表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。  作者: 蒼風
Ⅱ-Ⅴ.メイドとパフェと、時々恋人
92/137

84.恋の魔法をかけよう。

 俺が、


「どういうことですか?」


 と聞くと、八代(やつしろ)が、


「うーん……なんていうのかな。恋愛ってほら、魔法だから」


「魔法」


「そう。魔法。トラちゃんは今、その魔法のような恋愛っていう関係性を知らない。だから、それを捨てようとしている。諦めようとしている。だけどね、トラちゃん」


 そこで言葉を切り、ずいと虎子(とらこ)に近寄って、


「一度踏み込んだら。きっとトラちゃんは思うはず。これを守るために、戦うって。トラちゃんは……ううん。九条(くじょう)虎子は、それが出来る人間。違う?」


 語り掛ける。虎子はそのはっきりとした視線から目を逸らし、


「そ、そんなことは……」


 と曖昧に言葉を濁す。


 分からなくもない。


 今、虎子は天秤にかけている。家族……いや、両親と戦うことを選択することと、恋愛を含めた今の自由を失うことを。そして、彼女は後者を選んだ。その選択自体は決して間違いではないような気がする。


 だけど、確かに。ただの幼馴染ではなく、恋人を守るためとなれば、その原動力は違うかもしれない。恋は盲目という言葉もある。若いころの恋愛なんて、振り返ってみればただの気の迷いで、性欲にそれらしい理由をつけていただけなんてこともあるかもしれない。


 けれど、けれどだ。


 虎子という人間の力を考えると、誰かを守る。その決心は重要な意味をもつ。そんな気も確かにするのだ。


 俺はぽつりと、


「私、は。恋愛についてはまだ、分からない、でも」


「華……?」


「今日は凄く楽しかった。虎子はどう?楽しくなかった?」


「それ……は、楽しかった、けど」


「でしょ?だから、さ、それがなくなっちゃうのは、やっぱり嫌だよ」


「っ……!」


 再び視線を伏せる。


 本当は捨てたくないのだ。


 彼女だって、自由に、今みたいに、俺や美咲(みさき)、それから他の面々と、馬鹿をやりたいのだ。その延長線上にあるかもしれない恋愛だって、きっと失いたくないに違いない。


 そんな一連のやり取りを見ていた八代が、


「そうだ、良いことを思いついた!」


「良いこと、ですか?」


「うん。(はな)ちゃん。君が恋人になればいいんだよ」


「はい…………はい?」


 ごめん、ちょっと耳が遠かったかもしれない。


 今「俺が虎子と付き合う」みたいなフレーズが聞こえた気がするんだけど、


 俺は思わず聞き返す、


「え、今なんて……?」


「だから、華ちゃんがトラちゃんと付き合うの。今日一日。恋人役をやるの。そうすればきっと、恋愛の何たるかも少しは分かると思うんだけど。どうかな?」


「え、えええええ…………」


 どうかな?と言われても困る。


 だって、虎子は別に俺のことを恋愛として好きなわけじゃないでしょ?それだったらそれはただの恋人ごっこ、


「恋人ごっこだったとしても、意味はあると思うよ?だって実際に恋人になるんだから。期間限定でも」


 怖い。


 この人エスパーかなにかなの?人の思考回路を読むのはやめてほしい。気が付いたらマインドコントロールされてそうだ。


 八代はぱんと手を合わせ、


「はい、それじゃ、よーい、スタート!」


「え、」


「それじゃ質問ね?華ちゃんは、トラちゃんのどこが気に入って付き合うことにしたのかな~?」


 いきなり聞いてくる。え、これもう始まってるの?俺らの意思は関係なし?


 戸惑いつつも、


「えっと……そもそも付き合ってるわけじゃ」


「え~?でもスペシャルパフェは恋人限定だよ~?」


「ぐっ」


 痛いところを突かれる。たしかに、メニューにはでかでかと「恋人限定!」という文字が躍っている。ポップな文字体にピンク基調の色で、ハートマークの囲いまでしてあるから超目立つ。無視なんかさせないぞという意思力を感じる。


 ここで「でも最近は仲良し二人組でもいいってことになってるんですよね?」と言ったらどうなるだろう。見逃してくれるだろうか。


 いや、ないな。多分「それはそれとして、恋人として、どこが好きか教えて欲しいなぁ~」と聞かれるに違いない。くっ……これが人気ナンバーワンか。最初は天使みたいな人だなってちょっと思ってたけど、今は後ろに悪魔の羽根としっぽが見えるような気がする。


 仕方ない。


 俺はすこぶる小さな声で、


「えっと…………音ゲとか、凄くうまくて、かっこいいところ……とか」


 向かい側の席で虎子が「うっ」とダメージを受けていた。ごめんよ。でもこの場面で全くの嘘を言うのもどうかと思ったんだ。カッコいいと思ったのは本当だから許しておくれ。


 それを聞いた八代は「へぇ~」と楽しそうにし、


「じゃ、トラちゃんは?トラちゃんは華ちゃんのどこが好きなの?」


「ふぇっ!?」


 急に話を振られた虎子はなんだか聞いたことのない声を出していた。


「付き合うからにはあるんでしょ?ね?教えてよ。お姉さんだけに、ね?」


 とせっつく。それを受けた虎子はやっぱり非常に小さな声で、


「…………悩みとか、凄く真剣に、自分のことみたいに悩んでくれるところ、とか。あと、趣味を笑ったりしないところとか」


「うひゃっ……!」


 なに!?


 なにこれ!?


 めっちゃはずかしいんですけど????


 いや、褒められてるんだよ。それは分かってる。分かってるんですよ。だけど、だからといって素直に「ありがとう」なんて言えないよ。そんな、別に、え、ホントに恋愛的な意味じゃないよね?この流れで一応言ってるだけだよね?ね?


 それを聞いた八代は自らの身体を抱えてねじるように悶え、


「かーわーいーいー!!!!」


 多分、その台詞はメイドさん側が言うものじゃないと思うんだ。おかしい、どうしてこうなった。

次回更新は明日(11/27)の0時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ