第21話 戦乙女
「んー……まだダルいな……」
翌日――
目が覚めた俺の体は、まだダルさを訴えていた。
『おはようございます、クロード様』
「あぁ、ソフィア……おはよう」
「すぅ……すぅ……」
俺の首に腕を回したまま眠るルナを、優しく離しながらソフィアに挨拶を返す。
そしてルナの方を見て……
「こうして見ると……ほんとに子供だよな」
『そうですね……』
ソフィアは何となく複雑そうだ。
俺は、自分の首筋をポリポリと掻きながら……
「すまないな、ソフィア」
『何がですか? クロード様』
「いや……俺の中に閉じ込めているのもそうだが……魔王とずっと一緒に居るのは……気分が良いものじゃないだろ」
俺は神と魔の対立関係なんてよくわからないが。
最初にこの世界に来た時、一緒に居るのは耐えられないとか言ってたしな。
『その事はもういいのです。確かに最初の頃は……それはもう辛かったのですが……この娘も色々あったみたいですし……』
慈愛に満ちたような声で、ソフィアはそう言ってくれた。
「そうか……一緒に付いてきた女神が、ソフィアで良かった」
『クロード様……それは私も……』
「うん……?」
『いえ……何でもありません……』
何か言いかけたソフィアが言葉を撤回する。
少し気になったが俺は……
「ソフィアも何とかして、外に出してやりたいんだがな……神界に戻れるのなら神にでも何でも土下座するんだが……」
言ってて気づいたが、ソフィアがその神だった……
「ソフィア様ごめんなさい……」
俺はベッドの上で土下座した。
『ク、クロード様やめてください……そんな事はなさらなくて結構です』
「いや、すまん……つい……」
『私はもう、戻れたとしても……神界に戻るつもりはありません』
「え……?」
何故か信じられないことを言った。
「戻るつもりがないって……何でだ?」
『クロード様に、ずっとついて行きますから……』
まるで告白のような言葉を聞いたが……
俺の中から出られなかったら、まぁ……そうなるのか。
「大丈夫だ、絶対外に出れる方法を探すから。だからそんな事を言うな」
俺は安心させるようにそう言う。
『いえ、クロード様の外には絶対出たいのですが。例え出られたとしても……クロード様の側にずっと居ます』
「なぜ……あぁそうか……監視するのか……」
この力を見張るためだろうな。
『それもありますが……いえ……その通りです』
危険すぎる力だもんな。
ルナの話じゃ俺が危ないらしいから手放したくはないし。
「外に出られたとしても、あの神々しい格好じゃ……目立ちまくると思うんだが……」
『翼を消せば、大丈夫だと思われます』
消せるのかよ!? ビックリだよ!
「翼って消せるのか……」
『はい、消せます。そもそもあの格好は、演出として出していただけですから』
「演出……?」
『神王は元々翼が生えているわけではありません。転生者である人間を相手に、わかりやすく神として見せるために……戦乙女時代から使っていた力を使って、少しお洒落をしていただけです』
まさかの演出とオシャレ……
なんという……おちゃめさん。
「そ……そうか、確かにあの姿は……綺麗だったしな」
『ありがとうございます』
俺はまた首を掻きながら、自分の素直な感想を述べた。
「しかし戦乙女か……」
ワルキューレとかヴァルキリーとか呼ばれる存在だよな。
「それって、戦える人間を神の世界に連れて行くとか…そんな感じだったっけ?」
『その様な御方達の存在も聞いたことが有りますが……私はまた別の存在ですね』
「そうなのか?」
『はい、私の戦乙女時代の仕事は……クロード様には言い難いのですが……主に……魔族討伐等でしたね……』
何で俺に言い難いんだ……
あぁそうか……ルナのことか。
「別に俺は魔族に思い入れなんか無いぞ、ルナの事は好きだけどな」
正直にそう言った。
『……それに……』
ん? 何だ?
ソフィアが何故か言い淀んでいる。
『人間も……討伐対象でした……』
「なんだって……」
驚愕するような事を言われた。
「どういうことだ……?」
『神界を護る為です……』
「守る……ため?」
何故それが人間討伐になるんだ……
『神界には外部からの干渉を拒絶する為の、強力な結界が在ります……魔族からの進行を防ぐ為に作られた物ですが……』
結界か。
『むしろ魔族よりも……力をつけた人間の方が攻めて来る事が多かったのです。人間の争いに、私達は介入することが有りませんが……結界に人間の方が攻めて来れば……結界を護る為に私達は戦います』
なんだそれ……
「俺みたいな力を持った奴が、攻めて来るのか?」
『いえ、クロード様程の御力を持った方は……そこまで存在しません。私が知る限り、今まで人間に結界を破られる程の事はありませんでしたから』
そういえばこの力で、ルナは神界まで行ったんだったな。
結界を破った……いや無視したのか……
ソフィアが帰れないのは、結界が存在しているからだし。
ルナは、素通りで転生の聖域まで来たのか……
改めて考えると、やっぱりとんでもないな。
「結界が破れないのに、何で人間は攻めて行ったんだろうな……」
『何故……でしょうかね……人間にとって……神々の力は魅力的だったのかもしれません』
なるほど……そういう事か。
『私はその時の功績を讃えられ、大神王様に神王としての御力を頂きました。私はまだ神王としては若い方なので、幾ら御力を頂いたとしても……まだまだ未熟なのです』
若い方なのか……見た目は確かに若かったが。
女性に歳を聞くのは失礼だな……うん。
「そうか……まぁ色々と聞けてよかったよ。ありがとうな」
『いえ、私もクロード様に知って貰えて……良かったです。また……何時でもお話いたしますね』
「あぁ、その時は頼む」
「ん……ん……」
そんな話を終わる頃にルナが起きてきた――




