70.順番待ちの時間つぶしに音ゲーはちょうどいい。
ゲームセンター、と一口に言っても、その目的は実に多種多様だ。
主に一階のエントランス部分には基本的にクレーンゲームや、プリ○ラのような、初心者でも触れやすい、いわゆる「テンプレートなゲームセンター」感のある筐体が並んでいる。
が、そこから一個階層を移動すれば、その先には全く違った世界が広がっている。
初心者狩りと衰退の関係性が常に取沙汰される格闘ゲーム。峠に実在のレースコースにと、あらゆる場所をあらゆる車種で疾走するレースゲーム。ゾンビや未知の敵が存在する空間で、敵を狙撃するシューティングゲーム。
その他にも大画面と大型の筐体を使った競馬ゲームや、単純な麻雀や将棋のゲーム。はては昔懐かしのレバーとカラフルなボタンで動かすドットゲー筐体など。
その配置具合は店舗によってさまざまだが、概ね高い階層になればなるほど専門性と対象年齢が上がっていく傾向にあり、大体最上階にはスロットマシンが置いてあることが多い。
そんな遊びの総合施設の中で、虎子が選んだものと言えば、
「音ゲー、やるんだ」
「まあな」
そう。
音ゲーだった。
ようは、音楽に合わせてパネルをタッチしたり、筐体を操作したりすることでハイスコアを目指していくタイプのゲームの総称だ。「音ゲー」は略称で、正しくは(恐らく)「音楽ゲーム」という。
使用される楽曲はゲームオリジナルのものから、アニメや映画の主題歌や、過去の名曲などが収録され、それぞれ個性豊かな譜面や、プレイ感で新規のユーザーを獲得しようと躍起になっている。
種類こそかなり多いが、初心者から上級者まで一通り楽しめるゲームとして根強い人気がある。一番下の難易度を必死にプレイしている隣で、最高難易度譜面を片手でプレイしているなんていう光景もそんなに珍しいものではない。
「華はこういうのやる?」
「うーん……まあまあ」
正直に言うと、そんなに得意じゃない。
元々この手のゲームをプレイし、データを記録していくにはカード(最近はスマートフォンでもプレイできる場合があるみたいだけど)が必要になってくる。
そして、そのカードは音ゲーのみならず様々なゲームで併用が可能となっているのだ。
何が言いたいかって?他のゲームをプレイして、帰り際にちょっとプレイするくらいはしていたってことだ。
だけど、逆に言えばプレイ歴なんてそれくらいだ。パフェだって低難易度譜面でやっとだし、そもそもEX譜面はクリアできていない譜面の方が多い。
「へぇ、じゃあ一緒にやろうぜ。俺、最近Ubeatにはまってるんだ」
「あー」
Ubeat。
ゲームセンターの音ゲーの中でも割と古参の部類に当たるゲームだ。4×4のパネルで、光った部分を押していくという一見単純なシステムだが、当然高難易度になればなるほど意味不明な速度でパネルが点滅することとなり、俺はそうなってくると処理が追い付かなくなって死ぬことになる。
時々思うんだ。あれは人間がやるものなんだろうかって。音ゲ星から飛来した音ゲ星人専用じゃないんだろうか。
「データ持ってる?」
「いや……」
どうだろう。
元いた世界では、まあまあプレイしたデータを持っていたはずだ。だけど、あの世界で俺は一回死んだはずだ。その手のデータが残っているとは思えない。カードも財布に入ってなかった気がするし。
なので、
「データは持ってないな」
それを聞いた虎子はあっけらかんと、
「そっか。ま、今はスマートフォンでも出来たと思うし、やろうぜ?な?」
何とも積極的だ。美咲のこともそうやってデートに誘ってくれたらどんなに楽だっただろうか。いや、でも、彼女は受けの方が似合うような気がするからこれでいいのかな。
「そうだね。やろうか」
「うし、やるぞ」
虎子はなんだか嬉しそうだ。
もしかしたら、こういった趣味を共有する相手がいないのかもしれない。
ありえない話ではない。白百合女学院はお嬢様学校で、寮もある学校だ。休日の外出などは小さい申請用紙一枚書くだけでいいし、その申請理由にしたって。「援助交際してきます」とか「パパ活してきます」なんてことを堂々と書いたりでもしないかぎり、呼び止められることもないそうだから、ゲームセンターに通うということも全く無理ではないはずだ。
ただ、出来るからと言って、やる、というわけではない。
俺が接してきた限り、あの学院の生徒に、虎子のような男友達がいるという話は聞いたことがない。
どころか、学院外に友人がいるという話もあまり聞かない気がする。
それだけ閉鎖的な世界だと、仮にゲームセンターに足を踏み入れても、階段を上り下りすることはきっとないのだろう。もしかしたら虎子は、俺みたいに興味を持ってくれる友人を待ち望んでいたのかもしれない。
そう思うと、心的距離も近くなったような気がする。別にそれが目的ではないし、彼女と距離を縮めて欲しいのは美咲なわけだけど、将を射んとする者はまず馬を射よともいう。
この場合将が何で、馬が何なのかは分からないけど、後押しをするのに仲良くなって奥に越したことは無いはずだ。決して同じ趣味の持ち主が見つかったからテンションが上がっているとか、そういうことではない。いや、ちょっとはあるけどさ。
「よっ、と」
虎子が筐体の認証部分にゲームパスをタッチする。俺も同じようにスマートフォンをタッチする。するとユーザー設定を聞かれるので、慣れた設定にしていく。
名前だけが「kota」ではなくて「hana」になるわけなんだけど、その入力に一切の迷いも入力ミスも生じなかったことがちょっと怖い。段々と小太郎としての成分が薄くなってきている気がする。いや、いいのか?別に小太郎に戻ることがあるわけじゃないし。
そんなことを考えていると、
「なんだ、慣れてるじゃん」
隣から声がする。虎子だった。
「え?」
「華が入力とか戸惑ったら教えてあげなきゃなって思ったんだけど……その必要はなさそうだなーって」
「あ」
そうだ。
俺はあくまで「まあまあやる」程度の設定だったんだ。
いや、まあまあなのは間違いない。間違いないんだけど、それはあくまでゲームセンターに通いなれてる人間の「まあまあ」だ。良い子のみんなは覚えておくといいよ。周りに廃プレイヤーが一杯いると、感覚って平気でマヒするから。
ただ、そんな俺の気づきをよそに虎子は、
「なんだ、もっと早く誘えばよかった」
と悔しそうにしている。やっぱり仲間が欲しかったのかもしれない。
次回更新は明日(11/11)の0時です。




