まぶ)しい部屋に通された。

 他の部屋より(せま)く、それでも差江(さえ)(じょう)接見(せっけん)の間くらいはある。

 部屋の中央に、黒塗(くろぬ)りで(たか)()もたれの付いた腰掛(こしか)けが二脚(にきゃく)、同じ黒塗(くろぬ)りの小さな机を(はさ)んでいる。

 乙姫が腰掛(こしか)けのひとつに座り、向いの腰掛(こしか)けに座るよう合図(あいず)したので、向き合って座った。


 自分を見つめる()(なが)の黒い(ひとみ)、赤い(くちびる)と白い(ほほ)。身分も仕草(しぶさ)顔立(かおだ)ちも違うのに、音根と(かさ)なる何かが(ただよ)う。

 こんなに近くで、美しい乙姫と向き合ったのは初めてだ。緊張(きんちょう)はしていないつもりだが、胸が激しく鼓動(こどう)を打つ。

「ゼクスは遠い昔、夜空に(かがや)く星の彼方(かなた)から飛来(ひらい)した生き物です。」

 押し出すような声で(かた)る乙姫の、表情は(かた)い。よほど話したくない理由があるのかと、右手を出して話を()めた。

「乙姫様の(かな)しげな顔を見ちょると、聞かんほうがええと思うじゃ。」

「いいえ話します。私が(かな)しいのはゼクスの(いのち)が、もう長くないのです。ゼクスのことは太郎様にも、知っていただきたいのです。」


 乙姫が話しを続ける。

 およそ一千(いっせん)万年(まんねん)(まえ)。ゼクスが住んでいた星は、不遇(ふぐう)事故(じこ)によって崩壊(ほうかい)が進んだ。高度(こうど)な文明を(きず)いていたゼクスは、宇宙間(うちゅうかん)航行船(こうこうせん)で他の星に新天地(しんてんち)を求めた。

 何百(なんびゃく)もの船団(せんだん)は、それぞれの星を目指(めざ)し、その中の一団(いちだん)が、この星に飛来(ひらい)したと言う。

「星というのは夜に光っとる、あの小さな星か。」

「そうです。小さいのは(とお)くにあるからで、この大地(だいち)も、(かず)ある星のひとつです。」

「向こうから見ると、この大地(だいち)も光っとるんか。」

「いいえ、光っているのはお天道(てんとう)(さま)です。その近くにお天道(てんとう)(さま)の光や熱を(めぐ)みとした、生き物の住む星があるのです。」

 そういえば、ショウも星に人間が住んでいると言っていた。

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