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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
一
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41/86

八

四-八

 変わり果(は)てた我が身。このまま果てるのかと思うと、恐ろしさに震(ふる)える。誰でもいい、この変わりようが何なのかを知りたい。

「何でございましょう。どうかなさったのですか。」

 奥の部屋から二太夫が出て来たが、変わり果(は)てた姿に気付(きづ)こうともしない。

「二太夫さんじゃったな。オラひどく痩(や)せて、こんな姿に変わってしもうとる。何故(なぜ)じゃ。」


「昨日と何も変わりませんが。ほう、お召(め)し物はお似合(にあ)いでござる。凛凛(りり)しくご立派(りっぱ)なお姿です。」

 とぼけた顔で返答する二太夫に、無性(むしょう)に腹が立つ。

「そんなことは聞いとらん。オラの姿(すがた)の変(か)わりようは、何故(なぜ)かと聞(き)いとるんじゃあ。」

 意図(いと)して声を荒(あら)げてみたが、それを気にする素振(そぶ)りもない。

「昨日と一緒(いっしょ)ですぞ。ご準備(じゅんび)がよければ、これから拝塔へご案内いたします。」

 ケロリとしているので、逆(ぎゃく)に自分の方が寝呆(ねぼ)け、錯覚(さっかく)を見たのかと思い直(なお)すほどである。


「そうか、変わりがないならええ。もう拝塔(はいとう)では、祈祷(きとう)が始まっとるんか。」

「これからです。行きましょう。」

 伸びた髪に櫛(くし)を入れて後(うし)ろで縛(しば)り、ふらつく足で二太夫の後(あと)を歩く。

 七色に輝く廊(ろう)を渡って、中庭(なかにわ)らしき場所が臨(のぞ)める部屋に来た。正面に宝輪(ほうりん)が黒い天空(てんくう)を付くように伸びた、六角で五層(ごそう)の拝塔(はいとう)がそびえている。

「あれが拝塔(はいとう)というものか。」

 拝塔(はいとう)は、屋敷の派手で煌(きら)めいた色彩(しきさい)とは対照(たいしょう)的(てき)に、全く色をもたない白一色。

 中庭では、揃(そろ)いの衣装に身を固(かた)めた踊り子たちが、大勢(おおぜい)集まって祭りを待っている。


「太郎殿は、こちらへ。」

 二太夫に案内され、拝塔と向き合う縁側(えんがわ)に座る。すぐに赤い膳(ぜん)が運ばれて来た。

「朝のお支度(したく)でござります。」

 膳には、色とりどりの海藻(かいそう)を刻(きざ)んで浮かべた吸い物が、いびつな貝の器(うつわ)に盛(も)られ、その横に桃(もも)に似た薄赤(うすあか)い果物と、酒杯(しゅはい)が添(そ)えられている。

 料理を目にすると、反射(はんしゃ)的にすさまじい空腹(くうふく)感がよみがえり、すぐに箸(はし)を付けた。

「この吸い物は、滋養(じよう)豊(ほうふ)かなメビやマサリが入った、精進(しょうじん)料理です。祝い日の朝に、皆(みな)で食します。」

「二太夫さんは、もう食(く)うたんか。」

「ええ、先ほど。祈祷(きとう)に出る者といただきました。」

 少し渋味(しぶ)がある吸い物を一気に飲み干(ほ)し、桃(もも)に似た果物(くだもの)もかじった。


「辛(から)い桃じゃ。」

「それはボルの実で、お酒を舐(な)めながらかじると、いい案配(あんばい)の旨(うま)さになります。」

 なるほど、その通りにするとボルが旨(うま)い。

 吸い物に毒(どく)が入っている様子もなく、朝からこんな贅沢(ぜいたく)をして良いのかと、自問(じもん)しながら朝食を堪能(たんのう)した。腹いっぱいになると気持ちが和(やわ)らぎ、周囲(しゅうい)が落ち着いて見える。

 拝塔の前には侍(さむらい)達が、何かを警護(けいご)するように並んでいた。拝塔を見上(みあ)げながら、横に座っている二太夫に聞いてみる。


「あの建物には、何で色が付いとらんのじゃ。」

「何故(なぜ)でしょうね、昔から白でした。拙者(せっしゃ)は今まで気にも止めなかったので、太郎殿も気になさらなくて良いのでは。」

 そう言われると、逆に知りたくなるのが好奇心(こうきしん)というものだ。

「あの中に誰(だれ)ぞ住んどるんか、偉(えら)い僧侶(そうりょ)とか。」

「ゼクスがおります。乙姫様の相談(そうだん)相手(あいて)でもあり、この国の治安(ちあん)を守っている者です。収穫(しゅうかく)祈祷(きとう)も、あの中で行われます。」


 そう言えば、海底に来る途中(とちゅう)で聞いたショウの話の中で「一緒(いっしょ)に住んでいるゼクスが、獰猛(どうもう)な深海ザメを撃退(げきたい)します。」と言っていた。

 あの時は、強い侍(さむらい)の名前と思って聞き流していたが、白い拝塔に住む特別(とくべつ)な人物だったとは。

「ゼクスって、どんな侍(さむらい)じゃ。」

「ゼクスは人間でも魚でもありません。不思議(ふしぎ)な能力(のうりょく)で、この国を深海ザメから護(まも)ってくれますし、農園(のうえん)に新しい作物(さくもつ)も増やしてくれます。」

 拝塔の中に、人間でも魚でもない生(い)き物(もの)がいる。それは龍(りゅう)……。心蔵(しんぞう)が、激(はげ)しく鼓動(こどう)を始めた。


 龍(りゅう)は東の海底で死んでいたと聞いたが、あれは嘘(うそ)で、本当は生きていたのだ。もしも龍(りゅう)なら乙姫もショウも、加奈も、この国の人間すべてが、龍(りゅう)の仲間(なかま)ではないか。

 頭から足先まで悪寒(おかん)が走る。

---龍(りゅう)をひどく傷付(きずつ)けた復讐(ふくしゅう)のために、連れて来られたんじゃ。

 豊作(ほうさく)祭(さい)とは偽(いつわ)りで、自分を龍(りゅう)に捧(ささ)げる祭(まつ)りに違いない。

 あの時、槍(やり)と鉄砲(てっぽう)で傷付(きずつ)けているため、恨(うら)みを受ける根拠(こんきょ)がある。

 海底では網(あみ)に掛かった魚(さかな)同然(どうぜん)で、逃(に)げも隠(かく)れもできない。覚悟を決めて来たものの、毛髪(もうはつ)がゾワゾワと立ち、顔から血の気が引く。

「ま、祭りは、い、いつ始まるんじゃ。」


 しばらくして拝塔の白い扉が開き、乙姫が現われた。遠くにいた群衆(ぐんしゅう)が拝塔近くに駆(か)け寄り、中庭は人(ひと)で溢(あふ)れる。

 乙姫は扉の前で笑みを振(ふ)りまき、中庭の人達を見回(まわ)す。

「今日は豊作(ほうさく)祭(さい)の二日目です。皆さん一人ひとりの頑張(がんばり)りと、成果(せいか)を祝いましょう。

そしてまた元気に働(はたら)けることを、共(とも)に喜(よろこ)び合いましょう。」

 乙姫が拝塔の階段(かいだん)を下り始めると、拝塔の上階(じょうかい)から色とりどりの輝く小片(こびら)が無数(むすう)に放(はな)たれ、暗黒(あんこく)の上空(じょうくう)をキラキラと瞬(またた)きながら、ゆっくり舞(ま)い落ちる。

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