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百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅱ-Ⅴ.メイドとパフェと、時々恋人
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85.見逃してしまったもの。

 それから暫くの間、俺と虎子(とらこ)は二人して、相手のことを(しかも恋人同士で付き合ってると仮定して)褒めるというイベントをこなしていた。


 いや、こなしていたというのは語弊がある。割とうまく言ってはいなかった。特に虎子。彼女なんか途中から完全にうつむいて、「もういっそコロシテ……」と呟いていた。


 そして、八代(やつしろ)はそんな彼女を見て楽しそうにするのだった。一応店員と客なはずなんだけど。


 後で聞いた話だけど、この店の常連である虎子は、八代とかなり仲が良く、ちょっとした相談事を持ち込むこともあったらしい。その中には「どうしても恋愛をする」ということについて頭が行かない。よく分からない」みたいな内容もあったという。


 八代としても常連の、そして、個人的にも気に入っている客の相談だったのでなんとかしてあげたいと思う気持ちはある反面、その方法を思いつかずにいたらしい。


 そして、今日。


 彼女はひらめいてしまったのだそうだ。


「いや、ね?恋人同士とか、恋愛とかの気持ちが分からないっていうなら、実際に一日限定でもなってみればいいんじゃないかなって思ったわけ。ちょうどスペシャルパフェを頼んでるし、一緒に居た(はな)ちゃんも可愛かったし、これはもう、最大のチャンスだなって」


 虎子は若干恨めしい目線を向け、


「それにしたって限度があるでしょ……」


「あはは……」


 確かに。途中からは全力で楽しむ八代と、辱められる虎子という構図が完成してしまっていた。当初の目的をちょっとだけ見失っていたかもしれない。


 八代はさらりと話題を転換して、


「でも、実際に付き合ってみるってのはありだと思うよ?トラちゃん、モテるでしょ?だから、「ちょっといいかも」って思った子と付き合ってみる、とか」


 それに対し虎子は、


「それ、は。ほら。最終的には分かれるのに、失礼だから」


 八代が腰に手を当てて頬を膨らませ、


「んもー……ヘタレなのに、そういうところだけは頑固なんだから」


 言ってやってください。


 もっと言ってやってください。


 この子はそういう子なんです。


 八代が鼻から一つ息を吐き、


「ま、そういうことなら別にちゃんと付き合わなくてもいいよ。だけど、今日一日の恋人関係。これは駄目かな?」


「うっ……それ、は……」


 虎子は少し言葉に詰まり、


「で、でもそれって、結局華に付き合わせることに」


「だって。どう、華ちゃん?」


 八代がそう話を振ってくる。俺は即答で、


「あ、私は大丈夫ですよ。全然。むしろ務まるのかなってって方が心配なくらいで」


「え~?そんなことないよ。華ちゃんは十分可愛いって」


「あ、ありがとうございます」


 俺は思わずうつむいてしまう。なんだろう。八代の誉め言葉には凄く説得力を感じる。これがナンバーワンの実力なんだろうか。


きっとどんなお客様相手でも同じように勇気づける言葉を言っているだろうに、それがうわべだけの言葉にはどうしても思えないのだ。


 八代は虎子の肩をポンと軽くたたき、


「ま、頑張って。当たって砕けろだよ。大丈夫。屍は拾ってあげるから」


「……砕ける前提何ですね」


「きらっ☆」


「なんでそこでポーズをとるんですか……」


 明らかに誤魔化しにかかった八代。そのおかげかは分からないが、虎子も少し落ち着き、


「まあ、でも、分かりましたよ。華。すまないんだけど、その、今日一日、恋人ってことで、いい、か?もう、そんなないけど」


「あ、う、うん」


 なんだこれ。むずむずする。原因はなんだ。この全体的に女の子女の子した空間か。照れて視線を合わせられない虎子か。それを暖かい目で見守る八代か。どれだ。それとも全部か?


 それを見守った八代はうんうんと頷き。


「そうそう。何事も動いてみることが大事だよ。トラちゃん、頭が良いから時々考えるほうに集中しすぎちゃうもんね。たまには考えないで動いてみるといいんだよ」


 と言いながらアルカイックスマイルを浮かべたのち、


「それじゃ、私はもう行くね。いくらお客さんが少ないとはいえ、ここで長居してると、店長に起こられそうだから。それじゃ、まったね~」


 と、そんなことを言いながら、手を振り振りして、俺たちの席から立ち去っていく。その背中を追っていると、次の瞬間には、ついさっき入店したお客さんに対して愛を振りまいていた。切り替えも凄いけど、もしかして気が付いていたのかもしれない。


 店の入り口には大き目の鈴がついていて、客の出入りが分かるシステムになってはいる。それで察知したのだろうか。ナンバーワンは違う、ということだろうか。


 八代を目で追いかけていると、お会計をする一人の客が視界に入る。なんとも特徴的な髪の色だ。緑なんて地毛じゃまず見ない。


「緑……」


 俺はアテナの忠告を思い出す。そういえば、彼女曰く「緑色のものが好き」と言っていた気がする。


(流石に違う……よな?)


 もしあの人が“そう”なら、俺たちになんかしらのアクションを起こしてこないとおかしい。だけど、現実には退店しようとしているところだった。考え過ぎだろうか。

 と、そんな店内の光景を眺めたのち、俺は再び虎子の方を向く。すると、


「あっ」


 視線を逸らされた。


 いや、違う。ついさっきまで、ずっと俺のことを見ていたんだ。それで、いざ振り返ったら、恥ずかしくなって逸らしたんだ。なんだよそれ。調子狂うじゃないか。ちょっと可愛いと思っちゃったよ。

次回更新は明日(11/28)の0時です。

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