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百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅱ-Ⅵ.進み続けていたカウントダウン
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91.最初の一歩は決して大きなものではないけれど。

「あ、アテナ?」


 びくっとする虎子(とらこ)。アテナの叫び声に衝撃を受けて、その前にあった、もっと衝撃的な発言には気が付いていない。


 アテナがまくし立てるようにして、


「ちょ、ちょっと!何言ってるの!あんた……馬鹿じゃないの!?」


「馬鹿じゃない」


「馬鹿よ!大馬鹿!そんなことしてなんになるの!?いい?あなたが積み重ねてきた信頼なんて、すぐに崩れ落ちるものなの!それくらい重要なことなのよ?それを、あんた……」


「じゃあ、聞くけど、今後こういう事態が起きないって保証はある?」


「う……そ、それは……」


 アテナが言葉に詰まる。俺は攻勢に出るように、


「だったら、今ここでうやむやにしても意味がないんじゃないの?今度は一日とか二日じゃないレベルになるかもしれない。それでも同じ対応をする?」


「ぐ」


「それだったら、俺は信じたい。甘いって言われても構わないし、それでもいい。もしかしたら、俺の想定よりも良くない事態になるかもしれない」


「じゃあ、」


 俺はアテナの言葉を遮るようにして、


「でも!俺は消したくないんだよ、今日一日を。嫌わるなら、それでいい。仲直りは出来るかもしれない。だけど、消えたものはもう戻らない。違う?」


「そ、それはそうかもしれないけど」


 俺は頭を下げ、


「責任は俺が取る。だから、頼む」


 頼み込む。


 それから、暫くの沈黙があった、その間に虎子が「俺……?」と呟いた気がするけど、些細なことだ。だってこれからもっと衝撃的な事実を知るわけだから。


 やがてアテナが頭をがっしゅがっしゅとかき。


「あーーーーもーーーーー!!!!分かった!!分かりました!!やればいいんでしょ!!やれば!!」


 それを聞いた俺は頭を上げ、


「ありがとう」


 そう告げる。アテナはそれはそれはふかーいため息をついて、


「いいわよ。私はあくまでサポートが役目だから。貴方がそれでいいっていうなら。でも、最後にもう一回確認するわよ。ほんとーにいいのね?貴方が思ってるよりも事実は残酷かもしれないわよ?それでもいいのね」


「大丈夫。まあ、いざとなったら、仲直りするのに力は借りるかもしれないけどね」

 と苦笑い。それを見たアテナはぽつりと、


「……やっぱ、信じるべきなのよね」


 とだけ零し、


「多分、時間的にはせいぜい三十分が限界だと思う。それ以上は分からない。服装は……多分一番記憶に残ってるものになるはず。後なにか聞きたいことは?」


「ないよ。お願い」


「ん」


 アテナはそう言うと、先ほど投げ捨てたスマートフォンを手に取って、いくつかの操作を行う。


 やがて、俺の身体が光に包まれる。虎子が「うわっ」と驚くが、それも束の間。俺を包んだ光は徐々に小さくなる。やがて、その中から現れたのは、


「え……?」


 佐々木(ささき)小太郎(こたろう)

 笹木(ささき)(はな)ではない。この世界に転生する前の俺だ。


 アテナが説明する。


「えっと……詳しく言うと凄く長くなるんだけど、華はね、本来男だったの」


「え、え、どういうこと?」


「そのままの意味。男だったのよ。だけど、元いた世界で死んで、この世界に転生してきた。女子高生笹木華として。そして、彼女……いいや、彼を取り巻くいざこざに、あなたをまきこんでしまった。私からお詫びするわ」


 頭を下げる。虎子はまだ理解が出来ないという風に、


「えっと……意味がよく分からないんだけど……」


 それはそうだ。


 友人として付き合っていた女の子が実は男で、異世界から来ましたなんて話、俺ならまず信じない。質の悪いドッキリか、夢か、その辺として処理するだろう。だから虎子の反応は適切だ。


「そうね……」


 アテナは暫く悩んだのち、


「ね、小太郎。あなた、今日九条(くじょう)さんにメッセージって送った?」


「ん?ああ、一応連絡で……」


「つまり、会ってからは一度も送ってないってわけね?」


「それはそうだけど……」


 一体何をするつもりなのだろうと思っていたら、


「九条さん」


「は、はい」


「貴方のスマートフォンに、笹木華からのメッセージを送りました。送信時間は今日の昼十二時ちょうど。内容は……貴方の隠している思いについて。確認してもらえるかしら」


「あ、ああ……」


 虎子は促されるままにスマートフォンを操作して確認し、


「っ!?」


 即座にアテナの方を凝視する。


「な、な、な、なんで、これを?」


「それは私が女神だからです。そして、その私が、ここにいる小太郎を、この世界に連れてきたんです」


「…………(ぱくぱく)」


 開いた口がふさがらないといった塩梅だ。一体どんなメッセージを送ったのだろう。っていうかなんで俺の名前で送った。


 沈黙。


 やがて虎子が、


「…………本当に、華?なのか?」


「えっと……一応、そういうことになる、のかな?」


 答える。それを聞いた虎子は、一筋の涙を流す、


「と、虎子……?」


 最初、俺は事実を知って、絶望しているのだと思った。


 だけど、それは違うとすぐに分かった。


 なぜならその涙に、一番驚いているのは“虎子自身”だったからだ、


「あ、あれ……おかしいな?俺、なんで泣いてるんだろ……あれ?」


 必死で涙をぬぐい、


「いや、違う。違うんだよ?だって、華は、この世界では華なんだろ?だから、他の世界で男だったとしても、そんなの関係無くて……あれ?関係はあるのか?あれ?」


 否定しながら混乱していく。けれど、その瞳に「拒絶」の二文字はない。


「そう……華は、華なんだ。だけど、俺、ちょっと、嬉しいって言うか、安心しちゃって……」


「安心?」


「そう、安心。おかしいよな……だけど、安心したんだ。ああ、だからカッコいいんだって……だけど、それだったら、俺はなんなんだろうとか、そんなことを……思っちゃって」


 ああ。


 そういうことか。


 虎子はきっと、俺に親近感を覚えていたんだ。同じ女の子なのに、自分と同じような趣味を持って、一緒に遊べる笹木華という存在に。


 俺は謝る。


「それは……ごめん」


 ところが虎子は首を横に振り、


「ううん……大丈夫。悪いことばかりじゃないから、さ」


「?」


「なんでもない」


 虎子はぐしぐしっと腕で拭き、


「えっと…………これからもよろしく……で良いんだよな?」


 とアテナに聞く。当の彼女は話を振られただけで驚き、


「え!?な、なに!?」


「いや、これからも華……いや、小太郎か?」


「あ、華でいいよ。もうすぐ元に戻るみたいだから」


「あ、そうなのね……なら華だ。華は俺たちと一緒に学生生活を送るんだよな?」


「ええ、それは一応……」


 虎子は今度こそ元気を取り戻したようで、


「なら良かった。これからもよろしくな、華」


 と、俺に手を差し出してきた。


 その手を取っていいのだろうか。


 そんなことを考えていると、


「握手。してあげなさいよ」


 隣からせっつかれる。うるさいな。今しようと思ってたんだよ。


 と、そんな宿題をしない小学生みたいな言い訳を心の中でしつつ、俺は差し出されたその手を、がっつりと握った。

次回更新は明日(12/5)の0時です。

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