53.女友達と、恋愛対象の境界線は。
一旦分かれる。そして、後で合流する。
なるほど、悪い考えじゃないと思う。虎子はきっと、ケンヤたちとも遊びたいと考えているはずだ。だけど、その中に(美咲はともかく)俺が必要かと言われると答えは間違いなくノーだと思う。
仮に俺が佐々木小太郎ならばきっと自然に輪に入っていけたのかもしれない。
けれど、今の俺は笹木華だ。佐々木小太郎じゃない。男子高校生ではなく、女子高校生なのだ。それを言ってしまえば虎子もそうなのだが、彼女はそもそも彼らとは付き合いの長さが違うから例外だ。
だからこそ、一旦分かれる。虎子はケンヤたちと遊びに行き、俺と美咲は二人で時間を潰す。そして、後から再び合流する。それならば美咲とデートしたい虎子サイドと、ケンヤと遊びたい虎子サイドの思惑が完全に一致するはずだ。
そこに俺たちの思惑がないけど、まあいいだろう。俺としては美咲と二人で遊んでるところの方が見たいけど、旧友と遊びたいという思いを邪魔してまで叶える願いじゃない。
虎子はまだ迷っている感じで、
「で、でも……凄く待たせちゃうかもしれないし」
美咲がすぱっと、
「大丈夫。いざとなったらトラの家にお邪魔するだけだし」
それを聞いた虎子は急に全力で、
「そ、それは駄目。待ってるなら、美咲の家にしてくれ」
否定する。
なんだろう。虎子の家なんて美咲は何度も行っているだろうから、この場合否定されたのは俺ということになるはずだ。
彼女が俺を嫌っている……っていうことは多分ないと思うから、部屋が汚いとか。家族に会わせたくないとかそんな感じだろうか。まあ分からない理由ではない。
美咲は、そんなことは百も承知といった感じで、
「はいはい……分かったわよ。まあ、かかりそうなら連絡してくれればいいから。今日の目的は達成できたし、ね?」
そう言って俺に合意を求める。いや、「ね?」とか言われても困る。そりゃ、目的は俺の服を選ぶことだったかもしれないけど。
「分かった。んじゃ、また後でってことで」
「そ。またあとで」
美咲はそう言って虎子に手を振る。虎子はそれを確認し、旧友たちの輪に戻っていく。男友達の。
「……あれ?」
ふと思う。
彼らは虎子のことをどう思っているのだろうか。
恐らく虎子の方には脈が無いと思う。ああいう質に恋愛的な感情があったら、自分の好意を隠したり、素直に遊びに行ったりなんてことは出来ないはずだ。きっと顔に出てしまうに違いない。
では、ケンヤたちは?
彼らと虎子の関係性は分からない。小学校時代に遊び友達だったのは間違いないし、その時の虎子は「女の子」ではなく「男の子」のような扱いを受けていたはずである。
でも、それはあくまで「小学生時代」の話だ。いくら一人称が「俺」であろうが、趣味が男っぽかろうが、実際の彼女は立派な「女性」である。出るべきところはきちんと出ているし、引っ込むところもきちんと引っ込んでいる。恋愛的な感情を向けられていても全くおかしくないのではないか。
そして、そんな彼らと遊ぶというのは、ひょっとすると狼の群れに餌を与えてしまうような行為だったのではないか。
「あの……」
「ん?なあに?」
俺はそんなことを確認するべく、
「彼らっていうのはえっと……虎子とどういう関係で?」
質問下手くそか俺。三人は、どういう集まりなんだっけ?
だけど、美咲はそんな俺の意図をしっかりと汲んでくれた。
「あー……虎子のことを恋愛的な感情で好きなんじゃないかってこと?」
「えっと……はい」
本当はオブラートに包みまくって聞くつもりだったんだけど、バレているのならば仕方がない。ここでお茶を濁してもより確信を深めるだけだ。
美咲は、「んー……」と悩み、
「それはちょっとここでってのはアレだから、喫茶店辺りに入りたいところだけど…………そうだ!ねえ華ちゃん」
「えっと、はい」
「華ちゃんは、まだお腹入る?」
「えっと……はい?」
よく分からなかった。美咲も流石にその自覚はあったのか、苦笑いしながら、
「えっとね……実は私、前々からずっと行ってみたかった喫茶店があるの」
「そうなの?」
「そ。だけど、その……一人で行くのはちょっとハードルが高くって。頼んでみたいメニューもあるんだけど、それが結構なボリュームで……」
「ああ……」
なるほど。
それで「よく食べそうな俺」に助っ人を頼みたいということか。
話は分かった。なので、
「いいよ。と、言ってもそんなに力になれるか分からないけど」
それを聞いた美咲は明らかに表情を明るくし、
「ホントに?やった。それじゃ、行こっか?」
そこまでいって、ナチュラルに俺の手を取った。だからそれは虎子にしてあげなって。
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