第62話 大事な約束
暫く時間を潰して宿屋に戻って来た俺は、部屋でアリスと二人きりで話をする事になった――
「はぁ……ずっとアナタの中に閉じ込められていたらしいから。不公平だと思って、二人だけの時間を作ってあげようとしたのだけど……間違いだったのかしら……」
アリスがため息を吐きながら、そんな事をボソッと言っていた。
あぁ……
なるほど、そんな理由からルナを無理やり連れ出したのか……
自分の優しさで、色々と空回りしているな……アリスは……
「しかも、また一人増やしたって……いったい何人の女性を囲むつもりなの……アナタは……」
「ふ……不可抗力だ……いや……すまない……」
言い訳をしようとしたがやめた。というか、トリアナは攻略をした覚えがないんだが……
なんで俺に着いて来ているんだろうか……
最初は俺のことを見張るつもりなのかと思っていたが。何故かそれらしい雰囲気を醸しだしているしな……
黒愛の事が嫌いだから俺から離れると思ったが、俺が男だから良いのだろうか。
「それで……ソフィアを正妻にすることにしたの?」
俺が色々と考えを巡らせていると。アリスがそんな事を聞いてきた――
正妻か……
それは必ず選ばないといけないのかな……
馬鹿な事を考えているとは思うが。一人だけ特別扱いとかはしたくない。
「正妻は……選ばないと駄目か……?」
「みんなを平等に愛するって事?」
「自分勝手だとは思うが……俺はそうしたい……」
「そう……」
ハーレム宣言をして暫く経った後、この世界の結婚の事を調べたら。
重婚は認められていて、正妻を決めなければいけない決まりなんてのはなかった。
つまり夫の気分次第で、妻の数や妾を自分で決めることが出来るようだった。
「ソフィアの事なんだが……俺の前世に、気持ちがかなり引っ張られている気がするんだ」
「どういうこと?」
俺はアリスに、俺の前世とソフィアの前世の事を簡潔に説明した――
「アナタとソフィアの過去に……そんな事があったなんてね……」
「言い訳をするつもりはないが。ソフィアの事になると、俺は自制が効かない時があるんだ」
「そうなの……ルナの方も何かあるの?」
「あぁ。ルナの方も似たような前世を送っていた」
俺のそんな話を聞いて、アリスは少し考えた後――
「それなら仕方ないわね。アナタがそれで良いのなら、私は文句ないわ」
「アリス……ありがとう」
「私にあれこれ決める権利なんて、無いからね」
アリスはそう言うが、俺はアリスに随分と救われている。
優柔不断な俺とは違って、アリスはリーダーシップがありそうだしな。
「私にも……いつか……指輪を贈って欲しいわ」
アリスは俺から少し視線を逸らしながらそう言った。
俺はそんなアリスの左手を掴み、その薬指にルビーの宝石が付いた指輪をはめた――
「クロード……」
「悪いな、一番最初じゃなくて……」
「ううん……そんな事どうでもいい……本当に嬉しい……」
そう言って、アリスは少し泣きながら俺に抱きついてきた。
俺たちは優しく抱き合って、どちらからともなく初めてのキスをした――
=============宿屋・夜=============
アリスと二人でこれからの事を話し合ったが、翌日にこの街を出る事になった。
そして久々のルナの吸血に協力した後、俺たちは就寝することにした――
部屋を取り直して、俺は今まで居た一人部屋から二人部屋へと移った。
ちなみに部屋割りはアリスが決めて、俺の部屋にはルナとリアとトリアナの三人が一緒だ。
何故こんな部屋割りにしたのかは不明だが、俺的にはこの方が気楽だったので納得をした。
俺はルナと一緒のベッドに入りながら、リアと一緒に寝ているトリアナに話しかける――
「なぁ、トリアナ」
「うん? なーに?」
「何故お前は帰らないんだ?」
「え……ボクお邪魔?」
「別にそんな事はないが……何でまだ一緒に居るのかと思ってな」
「んー……なんでかって聞かれると……約束だったしね……」
約束? アストレア様に、見張っていろとでも言われたのだろうか。
「約束ねー……よくわからんが、それは大事なものか?」
「んー……そうだね……別に守らなくても良かったのだけど。ボクにとっては、大事な約束だったかも」
「なんだそりゃ……」
「キミは気にしなくてもいいよ。もしボクが邪魔なら、そう言ってくれたら帰るよ」
「そんな事は言わないさ」
「ありがと……」
誰との約束を守っているのかは知らないが。
そんなことを言うトリアナを、追い返す気も邪魔だと思う気持ちもない。
トリアナとそんな話をした後に、俺はリアにも声を掛けた――
「リア、すまないな。母親の所に連れて行くつもりが、随分と時間がかかって」
「わたしはだいじょうぶです。ルナさまとクロさまの……おそばに居るだけで幸せです」
「そ、そうか……」
色々あって、なかなかリアの故郷に行けなくて悪いと思っていたんだが。
リアはそんな事を全く気にしてはいなかった。
そういえば自分から帰りたいとは言わなかったよな……
リアは寂しくないのだろうか。今の状態が幸せとか言われたら、何となく聞きづらいな。
「クロ……」
「うん? あぁ、眠るのにうるさかったか? ルナ」
「んーん……」
ルナが眠るのに、邪魔をしているのかと思ったが。
俺の返事を聞いて、ルナが首を左右に振った後、言葉を続けた――
「クロは……まだ……異世界がきらい?」
それは……いつか聞いた時の言葉だった。
俺がソフィアに傾倒する態度がおかしかったから、ルナがあの時この言葉を口にしたのかもしれない。
「そうだな……俺は異世界の事、嫌いじゃないぞ。皆と出逢えたこの世界は、好きだ」
今度は俺の言葉を拒絶反応するような頭痛はしなかった。
「そっか……よかった」
「ルナは、いつから俺がおかしくなっていると気付いたんだ?」
ルナはじっと俺の顔を見た後――
「ワタシが最初におかしいと思ったのは、この世界で初めて行った神殿の時だ」
ルナが甘えるような態度から一変して、急に威厳がありそうな雰囲気を醸し出した。
ちょっと久々すぎてビックリしたな……この態度……
出会ったばかりの頃は、こんな風な喋り方をしていたんだよな……
てかこれ、あれか? 母親の真似をしているのか?
よく考えてみると、夢のなかで見た母親の大魔王の喋り方とソックリだった。
「この世界で最初に行った神殿というと……サティナの神殿……あ……」
完全に忘れてたが……名前がそのまんまじゃないか……
え……どういうことだ……何故この世界に、黒乃の女神の名前が……?
「えっと……サティナって……黒乃の妻の名前……だよな?」
「そうだ。アレは、クロがねがいのまほうで創りだした幻影だ」
「え……俺が創った幻影? どういうことなの……」
「クロが、サティナの事を思い出したいのだろうと思ったから、ワタシは何も言わなかった」
「マジでか……じゃぁ、ルナは何も知らないフリをしながら、俺に協力してたって事か?」
俺の言葉を聞き、ルナはコクンと頷いていた。
ルナの態度が意外だったが、よくよく考えて見れば、ルナはいつも黙って俺に協力的だった気がする。
もしかして……あの生気が感じられないような司祭も、俺が創りだしたのか?
すごいな俺……全然わからなかったぞ……
「まぁ……納得できた」
「今のクロが、ワタシの口から前世の事を知ると、壊れてしまう可能性があったから……黙っていた」
「なるほどな……」
一度経験したからな、妙に壊れた俺……
トリアナはたぶん大丈夫だと言っていたが。また不安定になる事があるかもしれない。
「これからも俺がおかしくなる可能性があるから、昔の事を聞いたりはしないが。今までみたいに協力してくれたら助かる」
「アタリマエだ。クロがどんな事になろうとも、ワタシは黙ってクロを助けるダケだ」
「ありがとう」
頼もしいルナの態度に感謝をして。
俺たち四人はその後も色々な話をして仲を深め、そして眠りにつくことにした――
伏線回収と、ヒロインを空気にしないように頑張ると、どうしても物語の展開が遅くなってしまいます。




