八
四-八
変わり果てた我が身。このまま果てるのかと思うと、恐ろしさに震える。誰でもいい、この変わりようが何なのかを知りたい。
「何でございましょう。どうかなさったのですか。」
奥の部屋から二太夫が出て来たが、変わり果てた姿に気付こうともしない。
「二太夫さんじゃったな。オラひどく痩せて、こんな姿に変わってしもうとる。何故じゃ。」
「昨日と何も変わりませんが。ほう、お召し物はお似合いでござる。凛凛しくご立派なお姿です。」
とぼけた顔で返答する二太夫に、無性に腹が立つ。
「そんなことは聞いとらん。オラの姿の変わりようは、何故かと聞いとるんじゃあ。」
意図して声を荒げてみたが、それを気にする素振りもない。
「昨日と一緒ですぞ。ご準備がよければ、これから拝塔へご案内いたします。」
ケロリとしているので、逆に自分の方が寝呆け、錯覚を見たのかと思い直すほどである。
「そうか、変わりがないならええ。もう拝塔では、祈祷が始まっとるんか。」
「これからです。行きましょう。」
伸びた髪に櫛を入れて後ろで縛り、ふらつく足で二太夫の後を歩く。
七色に輝く廊を渡って、中庭らしき場所が臨める部屋に来た。正面に宝輪が黒い天空を付くように伸びた、六角で五層の拝塔がそびえている。
「あれが拝塔というものか。」
拝塔は、屋敷の派手で煌めいた色彩とは対照的に、全く色をもたない白一色。
中庭では、揃いの衣装に身を固めた踊り子たちが、大勢集まって祭りを待っている。
「太郎殿は、こちらへ。」
二太夫に案内され、拝塔と向き合う縁側に座る。すぐに赤い膳が運ばれて来た。
「朝のお支度でござります。」
膳には、色とりどりの海藻を刻んで浮かべた吸い物が、いびつな貝の器に盛られ、その横に桃に似た薄赤い果物と、酒杯が添えられている。
料理を目にすると、反射的にすさまじい空腹感がよみがえり、すぐに箸を付けた。
「この吸い物は、滋養豊かなメビやマサリが入った、精進料理です。祝い日の朝に、皆で食します。」
「二太夫さんは、もう食うたんか。」
「ええ、先ほど。祈祷に出る者といただきました。」
少し渋味がある吸い物を一気に飲み干し、桃に似た果物もかじった。
「辛い桃じゃ。」
「それはボルの実で、お酒を舐めながらかじると、いい案配の旨さになります。」
なるほど、その通りにするとボルが旨い。
吸い物に毒が入っている様子もなく、朝からこんな贅沢をして良いのかと、自問しながら朝食を堪能した。腹いっぱいになると気持ちが和らぎ、周囲が落ち着いて見える。
拝塔の前には侍達が、何かを警護するように並んでいた。拝塔を見上げながら、横に座っている二太夫に聞いてみる。
「あの建物には、何で色が付いとらんのじゃ。」
「何故でしょうね、昔から白でした。拙者は今まで気にも止めなかったので、太郎殿も気になさらなくて良いのでは。」
そう言われると、逆に知りたくなるのが好奇心というものだ。
「あの中に誰ぞ住んどるんか、偉い僧侶とか。」
「ゼクスがおります。乙姫様の相談相手でもあり、この国の治安を守っている者です。収穫祈祷も、あの中で行われます。」
そう言えば、海底に来る途中で聞いたショウの話の中で「一緒に住んでいるゼクスが、獰猛な深海ザメを撃退します。」と言っていた。
あの時は、強い侍の名前と思って聞き流していたが、白い拝塔に住む特別な人物だったとは。
「ゼクスって、どんな侍じゃ。」
「ゼクスは人間でも魚でもありません。不思議な能力で、この国を深海ザメから護ってくれますし、農園に新しい作物も増やしてくれます。」
拝塔の中に、人間でも魚でもない生き物がいる。それは龍……。心蔵が、激しく鼓動を始めた。
龍は東の海底で死んでいたと聞いたが、あれは嘘で、本当は生きていたのだ。もしも龍なら乙姫もショウも、加奈も、この国の人間すべてが、龍の仲間ではないか。
頭から足先まで悪寒が走る。
---龍をひどく傷付けた復讐のために、連れて来られたんじゃ。
豊作祭とは偽りで、自分を龍に捧げる祭りに違いない。
あの時、槍と鉄砲で傷付けているため、恨みを受ける根拠がある。
海底では網に掛かった魚同然で、逃げも隠れもできない。覚悟を決めて来たものの、毛髪がゾワゾワと立ち、顔から血の気が引く。
「ま、祭りは、い、いつ始まるんじゃ。」
しばらくして拝塔の白い扉が開き、乙姫が現われた。遠くにいた群衆が拝塔近くに駆け寄り、中庭は人で溢れる。
乙姫は扉の前で笑みを振りまき、中庭の人達を見回す。
「今日は豊作祭の二日目です。皆さん一人ひとりの頑張りと、成果を祝いましょう。
そしてまた元気に働けることを、共に喜び合いましょう。」
乙姫が拝塔の階段を下り始めると、拝塔の上階から色とりどりの輝く小片が無数に放たれ、暗黒の上空をキラキラと瞬きながら、ゆっくり舞い落ちる。




