表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/137

77.男勝りな少女は、少年漫画を好む。

 なにかの小説で見たことがある。ドカ飯くらいというのはつまるところ、生きる上での“キアイ”みたいなものが違うのだと。


 その理屈で行けば、虎子(とらこ)はとんでもない“キアイ”を持って日常を生きていることになる。


「いやぁ……豚増して正解だわ」


「よ、よかったね……」


 凄い。


 あんなにいっぱいあったはずの麺やトッピングがほとんど無くなってる。しかも俺とほとんど食べる速度に差が無いじゃないか。こんなことあるのか。


 俺の胃が女子高校生相当になっているだけなのか、それとも虎子の胃袋がおかしいのか。多分後者だな。だって、食べられなくなった感じはしないもん。


 いつも通りのイメージといつも通りの限界点。食べられる量が多くなれば当然摂取エネルギーも多いと思うんだけど、今のところ太ったりはしていないから不思議だ。俗に言う「食べても太らないタイプ」ってことだろうか。


 虎子は残り少なくなった具材と麺を丼の底から救い出しながら、


「やっぱ……引いた、よね?」


「え?」


「こんなにドカ食いして、女の子っぽくないよね。うん。分かってた、分かってたんだよ」


 そう言いながら、手元のレンゲに作ったミニラーメンをすする。


 俺は素直に、


「まあ……女子高校生が食べる量じゃないよね……」


「うっ」


「でも、なんだろうな……虎子っぽいなって思った」


「俺っぽい?」


「うん。最初は凄い量だなって思ったけど、でも、それを美味しそうに食べてるところは凄く虎子っぽいなって。私はその方が好きだな」


「あ、ありがと、」


 そこで言葉を紡げなくなる虎子。答えを探すようにして、丼の底をレンゲですくっていくが、もう具材や麺がひっかかることは無かった。


 暫くの沈黙。


 やがて虎子が、


「あの、さ」


「うん」


「この後なんだけど、さ。(はな)の行きたいところに行きたいなって」


「私の……?」


「そう。ほら、俺の行きたいところばっかり行っててもあれだし?ね?」


 そう迫ってくる虎子。


 俺の行きたいところといえば、正直言ってア○メイトか、まんだら○くらいしかないわけで、そこに虎子を連れていったとして、楽しんでもらえるとは思い難い。


 そもそも今日の目的は「彼方(かなた)の誕生日プレゼントを買うこと」でそれは完全に果たされている。だから、これ以上虎子に付き合ってもらう必要は無い。


 けれど、


「……あんまり楽しくないかもしれないけど、いい?」


「いいよ。付き合うよ」


「っ……それじゃ、そこに行こうか」


 このまま別れるという気持ちにはどうしてもなれない。なぜかは分からない。だけど、虎子の言った「付き合う」という言葉は正直どきっとした。いつもの快活な彼女とは違う、不安を抱えた表情が、脳裏にこびりついて、どうしても離れなかった。



               ◇



「えっと…………ここ、なんだけど」


 人間、思い切ったときは結構無茶なこともできるし勇気も出来るものだ。


 だけど、それはあくまで一過性のものだ。長続きしないものだ。ええいやってしまえで飛び込んだは良いものの、時の経過と共に冷静になって、自分がいかに無謀なことをしたのかについて自省してしまうものだ。そして、思うのだ。穴があったら入りたいと。


 いや、違うんだ。最初は大丈夫だと思っていたんだ。元はといえば虎子が言い出したことだし、虎子だって大分「年頃の女の子らしくない」ところを見せた。その後ならいけるだろう。そんなあまりに楽観的過ぎる決断を下したのだ。何を考えているんだろう、十数分前の俺。ひっぱたいてやりたい。


 でも、時は戻らない。


 来てしまったものは仕方ない。


 結論を言おう。俺と虎子は今、アニメ○トの入り口付近に立っている。


 もちろん、通行の邪魔にならない位置に、だ。


 まんだ○けから音楽ショップから、お笑い劇場までが入った複合ビルの三階部分に存在するこの店舗は基本的に女性客比率が圧倒的に多い。と、いうかそもそもア○メイト自体、女性客比率が多いような気がする。


 池袋にある本店は、乙女ロードに隣接しているその立地もあって、腐女子の比率が大変多いし、渋谷店も例によって例にもれずということなんだろうか。


 ここでしかもらえない店舗特典なんかもあるから、割とくることは多いんだけど、元の世界にいたときは正直場違い感が凄かった記憶がある。


 そういう意味で、今の「笹木(ささき)華」としての姿は、むしろ適していると言える。


 では何が問題なのかといえば、それはもう、隣でぽかんとしている九条(くじょう)虎子の存在であって、その反応を見てしまった俺としては、「まあ行けるだろう」というなんの根拠もない自信を抱いてしまった過去の自分を呪いた、


「なんだ、ここか」


「…………はい?」


 え?今なんて言った?


 あっけに取られている俺をよそに虎子が、


「ここなら、昔美咲(みさき)と一緒に来たことあるよ?なんだ、早く言ってくれればよかったのに」


「え……ほんとに?似た感じの違う店、とかじゃなくて?」


「うん。なんならここだよ。ここ。いつだったかなぁ……前に美咲と渋谷に来た時だったと思うんだけど」


 美咲と渋谷だと。それはつまりデートか。デートと受け取っていいのか?その時の状況を詳しく伺ってもよろしいのか?


 そんな暴走する俺の思考回路をよそに虎子は、


「ま、俺一人ではほとんど来ないんだけどな。だけど、ジャン○漫画も売ってるから、このへんに用事がある時はたまに寄ってるよ」


「マジ?」


「うん。大マジ」


 びっくりだ。虎子がアニメ○トに来たことがあるなんて。いや、その目的がジャ○プ漫画なのは完全にイメージ通りだけど。

次回更新は明日(11/19)の0時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ