表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
42/86

四-九

 笛や太鼓、鐘の音が鳴り(ひび)き、踊り子が花笠(はながさ)花飾(はなかざ)りを手に、整然(せいぜん)と踊りながら行進を始めた。

 見る間に集団(しゅうだん)があちこちにでき、踊りながら手を()ばして、(かがや)小片(こびら)(つか)み取っている。乙姫は踊る集団(しゅうだん)の間に入って、声を()けながら歩いている。

「さあ、太郎殿も行きましょう。一緒(いっしょ)に踊りましょう、さあ。」

 二太夫が(そで)を引っ()り、執拗(しつよう)に中庭へ(さそ)う。だが身体は(こお)りついたように硬直(こうちょく)して動かない。

「オ、オラ気分が悪うなった、もうしばらくここで座っとる。」


仕方(しかた)ないですな、では失礼して拙者(せっしゃ)は踊ってまいる。気分が良くなったら来てくださいよ。」

 そう言い(のこ)した二太夫は、踊りの集団(しゅうだん)に飛び込んで消えた。

 (せま)り来る恐怖(きょうふ)を、胸に(つつ)み込んで中庭を(なが)めていると、右肩(みぎかた)に誰かの手が乗った。全身に鳥肌(とりはだ)が立つ。

---来た、拝塔に()れて行かれる。

 抵抗(ていこう)しても無駄(むだ)だ。もう(おそ)ろしい場に引き出されても、取り(みだ)すまい。地上の人間(にんげん)として(わら)われないよう、毅然(しゃくぜん)としようと覚悟(かくご)を決めて、目を()じた。

 すると背中に(やわ)らかい物が()し付けられた。

---え、連れに来たのは女か。


 恐る恐る振り向くと、何と加奈(かな)が背中に寄り()っているではないか。白粉(おしろい)の香りがなかったので気付かなかった。いや緊張(きんちょう)恐怖(きょうふ)で、それさえも感じないのか。

「か、加奈(かな)さん。なんで踊っとらんのじゃ。」

「踊っておりましたが、(さみ)しそうな太郎さんを見たので、お(さそ)いに来たのです。」

 自分を連行(れんこう)するのなら、(はげ)しく抵抗(ていこう)すると考え、屈強(くっきょう)な侍が数人(すうにん)で取り囲むだろう。そう考えると、加奈(かな)一人が連行(れんこう)役というのは(へん)だ。

 窮地(きゅうち)に立って、味方を(ほっ)する願望(がんぼう)か。龍の仲間に(ちが)いない加奈であっても、警戒(けいかい)心が()かない。


 しかも()がれる機会(きかい)(あた)えてくれる……そんな見込(みこ)みのない望みまで強くなっている。(いち)(はち)か加奈に(うった)えた。

「オラ、(ころ)される。」

 すると加奈が、無言(むごん)背後(はいご)から()き付いてきた。そのやさしく温かな感触(かんしょく)が、(ふる)える心を(つつ)む。

---加奈と逃げたい。

 たとえ逃げ(かく)れしても小さな国だ。すぐ見つかって(つか)まるだろうが、それでもいい。中庭は楽しげな踊りの最中(さいちゅう)で、(だれ)一人こちらを気にかける者はいない。

「加奈さん、奥へ行こう。」

 (そで)(つか)んで座敷(ざしき)の奥へ加奈を(みちび)くと、素直(すなお)についてくる。


 金貼(きんば)りの(ふすま)を開けて広い(たたみ)部屋に入り、その奥の扉を抜けると、もう中庭の喧噪(けんそう)はなくなった。

 (ねん)のため、さらに奥の部屋を目指(めざ)す。

 松の木が()られた扉を開くと、そこは左右の(かべ)(みどり)(したた)る平原が(えが)かれた大広間だった。

 ()き当たりに高さ三尺(さんじゃく)(ほど)の白木の大きな舞台(ぶたい)が見えた。演芸(えんげい)を楽しむ部屋なのか、床に(たたみ)()かれている。

 誰も(かれ)もが中庭に集まっているのだろう、どの部屋も人の気配(けはい)がなく、この静けさは(みょう)無気味(ぶきみ)だ。

 (あた)りを警戒(けいかい)しながら舞台に腰を()けると、加奈も横に座った。

「加奈さん……。」


 なり振り(かま)っている気持ちは、すでに()せていた。加奈の肩に手を(まわ)し、両手で強く()()せた。

 加奈は抵抗(ていこう)すら見せず、胸に上体を(あず)けるように(たお)れてきたので、強引(ごういん)行為(こうい)を嫌がっている素振(そぶ)りは感じない。

「女が少しでも(いや)がる素振(そぶ)りを見せたら、決して無理(むり)()いをしてはいかん。」

 万作の言葉が脳裏(のうり)をよぎった。

  一度(いちど)気持ちを確認(かくにん)しようと、()()せたまま耳元(みみもと)(ささや)いてみる。

「夕べはオラの勝手(かって)で、(つら)い思いをさせてしもうた。(おこ)っとらんか。」

「そんなこと。」


「良かった。今日も加奈さんの都合(つごう)も聞かずに、この部屋まで来た。(いや)なら踊りに行ってもええぞ。」

「一緒に()とうございます。」

 加奈の一言(ひとこと)に、絶体(ぜったい)絶命(ぜつめい)危機(きき)(すく)われた気がし、(いと)おしさが大広間(おおひろま)いっぱいに(ふく)らむ。

 龍に食べられる恐怖(きょうふ)(わす)れたい一心で、そっと顔を近付けて(くちびる)を合わせると、ほのかに(たい)(にお)いがした。

「もう地上に未練(みれん)はない。生きて加奈さんと一緒にいたい。」

 (うる)んだ(ひとみ)を細める加奈の上体を、(ふたた)び強く()いた。

 ()き合ったまま舞台(ぶたい)(たお)れ込み、着物越()しに加奈の腕から(わき)(こし)へと右手を()わせる。


 そのたびに加奈(かな)はビクン、ビクンと身体(からだ)をくねらせる。加奈(かな)自身(じしん)も、身体(からだ)反応(はんのう)に、(おどろ)いている様子(ようす)だ。

「オラが(はじ)めてか。」

「あい。」

 夜伽(よとぎ)(おんな)ではなかった。地上に帰る望みが()たれ、音根との祝言(しゅうげん)絶望(ぜつぼう)となった以上、(いと)おしい加奈に()(いのち)(あかし)しを残したい。

 海に入る前の(ばん)、同じ心境(しんきょう)で音根に(たく)したが、もう確認する手立(てだ)てはない。たとえ海底の国でも()が子が生まれたら、この世に生を受けた意義(いぎ)(まっと)うできる。


 (あら)っぽく着物の(すそ)()り、右手を太股(ふともも)(すべ)り込ませると、柔らかくて少し(つめ)たい。加奈の(あつ)くなった吐息(といき)が、左肩と首に()み込む。

 もう一度腰の辺りを()でて、背中に手を(まわ)すと加奈の(うで)が首に(から)まって、腰を強く押し付けてきた。

---加奈も求めている。

 安堵(あんど)感が余計(よけい)に気持ちをかき立てる。加奈をやさしく仰向(あおむ)けにして両足(りょうあし)の間に(わり)り込み、(おお)(かぶ)さりながら、(いた)いまでに膨張(ぼうちょう)した一物(いちもつ)に手を()える。 

 その時、扉の向うから数人(すうにん)の男の声が近付(ちかづ)く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ