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69.音質は値段帯によって明確に変わるらしい。

「ありがとうございましたー」


 レジのお姉さんにお礼を言われ、俺は店を後にする。既に外で待っていた虎子が、


「お、買った?」


「うん。買えた買えた」


 結局、ワイヤレスのイヤフォンを送ることにした。色は黒。値段は八千円くらい。虎子(とらこ)曰く最低でも五千円台以上のものにはした方がいいということだったので、その値段帯から、俺が一番いいと思うものにした。


 吟味している際には「真剣だなー」と虎子にイジられたりもしたけれど、こればっかりは仕方ない。気になってしまうんだから。二つのイヤフォンのうち、どっちを買うかの選択をするまでに十分以上迷ったこともあるくらいなんだぞ。自慢じゃないけど。


「さて……これからどうしよっか?」


「そう……だね」


 正直、今日の目的はもう済ませてしまった。一応額面的にはまだ余裕があるものの、別に一万円ピッタリを目指すゲームではないので、予算に余りがあっても問題は無い。


 手元の金自体に余裕はあるから、もう一つくらい何か小物を追加してもいいような気はするけど、それこそ適当に選んで追加するくらいならない方がいいような気がする。


「一応予算はもうちょっとあるけど……それは何かこれってものを見つけた時でいいかな」


「そっか。それじゃさ、どっか行きたいところとかある?」


「行きたいところ?」


「そ。ほら、一応今日は、昨日の埋め合わせだからさ。(はな)の行きたいところがいいかなって」


 ふむ。


 言いたいことは分かった。


 が、正直なところ俺に「行きたいところ」の選択肢なんてほとんどないに等しい。


一応渋谷なら、ちょっと駅からは離れるけどアニメ○トが入っているビルなんかは時間も潰せるし、見落としていた新刊本が発見できることがあるからたまに行っていた。


 だけど、そこに虎子を連れて行くのは正直どうかと思う。いや、虎子じゃなくてもどうかとは思うけど。


 今の俺の知り合いで、あそこに行こうといって喜ぶのなんてそれこそ彼方くらいじゃないだろうか。彼女とならそれなりに楽しい時間が過ごせる気がするけど、虎子がどうかは分からない。


 性格を考えると俺の趣味がどうであれ受け入れてくれるとは思うけど、虎子自身が楽しんでくれるかと言われればまた別問題だ。百合の素晴らしさを啓蒙知するという手もあるにはあるけど、彼女と美咲の間に横たわっている問題は「虎子が同性愛に抵抗があるから」ではないから、ただの自己満足に終わってしまう可能性が高い。


 なので、


「うーん……それじゃ、虎子が普段行くところ、とか?」


 虎子はあっけにとられ、


「お、俺?」


 自らを指さす。俺は首肯し、


「うん。ほら、昨日いったとこは割と美咲のホームだったじゃない?だから、虎子のホームも知りたいなって思ったんだけど、どう?」


 そんな言葉に虎子は目をぱちぱちさせたうえで、


「い、いいけど……そんな楽しいもんじゃないと思うぞ?」


 うん。そうだね。多分本人からしたらそうなんだと思うよ。俺だって虎子をアニメ○トに連れていこうとは思わないのと一緒だ。あくまで自分の世界であって、それを相手が好きになってくれるかは分からない。


 他方、俺からしてみれば正直結構興味がある。美咲との問題を解消するためにも、虎子のことをよく知っておきたい、というのもないわけじゃない。


 けれど、一番は、ここ最近でつかみどころが無くなって来た九条(くじょう)虎子という人間の輪郭を、もう一度はっきりさせておきたいだけなのかもしれない。


 虎子は余り納得がいかないようだったが、


「んまあ、華がそれでいいなら、いいんだけど……」


 と言いつつ俺を案内してくれる。


一体彼女は普段何をしているんだろう。クラスメイトとして、友人として触れていても、分かることは正直少ない。


この世界に来て(幼馴染だった夢野(ゆめの)は除くとして)最初に知り合った友人ということもあるし、もっと仲良くなっておきたいじゃないか。やっぱり。


「お、まだあるな。良かった良かった」


 何かを発見した虎子の声。俺はその視線の先を確認すると、


「……ゲームセンター?」


「そ。昨日もケンヤたちと一緒にいったんだけど、久ぶりだったもんだから、楽しくて。つい」


 そう言う彼女の顔はどこか気恥ずかしそうだ。


 ゲームセンター。


 それこそ小さい頃は不良のたまり場のようなイメージを持っていた時期もあった気がするけど、いざ俺自身がそれくらいの年齢になってみると、また違った顔が見えてきた場所だ。


 近年は店舗数も減少の一途をたどっているという話もあるが、それでもまだ、ここでしか出来ないゲームや、味わえない空気感は確かにあるとは思う。もっとも、それだけでうまくいくほど現実は甘くないわけだけど。


「ここで良いか?華?」


「うん。大丈夫。あんまり来たことは無いけど」


 ちなみにあんまり、という語句は「目の前にあるこのゲームセンターには」という枕詞が隠れていたりする。他のゲームセンターなら、まあ、そこそこだ。


「うし。それじゃいきますか」


 一つ、意思を確認して、虎子はゲームセンター内に入っていく。その目はおもちゃ売り場にたどり着いた少年の様だった。

次回更新は明日(11/10)の0時です。

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