五
二-五
「兼吉、オラが頼んだんは火縄銃じゃぞ。こりゃ何じゃ。」
「まあ開けてびっくり、焼き栗じゃ。」
笑いながら木箱を抱え上げて、手渡して来た。ズシリと重い木箱を浜に置き、縄を解いて落胆した。
「おもちゃの火縄銃か。オラも馬鹿にされたもんじゃ。」
木箱の中には、一尺五寸ほどしかない短い銃が三丁あり、傍らに小さな木箱が二箱並んでいる。
「片手で撃てる新型の火縄銃じゃそうな。龍が出てから構えて撃つ暇はない言うて、これを使えと。鉄砲ちゅうそうじゃ。そうそう、試し撃ちして馴れとくように、とも言うとった。」
舟を浜に上げながら、目を輝かせて言葉を続ける。
「向こうで試し撃ちを見せてもろうた。ズドーンと耳が裂けるほどの音がして、鉄砲の口先から真っ赤な火が飛び出してのう、三丈(約十m)ほど離れた厚い板がバキッと割れて、弾の当たった所が焦げとるんじゃ。たまげたぞ。」
小さな二つの木箱は、それぞれ弾と火薬の粉が詰っていた。万作が鉄砲を手にし、しげしげと眺めていたが、やにわに海に向かって狙いを付けた。
皆が一斉に耳をふさぎ、浜に伏せる。
「ガハハハ、まだ弾も火薬も入っとらんぞな。能勢殿はこっち側に龍が出たら、これで仕留めよと言うとるんじゃろ。」
兼吉に火薬と弾の込め方、構え方などを教わった後、万作と弥助と三人で舟に乗り込み、つばくろ岩の近くで試し撃ちをした。ズドーン、ズドーンという音は海面を震わせるほどの轟音だ。おそらく浜まで聞こえただろう。
家に戻って、おりんと梓に鉄砲を見せながら、試し撃ちのすごさを話した。
「おったまげた。音もすっげえが、撃った時の反動が強い。両手でこう、しっかり支えんと弾かれるんじゃ。」
「ああ、音は聞こえたぞ。龍をやっつけるために作ったんかのう。」
おりんの問いかけに、何と答えればいいのか迷った。戦さが始まれば、この鉄砲で人が殺し合うのかと思うと、ため息が出る。
「表島の港には大筒が並んどるし、これは護身用じゃろ。」
でも今は、いつ襲いかかってくるかも知れない龍への護衛として、心強い武器になる。明日から二本の槍と共に、舟に積み込んで鯛釣りに出よう。
多賀(北島と呼んでいる)の港町に、魚や肉の問屋を営む多賀屋升克という男がいる。定期的に鯛を買ってくれる上得意だ。
升克は料理店も経営していて、各地の富豪、商人や旅人、表島の侍が立ち寄るので、繁昌している。
鯛を納めに行ったある日、鯛釣りの技術を極めたい夢を升克に話すと、升克は膝を叩いて楽しそうに笑った。
「そうか、親っさんの志を継いで鯛釣りに精進し、もっと腕を磨きたいと言うか。町ではもう鯛釣り名人と言われとるのに、見上げたもんじゃ。それなら鯛釣りの塾を開くか。」
塾という言葉は初耳だ。
「塾とはな、立派な漁師になりたい者を方々(ほうぼう)から集めて、育てる学舎のことだ。そなたが本気なら、この港に塾を建ててやる、漁の手ほどきをする舟も用意しよう。」
升克は目を輝かせて開塾を勧める。しかし何から何まで世話になれないので、辞退した。だが升克の目が厳しく光った。
「世話ではないぞ。塾や漁で儲けた分け前は、ちゃんと払ってもらう。商売じゃ。」
商売か、なるほど。それを聞いて安心し、やる気がフツフツと沸く。
夏の嵐で、海に出られない日が三日も続いている。こんな日は新しい釣針を叩き、麻の繊維を細く撚った釣糸を貯える。
嵐が小康状態になった時、音根がザクロの実を前掛けに包むように抱えてやってきた。
「裏のザクロがいっぱい落ちたんで、拾って来たっちゃ。」
「よう来たな、もう嵐は止むぞ。母ちゃんの具合はどうじゃ。」
「うん、だいぶ咳が治まって、この前は薬草を採りに、二人で丘へ登ったし。」
音根がザクロをおりんに渡し、囲炉裏の向こう側に座った。鯛釣り塾の計画を話す、いい機会だ。
「そりゃ良かった。ところで北島の多賀屋さんが、オラに鯛釣り塾を開けって言うんじゃ。」
おりんも塾という言葉が初耳だったので説明すると、眉間にしわを寄せて十年早いと即座に否定した。
「一緒に鯛釣りの腕を磨くんじゃ。腕前の違う漁師が集まったら刺激になって、オラも修行ができる。」
おりんは、半人前の若造が名人風など吹かせると、しっぺ返しを食らうに決まっとると言いながら、意志が固いことを感じてか、しぶしぶ反対を撤回した。
音根には前に話しているので、目を細めて黙って聞いている。
「鯛釣りの塾が落ち着いたら、この浜に桟橋を作って、この浜で鯛を売ろうと考えちょるんじゃ。釣った鯛を売りに歩くより、向こうから鯛を買いに来るよう仕向ける。そうなりゃ鯛料理を食べさせる店も浜に作って、商売ができる。そこでじゃ、音根は北島の多賀家さんで、料理や賄いの修行をしてみんか。」
これも音根には話しているので、身を乗り出すでなく反対するでもなく、うなずきながら笑顔で聞いている。




