てんとう虫の小さな行進。
夏の光が、まぶしかった。
雲ひとつない青空の下、畑の土はほどよく乾いて、
虫たちの羽音が、にぎやかに空を飛び交っていた。
「にゃ〜……暑いにゃ。けど、風があるからマシだにゃ」
ノラが、ぼくの肩の上でごろんと寝そべる。
その横では、三匹の子猫たちが、のそのそと動いていた。
ヨリミツは笠の上から降りようとして前足をすべらせ、
ミチルはノラの尻尾にじゃれて甘噛みし、
名前のない末っ子は、案山子の胸元に顔をうずめて眠っていた。
ぼくは動けない。
けれど、それが心地よかった。
子猫たちの小さな命のぬくもりが、風に溶けて、ぼくのなかへと染みこんでいく。
そして、今日の主役は――てんとう虫たちだった。
案山子の笠の縁を、赤や黒、黄のまだら模様のてんとう虫が、ぞろぞろと歩いていく。
まるで、列をなして“どこか”へ向かっているようだった。
「……あいつら、行進してるにゃ」
ノラが、やけに真面目な声で言う。
「てんとう虫って、旅するにゃ。小さな羽根で、空の向こうへ。
でも今の空、ちょっと変なんだにゃ……」
ノラが顔をあげて、空を見た。
雲のない青空のなか、ほんの少しだけ、陽の位置が妙だった。
「太陽、少しだけ右にずれてるにゃ……昔より」
気のせいかもしれない。でも、そうかもしれない。
この世界の“季節の巡り”が、ほんのわずかずつ、狂ってきている。
「にゃふ……ま、いっか」
ノラがあくびをして、背中を丸めた。
「てんとう虫たちも、きっと知ってるにゃ。
この村にいるより、もう少し先へ行った方がいいって」
笠の上のてんとう虫たちは、風に乗り、ひとつ、またひとつと飛び立っていった。
それは小さくて、でもとても力強く、真っ直ぐだった。
「……行ってらっしゃい、だにゃ」
ノラのその言葉に、子猫たちがぴくりと反応する。
命の列は、ぼくの肩を通って、空のむこうへとつながっている。
何もできないぼくが、ただ立っていることで、その“道”を支えているような気がした。
てんとう虫の行進は、世界がまだ“動いている”証。
でも、空の太陽は少しずつ傾き、季節もほんの少し狂っていく。
それでも、小さな命たちは、今日も確かに生きて、旅立っていく。
動かない案山子と、語る猫は、それを見送る存在です。




