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「返却、お願いします」
「はい」
処理の音。
もう、この間の沈黙が気まずくない。
むしろ、少しだけ落ち着く。
「今日は静かですね」
「そうですね」
それだけの返事。
なのに。
なぜか、会話が終わらない。
「テスト期間終わったからかもしれません」
篠原が続ける。
「……ああ」
考えてみれば、そうかもしれない。
「篠原さんは忙しくないんですか」
口に出してから、少しだけ踏み込みすぎたかと思う。
でも篠原は首を振る。
「大丈夫です。今週はシフト少なめなので」
“今週”。
自然に、生活の一部がこぼれる。
前なら、ここで終わっていた。
今は、もう一言足せる。
「じゃあ、少し楽ですね」
「ええ、少しだけ」
小さく笑う。
その笑い方が、前より近い。
業務ではない。
会話だ。
処理が終わり、本を差し出される。
カウンターを離れる。
今日は振り返る。
ほんの一瞬。
篠原はもう次の作業に戻っている。
特別なことは何もない。
でも。
最近、図書館での数分が、
一日の中でいちばん温度のある時間になっている。
会話は増えた。
内容は薄い。
でも。
薄いからこそ、重い。
名前を呼ぶことも、
体調に気づくことも、
資料の感想を交わすことも。
全部、少しずつ積み重なっている。
悠はまだ、それを恋とは呼ばない。
でも。
図書館に来る理由は、
もう研究だけではない。




