60.頼りにしてもらえないというのは辛いものだ。
「え」
男?今、男って言った?つまり俺は男と似てるってこと?え?これもしかして良くない感じ?
俺は恐る恐る、
「えーっと……それって、性格がってこと、ですか?」
「それもある。けど、なんだろうな……雰囲気が似てるんだ。華は女子高校生っていうより、男子高校生に近い雰囲気がする。アイツもそういうやつだったからな」
男っぽいって言われてるぅ!?
まずいだろ。いや、不味くはないのか?生物学上は女なんだからなにも恐れることはない、はずだ。下着を脱がせたら「ついてんじゃん」ってことにはならないんだから。うん、大丈夫。
おっさんぽい女子高校生だって世の中にはいるはずだ。男子高校生みたいなのがいても不思議じゃない。虎子だってちょっとそれっぽいところあるじゃないか(乱暴)。
「まあ、偶然だと思うがな。なにはともあれ、私と千代は昔馴染みで、この学校に誘ってくれたのも千代なんだよ」
「あ、」
思い出す。
未来は旧知に導かれるようにしてこの学校にやってきたのだという話を。あれは本当だったんだ。
「だからまあ、感謝はしてるし、こうやって飲みにも誘う。毎回先に酔いつぶれるのは、もうちょっと自重してほしいとも思うが、千代は千代で色々あるんだろうから、言わないことにしているんだ」
そんな風に語る未来の視線は千代に注がれていた。その視線は実に暖かいもので、
(あれ?)
考えてしまう。
もしかして、ここ二人、ちょっといい関係なんじゃないか?
分からない。あまりに判断材料が少なすぎる。
だけどね、覚えておくといいよ。百合脳っていうのは、こういうちょっとしたつながりとか、感謝とか、そういった何気ない日常のワンシーンを拡大解釈したうえで、強めの幻覚を見せる機能を備えているんだ。ううーん……もうちょっと「愛」を感じる思い出があれば十分なんだけど……。
未来はそんな俺の思考を分断するかのように、
「それで?華は何を悩んでいるんだ?」
「へ?いや、別にそんなことは」
未来はにやりと笑い、
「隠すことは無い。私だって医者だ。専門外とはいえ、メンタル面のことについても一通りは理解しているつもりだ。どうだ?悩みを解消できるかもしれないぞ?」
うーむ、なんとも敏い。この感覚は千代を相手にして優位に立つためにも使われてるんだろうなぁ……ひょっとして、酒の原因はこの人なんじゃないか?
だけど、悩み事があるのは事実だ。なので、
「そんなに大したことじゃないんですけど、」
と、切り出すと、
「その切り出し方で大したことなかったことはほとんどないな。私の経験では、だが」
そう、推察されてしまった。ううん、やりにくい……。
◇
それから、俺は美咲と虎子の関係性について、二人の名前を伏せた上で、一般的な話に落とし込んだうえで、未来に語った。
話を聞いている間、未来はいつになく真剣な表情で、基本的には言葉を挟むことなく、ずっと聞き手に回っていた。言動からするととんでもない人にしか見えないけど、やっぱりちゃんと校医なんだと実感した。やる時はやる。それが伊原未来という人間なのかもしれない。
そんな彼女は一言、
「規格外の人生に巻き込みたくない、ねえ……」
ぽつりと零したのち、
「相手はきっと巻き込んで欲しいだろうな」
「そう…………でしょうね」
結論はまさにその通りだ。
恐らく、美咲は虎子の「規格外の人生」に入れてもらえた方がずっと幸せなはずだ。
もしそれが「九条虎子」と言う人間の人生を窮屈にしてしまうとするならば、周りの、それこそケンヤたちなんかも巻き込んでしまえばいい。
彼らだって、虎子がどうしても困っているというならば手を貸すことはやぶさかではないはずだ。そして、そんな「虎子の味方」は俺が思っているより、ずっと多いに違いない。
だけど、虎子は彼ら彼女らの力を借りることはしないはずだ。
あくまで彼女は「ヒーロー」であり続けるのだ。
関係性が強まれば、無視できなくなる。
無視できなくなれば、当然戦うことになる。
虎子の家族。
つまりは九条家と。
「うーーーーーーーーん…………」
未来は唸り、
「人間ってのは、実に面倒な生き物だな」
と、なんとも言えない結論を出し、
「華。私はな、本当はもう人の相手をする気はなかったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。人を診るってことは生涯するつもりがなかったし、もし仮に、人を診なければいけないのであれば、医者そのものをやめるつもりでいたんだ」
「天才医師なのにですか?」
未来は苦笑いし、
「そういうとこもアイツにそっくりだな……」
まじか。
今のなんて男女どちらでも言うような台詞じゃないか。そんなに俺はアイツとやらに似ているのか。どんなやつなんだ、アイツ。
「まあ、一つアドバイス出来ることがあるとするならば、裏切ったり嘘をついたりしないことだな」
「嘘を、ですか?」
「そう。そういう子は多分、自己評価が低いからな。長い時間をかけて積み上げた信頼でも、一階の裏切りで崩れ去るってこともありえる」
「そんなもん、ですか」
「そうだな。そしてそれは恐らく両方に言えることのはずだ」
未来はそう、結論付けて、
「さて……ほら、そろそろ帰るぞ。千代ちゃん」
そう言って千代を揺さぶる。当の彼女はといえば、
「ううん……千代ちゃんっていうなぁあ~」
とだけ呻くが、一向に覚醒する気配はない。
未来は、
「ま、なんにしても頑張れ。そんな話をするということは、相手はきっと華のことを信頼しているはずだから、きっと力になれるはずだしな」
とだけ告げて、千代を起こす作業へと戻っていった。
次回更新は明日(10/29)の0時を予定しております。




