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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
一
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46/86

十三

四-十三

 なおも、乙姫は話を続ける。

 この星にも遠(とお)い昔、サウルスという巨大(きょだい)な動物の長(なが)い時代(じだい)があり、ある天災(てんさい)で滅(ほろ)んだ。くしくも生き残った小さな動物が繁栄(はんえい)し、新たな時代を築(きず)いていた。

 ゼクスも降(お)り立ったそれぞれの地上で、永住(えいじゅう)に成功(せいこう)したかに思えた。ところがこの星の細菌(さいきん)攻撃(こうげき)によって、絶滅(ぜつめつ)の危機(きき)に遭(あ)った。

「この星の細菌が、ゼクスを攻撃したんか。」

「そうです、他(ほか)の星から移住(いじゅう)してきた生き物は、星が管理する〝雌雄(しゆう)二性(にせい)交配(こうはい)系(けい)〟にそぐわない場合(ばあい)、細菌(さいきん)によって拒絶(きょぜつ)攻撃(こうげき)を受けます。」


 話は難しいが、虚空(こくう)を見つめて話す乙姫の瞳(ひとみ)が悲(かな)しく、言葉を遮(さえぎ)ることができない。

 ある大陸(たいりく)に降(お)りたゼクスが、絶滅(ぜつめつ)を免(のが)れる対策(たいさく)として、トゥルーという猿族(さるぞく)を捕獲(ほかく)研究(けんきゅう)し、子孫(しぞん)を残すための交配(こうはい)を試(こころ)み、それに成功(せいこう)した。

「その猿に、子を産(う)ませたんか。」

「高度な文明(ぶんめい)を持つゼクスですが、成功(せいこう)するまでには大変な苦労(くろう)があったようです。

 そのためにトゥルーという猿族(さるぞく)の犠牲(ぎせい)は凄(すさ)まじく、その大陸(たいりく)から消えてしまったほどです。」


 やがて、ゼクスとトゥルーの血(ち)を受(う)け継(つ)いだ子孫(しそん)が、次々に誕生(たんじょう)し、増(ふ)えていった。

 それは成体(せいたい)になっても身長(しんちょう)四尺(よんしゃく)ほどで、頭が大きい奇妙(きみょう)な姿(すがた)であった。

 この星の先住(せんじゅう)動物(どうぶつ)と決定(けってい)的に違(ちが)う点は、直立(ちょくりつ)で二足(にそく)歩行(ほこう)をして、身体に体毛(たいもう)がないこと。

 この星の重(じゅう)力(りょく)に逆(さか)らった体形(たいけい)と、姿勢(しせい)では早く走(はし)れず、また動けば草木(くさき)や石で傷(きず)だらけになるし、暑(あつ)さ寒(さむ)さにも弱(よわ)い。


 だが子孫(しそん)達は、肉食(にくしょく)鳥獣(ちょうじゅう)の餌食(えじき)になりながらも、ゼクスから受け継(つ)いだすぐれた知能(ちのう)を発揮(はっき)し、増殖(ぞうしょく)した。それが今の人間の祖先(そせん)と言う。

 星による細菌(さいきん)攻撃(こうげき)から逃(のが)れたゼクスもいた。ゼクスは呼吸(こきゅ)をしないため、海に入り海底(かいてい)で生き延(の)びた。

 数百(すうひゃく)体(たい)を超(こ)えるゼクス一行(いっこう)は、安住(あんじゅう)の地を求めて海底を放浪(ほうろう)し、一部がこの光り輝(かがや)く土地にたどり着いたと言うのである。

「そうか、それでゼクスはここに住んどるんか。」

 乙姫の話は、なおも続く。


 ゼクスは一体(いったい)が死ぬと、一体(いったい)が生まれて数を保(たも)つ生き物だったが、海底ではそれが叶(かな)わなかったのか、今はこのゼクス一体(いったい)だけになっている。

 このゼクスも、老齢(ろうれい)で動(うご)けないというのだ。

「せっかく遠い星から来たのに、気の毒(どく)じゃ。最後(さいご)のゼクスが死んで、この世から消えてしまうんか。」

 だいぶ意味(いみ)が分(わ)かってきたので、乙姫に笑顔が戻(もど)った。

「命(いのち)を受け継(つ)いだ人間がいるので、ゼクスは本望(ほんもう)でしょう。」

「オラ達、人間が後(あと)を継(つ)げばええ。」

「そのとおりです。ゼクスは子孫(しそん)に知恵(ちえ)や創造力(そうぞうりょく)という、この星の動物にない特異(とくい)な能力(のうりょく)を残しました。きっと人間は立派(りっぱ)に後を継(つ)ぎ、長く命を繋(つな)いでゆくでしょう。」


「そうじゃ。そのとおりじゃ。」

 だから人間は、他の動物より賢(かしこ)いのか……。話を聞くうちに、ゼクスが本当に先祖(せんぞ)の気がしてきた。

「ゼクスは、古(ふる)くからこの星にいる生き物たちに、敬意(けいい)をもって接(せっ)するよう望んでおります。それはこの星に断(ことわ)りもなく棲(す)み付いたからで、人間の祖先(そせん)ゼクスは、侵入者(しんにゅうしゃ)だからです。」

 文字が読(よ)めず計算も苦手(にがて)だが、不思議(ふしぎ)に話の内容は分かる。

「古くからこの星にいる生き物に、敬意(けいい)をもってか……。魚や昆布(こんぶ)は食べ物で、蚊(か)やアブは血を吸(す)うし、毛虫は気持(きも)ち悪(わる)い。意志(いし)何とやらで話ができないのに、生き物とどう仲良(なかよ)くするんじゃ。」


 ゼクスの望(のぞ)みと言う、他(ほか)の生き物への敬意(けいい)に合点(がてん)がいかないまま、乙姫と別れた後(あと)、腕を組(く)んで中庭を歩く。

 人間がゼクスの子孫(しそん)なら、どうして龍から父を守ってくれなかったのか。

 凄(すご)い能力(のうりょく)があるのに、なぜ龍を退治(たいじ)しなかったのか、疑問(ぎもん)が噴出(ふんしゅつ)する。


 すると頭の中でゼクスの声がした。

「太郎様の疑問(ぎもん)は当然(とうぜん)です。残念(ざんねん)ながら龍は私の手に負(お)えませんでしたので、お許(ゆる)しください。生き物への敬意(けいい)も、悩まないでください。この星は強(つよ)い生き物が弱(よわ)い生き物を食(しょく)する、食物(しょくもつ)連鎖(れんさ)で成(な)り立っているのですから。」

 また難(むつか)しい話になって、頭が痛い。


「人間は、多くの生き物に恐(おそ)れられています。それは人間界に独特(どくとく)の享楽(きょうらく)や贅沢(ぜいたく)思想(しそう)が生まれ、他(ほか)の動物や植物の命を軽(かる)く扱(あつか)うようになったからです。このままですと、食物(しょくもつ)連鎖(れんさ)で成(な)り立っている大地(だいち)や、海の秩序(ちつじょ)が崩れ、すべての生き物が滅(ほろ)びていきます。でも、そうなる前に元凶(げんきょう)の人間だけを、何らかの力が滅(ほろ)ぼすでしょう。」

「龍(りゅう)の力で……か。」

「いいえ、もっと大きな力です。私はこの星の抗体(こうたい)が、人間を邪悪(じゃあく)な存在(そんざい)として、一掃(いっそう)すると考えています。先住(せんじゅう)の動物や植物には、危害(きがい)を加(くわ)えずに。」


「何じゃと。この星がどうやって。」

「過去(かこ)に、私達が滅(ほろ)ぼされた細菌(さいきん)によってかもしれません。人間がこの星に必要(ひつよう)な存在(そんざい)である限り、温(あたた)かく守ってくれます。でも見限(みかぎ)った場合は、容赦(ようしゃ)しないでしょう。」

 背筋(せすじ)にゾクッと寒気(さむけ)が走った。裏島(うらしま)の人々は漁(りょう)によって生活の糧(かて)を得ている。これは人間の身勝手(みがって)な行為(こうい)か。

「オラ達は漁師(りょうし)じゃが、滅(ほろ)ぼされるんか。」

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