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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
39/86

四-六

 弦の音色(ねいろ)が変わると、(つぎ)は見えない(いと)に引かれるように、両手を広げて前進(ぜんしん)し、身体(からだ)を前に折って後退(こうたい)する。

 踊りというより、流れる(とき)制御(せいぎょ)するかのような、(ゆる)やかな動きだ。(げん)の音色が時には(はげ)しく、また(きよ)らかに流れる。

 (われ)を忘れて見入(みい)っていると、一太夫が肩をポンと(たた)いた。

豊作(ほうさく)感謝(かんしゃ)と、太郎殿を歓迎(かんげい)する踊りにございます。」

「こんな神々(こうごう)しい舞いを見とると、(たましい)()かれるようじゃ。」

 踊り終えた乙姫は姿(すがた)を消したが、目の(おく)に青い光の残像(ざんぞう)が消えない。大広間が明るくなって、誰の合図(あいず)もなく宴座(えんざ)の人達が、ゾロゾロと出て行く。


(うたげ)はこれまでです。長旅(ながたび)の後でもあり、お疲れになったでしょう。お休みになられるなら、寝所(しんしょ)に案内いたすが。」

 (うたげ)の途中で一眠(ひとねむ)りしたためか、眠気(ねむけ)も疲れもない。

 しかしこの屋敷へ入る前から、緊張(きんちょう)と驚きの連続(れんぞく)だったので、気分を変えるため、案内を(たの)むことにした。

「こちらでございます。」

 足元は()いで()らつく。(ろう)に出て、少し質素(しっそ)な白い扉を開けた。

---落ち着いて()られそうじゃ。

 しかし、一歩足(いっぽあし)を入れた途端(とたん)、口がふさがらなくなった。

 寝所(しんしょ)とは思えないほど明るくて広く、(かべ)から天井(てんじょう)まで広大(こうだい)花園(はなぞの)青空(あおぞら)(えが)かれている。


---この屋敷は一体(いったい)(なん)だ。寝所(しんしょ)でもこれか。

 部屋の奥に二尺(にしゃく)ほどの高さの寝床(ねどこ)があり、数人(すうにん)が並んで寝ることのできる大きな布団(ふとん)()かれ、高い天井(てんじょう)から下がった、半透明(はんとうめい)天蓋(てんがい)で、ぐるりと(かこ)まれている。

「オラ、こんな所では落ち着いて()ることができん。」

 寝所(ねどこ)は生まれたときから(せま)くて、(くら)いと決まっている。

「これは失礼(しつれい)しました。明るすぎるのであれば、暗くして()し上げましょう。」

 一太夫が手をポンポンと(たた)くと、部屋が少し(くら)くなった。

「これでよろしいでしょうか。」

「もっと(くら)くじゃ。」

 もう一度手をポンポンと(たた)く。

「まだ明るい。」


 一太夫が不思議(ふしぎ)そうな顔をしながら、手をポンポンと(たた)いた。だいぶ(くら)くなって、浜の夕暮(ゆうぐ)れくらいにはなった。

「これ以上は暗くなりませんので、ご辛抱(しんぼう)くだされ。右手の(とびら)風呂(ふろ)がありますので、疲れをお取ください。」

 (あわ)草色(くさいろ)寝間着(ねまき)を受け取る。一太夫が寝所(しんしょ)を出ようとして、すぐ引き返してきた。

「そうそう明日(あした)は屋敷の中庭(なかにわ)で、全国民(ぜんこくみん)参加(さんか)する豊作(ほうさく)(おど)りがございます。それから拝塔(はいとう)収穫(しゅうかく)祈祷(きとう)もございますので、太郎殿もぜひご参加(さんか)いただきたいとの(おお)せです。ではごゆっくりお休みくだされ。」

 そう言うと一礼し、姿を消した。一人になり、部屋に()かれている花園(はなぞの)()を、しげしげと(なが)めた。

「何でこんなに(かざ)りたがるんじゃ。落ち着かんのに。」


 折角(せっかく)だから風呂(ふろ)(のぞ)いてみようと、右奥(みぎおく)にある白木(しらき)の扉を開けた。

 そこは白と黒の玉石(たまいし)()()められた木造(きづく)りの風呂(ふろ)で、中央に四角い木製(木製)の湯船(ゆぶね)が置かれてあり、たっぷり()()られていた。

表島(おもてじま)(しろ)と同じじゃ。()かってみるか。」

 招待(しょうたい)を受けて以来(いらい)、ずっと()たままの羽織(はおり)(はかま)()ぎ、湯船(ゆぶね)に入ってみる。

 首まで湯に()かるのは、差江(さえ)の城に(まね)かれて、入った風呂以来(ふろいらい)だ。

「ああ、気持(きも)ちがええ。こんな風呂(ふろ)に、(かあ)ちゃんも入れてやりてえ。」


 しばらく()あみを楽しんだ後、寝間着(ねまき)を着て、寝床(ねどこ)に腰を()ろした。

 フカフカの(やわ)らかい布団(ふとん)が何とも気持(きも)ちよく、天蓋(てんがい)の布が周囲の(にぎ)やかな風景を分断(ぶんだん)し、寝床(ねどこ)は思ったより落ち着きがある。

「よう寝られそうじゃ。もう寝るか。」

 分厚(ぶあつ)布団(ふとん)(かぶ)って横になった。だが明日(あした)と言っても、海底に朝日(あさひ)は出ない。

 いつ朝になるのか。もしや永久(えいきゅう)目覚(めざ)めないのでは……と不安(ふあん)がよぎって、寝付(ねつ)けない。

「朝になったら一太夫さんが起こしに来るんか、太鼓とかの合図(あいず)でもあるんか。」

 高い天井(てんじょう)に語りかけていると、聞き(おぼ)えのある女の声が耳に入った。

「いえ、太郎様が目覚(めざ)めた時が(あさ)です。」


 寝所(しんしょ)は自分だけで、(ほか)(だれ)もいないはず。声のする方を見ると、いつ入ったのか、天蓋(てんがい)の外に加奈(かな)が座っているではないか。

 (うたげ)で会った時の衣裳(いしょう)ではなく、(うす)(むらさき)の着物に着替(きが)えている。それがまた加奈の美貌(びぼう)を引き立て、一段(いちだん)(いろ)っぽく見える。

 (ねむ)くないので、(ほか)の誰かなら話すのも良いが、加奈では相手(あいて)が悪い。顔が上気(じょうき)し、鼓動(こどう)高鳴(たかな)る。

 踊りが終って加奈の話をしたら、(まか)せてくれと言った一太夫。はっきり(ことわ)ったのに、手を回したに(ちが)いない。

「一太夫め、余計(よけい)なことしやがって。」

 加奈から目を()らせ、小さく舌打(したう)ちした。

「いえ、一太夫様とは()っておりません。私の一存(いちぞん)(まい)りました。」


「加奈さんは屋敷(やしき)の人ではないと聞いたぞ。どうして屋敷(やしき)におるんじゃ。」

「明日の豊作(ほうさく)(おど)りの支度(したく)がありますので、今夜(こんや)は屋敷にいるのです。」

 それにしても、()びもしない寝所(しんしょ)に入って来るのは不可解(ふかかい)だ。

「私が(さみ)しいのです、お願いします。」

 そう言うと、加奈は立ち上がって(おび)()き、着物をハラリと(ゆか)に落とすと、(うす)紅色(べにいろ)腰巻(こしま)き一枚になった。

 細身(ほそみ)の白い身体(からだ)と、たわわな乳房(ちぶさ)が目に()び込む。

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