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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
17/86

二-七

 すると勝手かってに右手が鉄砲てっぽう腰縄こしなわに差し、足許あしもとやりを手にした。この方が確実かくじつと考えたわけではないのに……何かがやりの方をえらばせた。

 頭の中で「鉄砲てっぽうはもっと近くで使え。」と、声が聞こえた気がしたのだ。

 シャーと耳を吠声ほえごえとともに、半開きの龍の赤い口が一直線いっちょくせん降下こうかして来た。


「えぇー、おわぁー。」

 そこねたら終わりだ。渾身こんしんの力を振りしぼってやりを龍にき出すと、ゴツンという衝撃しょうげきがあり、どこかにさった手応てごたええがあった。

 だが降下こうかしてきた龍のいきおいいで、(やり)(つか)んだまま舟からはじかれ、そのまま海中かいちゅうし込まれた。

 舟には何度なんども突きせる槍と、一度いちどしたらけない槍をそなえていたが、手に取ったやりがどちらかわからない。


 龍も、突然とつぜんさった槍におどろいたのだろう。大きく後方こうほうへ反り、(やり)を振り(はら)おうとはげしく(からだ)をくねらせる。

 恐怖きょうふ硬直こうちょくした手が、(やり)からはなれない。

 どうやら一度いちどしたら抜けないよう、尖先きっさきかえしを付けた槍を選んでいたようだ。

 槍をつかんだまま空中くうちゅう高く引き上げられ、右に左に、また上へ下へと振り回される。槍先やりさきを見ると龍のアゴの下、動物どうぶつで言うならくびに刺さっている。


 ここなら龍の(くち)自分じぶんの位置とは一定いっていの距離がたもてる。槍をはなさない限りは、()われないと気付(きづ)いた。

 しかも、龍には前足まえあしがないので槍をつかんだり、はらったりできない。それなら槍にしがみついておこうと、両足りょうあしも槍にからめる。

はなしてたまるか。ここにおる限り、オラは()えんぞ。」


 だが振り回されるほど槍が回転かいてんして、アゴの下の傷口きずぐちを大きくしている。そこから黒い血が吹き出し、血のりが槍をつたって来る。

 このままえていても、血のりで手がすべって、いつか海に投げ込まれるだろう。

 もう駄目だめかとあきらめかけていると、龍がザブーンとしぶきをらして海の中に突っ込んだ。


 首と背中せなかが海面にたたき付けられた。

「ぎゃ、痛てぇ。」

 激しいいたみが全身を走ったが、槍の血のりは(あら)い流された。

 ゴボゴボと海中かいちゅう深くにもぐって行くが、龍のウロコからえず顔より大きな気泡きほうが出ているので、それを(くち)に入れて、少しは()たせることができる。

 意識いしきあるうちは絶対ぜったいに槍をはなすまいと、しがみついたままえる。

「く、苦しい、早うかび上がれ。」


 いのる気持ちが通じたのか、龍が海上かいじょう()き上がる。のりのようなねばりのある海水かいすいにまとわり付かれながら、猛烈もうえついきおいいで海上に飛び出した。

「グァー。」

 水の圧力あつりょくすさまじい。海面にたたきつけられた時とは違い、手足を引き千切ちぎられるような痛みをともなう。もう一度いちど繰り返されると、おそらく身体がくだけ散るだろう。


 龍が槍を()り払おうと、さらにはげしく身をくねらせる。目まいがし、手足(てあし)筋肉きんにくが引きってきた。

 この程度のきずで大きな龍がよわるとは思えないが、槍にしがみ付いているだけで、(ほか)に手立てがない。

 もう手をはなして、楽になりたい気持ちが頭をよぎった。だが、ここで食われたら音根も食われると、歯を食いしばって我慢がまんする。


 いよいよ体力(たいりょく)()き、握力あくりょくもなくなってきた。あと、どのくらいえられるか……。

だれでもええ、(はよ)たすけに来てくれぇ。」

 五年ごねん前は夜明よあけ前だったが、今日は明るい。北島や表島からも、この大きなりゅうの姿は見えているはず。だでかがたすけに来てくれると、無理むりにでも思いたい。


 北島ではたけ仕事しごとをしていた農夫のうふが龍を見付みつけ、大声を上げながらさとけ降りた。

大変(たいへん)じゃー、大変じゃー。海に龍が出とるぞぉ。」

 そのさけびを聞いた人々が、仕事の手をめて海岸へ走った。この海岸(かいがん)からは一里(約四km)らずの距離きょりなので、龍の動きも姿(すがた)(かたち)もはっきり見える。


 アゴの下に人がいるところまでは見えないが、海岸ではき合ってちすくむ人、物陰ものかげかくれて見る人と様々(さまざま)で、どの顔も一様いちようあおざめている。

「あれが(りゅう)か、ここから見てもでっけえ。」

「えらいあばれようじゃ。こっちへ来ると厄介やっかいじゃぞ。」

 同じ時に、表島でも龍を目撃もくげきしていた。こちらも海岸かいがんに人が集まっているが、四里ほどはなれているためとお眼鏡めがねでもよく分からない。

 軍船ぐんせん五隻が港を出た。野次馬やじうまの小舟も十隻ほど追いかける。


 シャー、シャーと龍の吠声ほえごえが頭上でひびく。ついに意識はかすんできたが、まだ途絶えてはいない。

 突きさった槍の根元ねもとなら、ここよりれは小さいだろうと、残っているちからで槍をよじのぼ根元ねもとまで辿たどり着いた。噴出ふんしゅつしている血のりは、龍のウロコから飛びるしぶきに洗われ、心配したほど槍にからまっていなかった。

 アゴの下には、一抱ひとかかえもあるゴツゴツしたいわのようなウロコが並び、かたい音をきしませている。こんなウロコにはさまれたら間違まちがいなくつぶされるだろう。


 だが槍にしがみ付くだけでは体力(たいりょく)が持たず、(おそ)かれ早かれ()り切られる。もう結果(けっか)を考える余裕(よゆう)はない、一か八かで足をウロコに()()けてみた。

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