第61話 幼き少女の想い
「クロ!」
「ルナ! おかえりぶっ……ゴホッゴホッ……うぇ……」
部屋の扉を勢い良く開けて駆け込んできたルナが、俺のみぞおちに頭突きをクリーンヒットさせた。
あまりにも強い衝撃で吐きそうになったが、ルナがガシっと俺を掴んで話さないので吐く訳にはいかない。
「大丈夫ですか? クロード様」
「むぅ……」
ソフィアが俺を心配して声を掛けてくれたが、ルナが俺の体を抱き寄せたまま、ソフィアを睨んでいた。
「ただいま、クロード」
「クロさま……ただいまです」
「あぁ、おかえり。アリス、リア」
「おかえりなさいませ」
「おかえりー」
「エレンさんはどうしたんだ?」
「エレンは、部屋代を払っているわ。人数が増えたから、大部屋を取らなきゃ泊まれないでしょ」
「そうか」
確かに人数が増えすぎたよなぁ……
しかも俺以外は全員女性だし、トリアナは何故か帰らないしな。
俺が意識を回復してから6日後、アリスたちが魔導都市からやっと戻って来た。
北にある魔導都市は、この街から約3日ほどかかる距離だったらしい。
例の男魔導士は、都市のお偉いさんに話をしてすんなり引き渡せたそうだ。
ルナが男を魔法で凍らせていたから、腐ることもなかったみたいだ。
あの男は、どうやら魔導士仲間からかなりの嫌われ者だったらしく。
俺たちとあの男の間にあった経緯と、亡骸の引き渡しをしたら盛大に喜ばれたと言っていた――
「なるほどな。まぁ酷い自己中野郎だったし、何となく気持ちはわかるがな」
「みたいね……私は実際に見てなかったから、複雑だったけどね……」
「アリス……悪いな、面倒なことをさせて……」
「いいわよ。私が好きで勝手にやったことなんだから」
アリスはそう言ってため息を吐きながら疲れた顔をした。
優しいアリスは俺も嫌いじゃないが……損な性格をしているよな……
「アナタはもう大丈夫みたいね」
「そうだな。もう大丈夫だ、問題はない」
時間があったから4日ほど力仕事をしていたくらいだしな。
少しお金を使いすぎたので、何かして稼ごうとしたら。
商会で荷物運びの仕事を募集したいたから、倉庫整理みたいな仕事をして日銭を稼いでいた。
ちなみに冥王の噂探しは、たった1日で終了することになった。なぜならトリアナが……
「え? もしかして探してるのって、冥竜王のこと?」と言ってきたので事情聞いたら。
冥竜王と名乗るドラゴンが、カミール山脈で北の女勇者に討伐されたらしい。
聖王都に居る聖女と交信をして、そんな話を聞いたそうだ。
もっと早く言って欲しかったな。俺がトリアナにちゃんと説明をしなかったのも悪かったが。
てか、冥竜王ってなんだよ……紛らわしいだろ名前が……
竜の部分が聞き取れなかったから、普通に勘違いしてたぞ。
「いろいろと事情を聞きたいところだけど……まずは貴女と話をしないとね」
「私とですか?」
アリスがソフィアを見ながらそんな事を言い出した。
「うん? ソフィアとなんの話をするんだ?」
「クロード……ちょっと席を外してくれる?」
「え……なんでだ?」
「少しだけ……女同士で大事な話をするから……」
アリスはそう言いながら、ソフィアの左手を見ていた。
ソフィアの左手の薬指には、ダイアモンドが永遠の輝きを放っていた――
あ……
それのことか……
トリアナが左手の薬指に指輪をはめているのを見て、ソフィアもすぐに右手から左手に付け直したんだ。
「あれは……な……」
「クロード……」
「う……わかった。外の空気でも吸ってくる」
「ボクもいくー」
アリスの少し冷めたような言葉を聞き。俺は大人しく外へ出ることにした。
ルナとリアも付いてきて、トリアナは左手を隠しながら俺に付いてきていた――
=============商業都市ミルネア・露店街=============
「いやー……あせったあせった……」
うまく隠したなこいつ……
アリスにも大事な話があったんだが……まぁ、後でもいいか。
「クロ……おなかすいた」
「そうか。それじゃ、なにか食うか」
「ん……」
宿屋の一階の受付で会計を済ませていたエレンさんに、挨拶と事情を話して。
俺たち四人は街の露店を見て回っていた。
ルナがお腹をすかせていたので、街の中央広場にある食物屋台でサンドウィッチを買った。
細長いロールパンの間に、いっぱい野菜が詰められていて、その上には甘いバラ肉を載せた食べ物だ。
「ほら。こぼすなよ」
俺は三人に買ったパンを渡し、ついでに横の店で売っていた飲み物も買った。
「おいしいねー」
「ん……おいしい」
「はい……おいしいです」
あぁ……なんか……いいなこの三人。
見た目の年齢が似ているし、言い争いなんてしないし。
まぁ実際の年齢は、俺より遥かに高いがな……リアはよくわからないが。
仲良き事は美しき哉……
仲良くしている三人の女の子見ながら、おっさんみたいな事を考えていたら。
何となく通行人の視線が痛かった。小さい女の子三人に囲まれてニタニタする俺……
うん。やばいな……
「クロ……」
「うん? どうした? ルナ」
食事を終え。四人でマッタリしていたら、ルナが俺に話しかけてきた。
「クロは昔のことを思い出した?」
昔の事……か。
俺の前世の事だろうな。正直に話すべきか……
どうするかな……
「リアちゃん。あっちのお店を見に行こう」
「あ……はい」
俺がルナの顔を見て悩んでいると、トリアナが空気を読んでリアを連れ出してくれた。
そんなトリアナを見ながら、俺は目でお礼を言った――
「そう……だな……黒斗と黒乃の事は……少しだが思い出したぞ」
他の前世も夢で見たが。ルナに直接関係がありそうな二人の名前だけを言う事にした。
「そっか……」
「俺はルナと、何回も出逢っていたんだな」
「ん……」
「ルナは……どうしたいんだ?」
俺の言葉を聞き、ルナは少し悩んだ仕草を見せた後――
「ワタシ……わたしは……クロのちかくにいるだけで……それだけでいい」
「俺の傍に居るだけで?」
「うん……ほんとうは……めいおうなんてどうでもよかった……」
「どうでもって……」
「もくてきがないと……クロといっしょに……いられないとおもったから……」
「そうか……」
ルナにそんな葛藤があったんだな。最初に見た夢で、黒斗は自分の生まれ変わりじゃない奴を探せと言っていたが。
そう言われてルナが探してみると、実際は黒斗の生まれ変わりだったわけだからな……
ルナが時間を飛び越えて、何人の俺の前世と出逢ったのかは分からないが……
永遠とも呼べるような時間を飛んだ先に居たのが、女神と結婚をした黒乃だったわけだしな……
ちゃんとした目的を持って俺に接触をしないと……俺の傍から追い出されると思っていたのかもしれない。
「ルナ……」
「うん……?」
俺はルナを呼び寄せて、その幼い体を優しく抱擁して――
「俺は、ルナを邪魔者扱いなんてしないからな。ずっと……俺の側に居てもいい」
「くろぉ……」
ルナが俺に必死に抱きつきながら、涙声になって俺の名前を呼んだ。
ハーレム宣言なんかして、好きな女を作りまくっている優柔不断な俺だが……
ルナの事もちゃんと幸せにしてあげたい……
黒斗……早く目覚めろよ……
俺とお前には……ルナを幸せにする責任があるんだから……
ルナを優しく抱きしめながら……
未だ目を覚まさないもう一人の俺に向かって、心の中でそう呟いた――




