45
日曜の午前。
インターホンを押す。
「は、はいっ」
声が少し上ずっている。
私服の朱里。
家の中の匂いがふわっとする。
「おはようございます」
「おはよ」
「あの、支度、もう少しかかりそうで…
上がってください」
「ん」
特に疑わず入る。
部屋はきれいだ。
いつも通り。
ソファに腰掛ける。
……隣に、座る。
ぴったり。
「……支度は?」
「えっと、その、えと…」
視線が泳ぐ。
悠は急かさない、ただ待つ。
「外行くんだろ?」
「きょ、今日は…」
深呼吸。
「おうちデートに、しましょう…」
一瞬、思考が止まる。
「……なんで」
責めるでもなく、本気で疑問。
朱里はぎゅっと指を握る。
「悠さん、お仕事大変でしょうし」
「別に」
「でも、疲れてるの、分かります」
目を合わせない。
「だから、その…」
耳まで赤い。
「くっつき、たい、です…」
悠は数秒、動かない。
脳内が静かに熱を持つ。
学生の頃なら即抱き寄せてたかもしれない。
でも今は違う。
社会人。
彼氏。
守る側。
深く息を吸う。
「……朱里」
名前を呼ぶ声が少し低い。
びくっと肩が揺れる。
「それ、分かって言ってる?」
「はい…」
「外出るつもりだったんだぞ、俺」
「知ってます…」
「一日ある」
「知ってます」
全部分かってる顔。
逃げない。
悠は目を閉じる。
だめだ。
かわいい。
「……ずるいな」
ぽつり。
朱里が恐る恐る見る。
「何がですか」
「社会人の理性試すな」
やっと腕を伸ばして引き寄せる。
朱里が小さく息を飲む。
胸に顔が当たる。
静か。
外の音もない。
「疲れてない」
「でも」
少しだけ腕が強くなる。
「こういうのは、嬉しい」
朱里の手が、そっと背中に回る。
ぎこちない。
でも必死。
「……会いたかったです」
理性はまだ生きてる。
でも薄い。
「今日は、外行かない」
「はい」
「代わりに」
少し顔を下げる。
「俺が我慢できなくなっても文句言うなよ」
朱里が真っ赤になる。
でも、逃げない。
「……言いません」




