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朝、アプリを開いて、ふと気づく。
今日だ。
でも、来ていない。
「あれ」
少しだけ胸がざわつく。
まだ一日目だ。
前後することはある。
そう思いながら、いつも通り出勤する。
二日目。
まだ来ない。
さすがに、少し意識する。
身体はいつも通り。
重さも、だるさも、特にない。
検索しかけて、やめる。
まだ二日。
三日目の朝。
目が覚めた瞬間、真っ先に思い出す。
少しだけ、息を止める。
――来ていない。
胸が跳ねる。
心臓がやけにうるさい。
もしかして。
その言葉が、初めてちゃんと形になる。
リビングに戻ると悠さんがコーヒーを淹れている。
「おはよう」
「おはようございます」
少しだけ、声が浮ついている気がする。
言うかどうか迷って、やめる。
まだ確定じゃない。
その日は、やけに時間が長い。
仕事中も、何度もスマホを見てしまう。
夜。
お風呂に入る前に、もう一度トイレに行く。
息を止める。
――赤。
思ったより、あっさり。
がっかり、というより
少しだけ笑ってしまう。
三日遅れ。
戻ってきただけ。
リビングに戻る。
「来ました」
悠さんが顔を上げる。
「そうか」
一拍。
「残念だったな」
「いえ」
首を振る。
「夏って、前後しやすい気もしますし」
そういえば去年も少しズレた気がする。
暑いし、寝不足だし、冷房も強いし。
体なんて、毎月同じじゃない。
「まだ踏み出したばかりですし」
自分で言って、少し照れる。
悠さんは頷く。
「そうだな」
それで終わる。
悲壮感はない。
泣くほどでもない。
三日遅れただけ。
そんな時もある。
その夜、基礎体温のグラフに赤い印がつく。
ほんの少しだけ、波が崩れる。
まだ、次がある。




