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静かな日常が、当たり前になる。
半袖から長袖に変わり
冷房もつけなくなった。
窓の外の葉も、黄色や赤に変わる。
変わらないのは静けさだけ。
「悠さん、手伝います」
ベランダで洗濯を干していると朱里が出てくる。
極力外を感じさせないように
最近は俺が干すことが多くなっていた。
「朱里は座っとけ、俺がやるから」
「手伝いたい気分なんです」
無理に止めることもできず、並んで干す。
すると、下の方から小さい声が聞こえる。
公園で遊んでいる子どもの声。
思わず朱里をみると朱里も下を見ていた。
「……朱里」
「悠さん」
何か言わなければと思うのに
何も言葉にできない。
冷たい、微かな風だけが通る。
「……澪花ちゃん、元気ですか」
思わず、肩が揺れそうになる。
いつからだろう。
懐かしさすら感じる言葉。
動揺に気づかれないよう、小さく息を吸う。
「……元気だと思う」
「大きくなりました?」
「俺も、会ってないからな」
「ですよね」
何もないみたいに、服を干し始める朱里。
これは、
希望だと思って良いのだろうか。
回復の兆し、なのだろうか。
…わからない。
何もできず、ただ時間だけが過ぎた。
自信なんて
欠片も残っていない。
また、間違えてしまうのだろうか。
また…
「悠さん」
顔を上げると視線が絡む。
「澪花ちゃんに、会いたいです」
「……連絡、とってみるか」
「お願いします」
気のせいかもしれない。
でも、確かに
朱里が微笑んだ気がした。




