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昼過ぎの図書館は、いつも静かだ。
人はいるのに、音がない。
ページをめくる音と、遠くの足音だけが、やけに響く。
その中でひとつだけ、違うものがあった。
視界の端で、白が動く。
なんとなく顔を上げると
カウンターの奥に人が立っていた。
見慣れない顔。
新しく入ったのかもしれない。
それだけのはずなのに、なぜか目が止まる。
騒がしいわけでも、派手なわけでもない。
むしろ逆だ。
静かで、落ち着いていて、余計な動きがない。
本を受け取って、バーコードを通して、返す。
それだけの動作なのに、やけに丁寧だった。
興味なんて、別にない。
——はずなのに。
ページをめくる手が、少しだけ止まる。
また、視線がそっちに向く。
今度は、目が合った。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
驚いたように、少しだけ目が開いて。
すぐに、ふっと視線が落ちる。
それで終わり。
それ以上、何もない。
なのに、
なぜか、妙に残った。
「……なんだろ」
小さく呟いて、ページに視線を戻す。
内容は、頭に入ってこなかった。
さっきの一瞬が、引っかかってる。
別に、何かあったわけでもない。
会話もしてない。
名前も知らない。
なのに、
“覚えてしまった”感じだけが、残ってる。
もう一度、視線が上がる。
さっきと同じ場所。
同じように、静かに本を扱っている。
それを見て、
なぜか、少しだけ安心する。
「……まあ、いいか」
小さく息を吐いて、今度こそページに戻る。
その日、
読み終わったページは
思っていたよりずっと少なかった。




