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入社して一ヶ月。
仕事はようやく流れが見えてきた。
けど、余裕なんてまだない。
朝は早いし、帰りは読めない。
「今日も遅くなる」
送ったメッセージは短い。
すぐに既読がつく。
『無理しないでくださいね』
いつもの文面。
絵文字も、変わらない。
ほっとするはずなのに、少しだけ引っかかる。
大丈夫。
無理しないで。
その言葉が優しいのは分かってる。
分かってるけど。
会えてないのは事実だ。
今週、まだ顔見てない。
図書館も行けてない。
仕事が忙しいのは言い訳にならないと分かってる。
でも、現実に時間が足りない。
自分に苛立つ。
会社の最寄り駅で、ふと立ち止まる。
ここからなら、遠回りすれば図書館に寄れる。
でも今から行っても閉館間際。
少し顔を見るだけのために
疲れた顔で会いに行くのも違う気がする。
ため息を吐いて、そのまま改札を通る。
帰りの電車で、もう一度スマホを見る。
朱里から、追加のメッセージはない。
大丈夫です、のまま。
それが逆に、胸に刺さる。
――大丈夫、なわけないだろ。
いや、違う。
俺が勝手にそう思ってるだけかもしれない。
朱里はちゃんとしてる。
自分の試験もある。
俺の仕事に口出ししない。
「社会人って大変ですよね」
笑って言った顔が浮かぶ。
あの笑顔に甘えてる気がして、少しだけ居心地が悪い。
家に着いて、スーツのままソファに座る。
時計を見る。
この時間なら、まだ起きてるか。
電話、
迷って、やめる。
疲れてるのは事実だ。
声を聞いたら、多分甘えたくなる。
守る側になったつもりなのに
会えないだけで揺れる自分が情けない。
『今週末、少し時間作れるかも』
数秒で返信。
『本当ですか?嬉しいです』
その一文に、胸が熱くなる。
『でも無理はしないでくださいね』
またそれだ。
思わず、画面を強く握る。
――無理じゃない。
無理にしたくないだけだ。
会う時間を、削られたくない。
仕事に取られるのも嫌だし
疲れを理由にするのも嫌だ。
ただ単純に、会いたい。
それだけなのに。
『無理じゃない。会いたい』
送ってから、少しだけ後悔する。
重いか。
数秒の沈黙。
それから。
『……私も、会いたいです』
短い。
でも、滲んでいる。
スマホ越しでも分かる。
大丈夫って笑ってるだけで、本当は寂しいんだろ。
分かってるのに、今まで見ないふりしてた。
仕事が忙しいのは事実。
でもそれで割り切れるほど、俺は冷静じゃない。
守りたいとか、支えたいとか。
そんな大層なこと言う前に、
時間くらい。
ちゃんと会おう。
短くてもいい。
疲れててもいい。




