54.季節限定メニューもあるらしい。
「へぇ……これがそうなんだ……」
美咲が感心しながらテーブルの上に乗っている品を写真に収める。そこには二人でシェアする前提で注文したミニシロ○ワールがあった。
そう。
俺ら二人は今、コ○ダ喫茶店にいる。分からない人に補足をしておくと、コメ○喫茶店は名古屋に端を発する喫茶店チェーンで、ネット上では「ボリュームがやばい」という評価を貰うことの多い店だ。
俺なんかだと、多いには多いんだけど、一人で食べきるのにはそんなに問題が無かったイメージなんだが、そこは花の女子高生。食べる量も少な目というわけだ。
ちなみに先ほど一応定食を食べたじゃないかというツッコミは俺もした。したけど、「甘いものは別腹だから」というありがちな文句で逃げられてしまった。別腹なら俺いらないんじゃない?というツッコミはあえてしないでおいた。まあ、俺も嫌いじゃないしね、○メダ喫茶店。
注文したメニューは俺がクリームソーダで、美咲がアイスコーヒー。そしてシェア用にミニシロノワー○である。
とはいっても、美咲の「ミニでいいよ、ミニで」というビビり具合を考えると、シェアと言うよりも「俺の頼んだものを美咲に分ける」みたいな形になってしまいそうな気がするのだが、まあ、よしとしたい。お腹の具合は全然大丈夫だしね。
これ、大丈夫かな、太ったりしないかな。ラブコメ特有のダイエット回は要らないよ?俺は。
「こ、これが……噂の……」
美咲がわなわなとしながら、取り分け用の皿に一切れ移す。俺は思わずくすりとして、
「そんなに気になってたの?」
そこで美咲は、ちょっと恥ずかしくなったのか。視線を逸らしつつ、
「え、ええ。悪い?」
「いや、悪くはないけど」
そう、悪くはない。
悪くはないけど、彼女がそこまで気になっていたという事実がちょっとおかしかった。こういう言い方はあれだけど、年頃の女の子っぽいなって思った。
俺は意地悪く、
「それだったら、ほら、虎子を誘ったりとかしなかったの?虎子なら多分食べられるよね?」
美咲の視線はさらに泳ぎ、
「と、トラは……」
取り皿に移したそれを眺めながら、
「あんまり、甘いもの好きじゃないから……」
「ああー……」
なんだろう。凄く納得してしまった。なにせ注文してたメニューがかつ丼だ。スイーツよりもステーキの方が好きそう(偏見)
美咲が、
「と、取り合えず食べよ?ね?」
と話題を転換する。まあ、いいや。深追いする話でもない。それに元をただせば彼女から虎子の話を聞くためにここに来たんだ。上に乗っかっているアイスクリームもちょっと溶けてきている。
「そう、だね。それじゃ私も失礼して……」
そう言いつつ取り皿に取ろうとすると、
「あ、そのまま食べちゃっていいよ?」
「……あ、はい」
やっぱり大半は俺が食うことになるらしい。ま、いいけどね。
◇
十数分後、
「美味しかったけど……やっぱり一つは無理かな、私は」
それが美咲の出した結論だった。
結局、あれから彼女は、自分が取り分けた分をペロリと完食したうえで、俺に「食べていいよ」と言った分まで物欲しそうな目で眺め、最終的にはちょうど半分こくらいの量を食べていたのだった。どうやら相当気に入ったらしい。
ただ、味は気に入っても量の多さには耐えきれないようで、「私がこれ一個食べるなら……お昼は抜かないと駄目かもなぁ」と呟いていた。いや、あなた定食を食べてこれ半分食べられるならそんなに心配しなくてもいいと思いますよ?
そんな俺の脳内感想をよそに、美咲は手元のアイスコーヒーを一口飲み、カップを手で包み込むようにして持ちながら、
「トラはね、ヒーローなの」
「……はい?」
唐突だった。
唐突すぎて何の話か全く分からなかった。
美咲もその自覚はあったようで、
「ごめんね。突拍子もない話で。でも、取り合えず聞いてほしいんだけど……いいかな?」
「うん。分かった。聞くよ」
駄目なんて言うはずもない。
彼女が今語ろうとしているのは、俺の疑問に対する答えのはずである。だったら余計な茶々なんて入れる必要は無いし、入れちゃいけないと思う。黙って聞く。それが正解のはずだ。
美咲は「ありがとう」と一言だけ礼を言って、
「私とトラの家が隣同士っていうのは知ってるわよね?それはね、何も最初からずっと隣同士だったわけじゃないのよ」
「そうなの?」
「そ。元々この辺に住んでたのはトラで、私たち──牛島家はその隣に引っ越してきたって形になるの。まあ、隣って言っても、トラの家からすれば周りの家は全部隣の家だとは思うけどね」
周りの家。
そのフレーズはつまり、
「あの、虎子の家ってもしかして」
美咲は軽く頷き、
「名家よ。この辺でも名の通った、ね。私の家も別に貧乏じゃないし、むしろ裕福な方だとは思うけど、トラの家……九条家はそれとはけた違いに大きな家なの」
そこまで語って、口に手を当て「いっけない」と言った具合に、
「あ、これ喋っちゃ駄目なやつだったかも……」
「あ、大丈夫だよ。別に口外はしないから」
「そう?それじゃお願いね。トラ、この辺の話あんまりしたがらないから」
「そ、そう、なんだ」
家の話をしたがらない。そこまで聞いてピンとくる。そういえば先ほども彼女は、自分の家に足を踏み込まれるのを嫌がっていた気がする。あれはやっぱり俺を踏み入れさせたくないということだったのではないか。
彼女の持っている事情がどんなものかは分からない。けれど、その事情は俺に知られたくないのだろう。そこにある感情が恥ずかしさか、それ以外のものかは分からないけど。
次回更新は明日(10/21)の0時です。




