46.百合カップルって言うのは彼氏役と彼女役がいるんだよ。
「友達三人でお出かけ、か」
結局美咲は、俺の説得もあって、虎子と三人で出かけるという選択肢を取ることにしたらしかった。
らしかった、というのは、その決定と、具体的な時間の調整は、俺が寮に戻り、夕食と風呂を済ませた後、暫くした後にメッセージアプリで届いたため、そこに至るまでの思考回路の一切を知らないからだ。
そのメッセージアプリは、なにかと必要だろうということで事前に美咲のアカウントと友達同士になっておいたという代物で、後に虎子のアカウントとも友達同士になったうえで、気が付いたときには三人だけのグルーまで作成されていた。
正直このグループでの俺は不純物にしか見えないし、そもそもこの手のアプリを家族以外との連絡にまともに使ってこなかった身としては大分異文化感が凄いんだけど、多分これが主流なんだろう。これが現役の女子高校生ってやつなのだろうか。違うか。
ただ、そんなやり取りのおかげで、無事に時間と場所も決まり、二人が実家住まいの俺が寮住まいということもあって、現地集合にしようという話になり、今、俺はその集合場所にいる、というわけだ。
背後には、駅の象徴とでもいうべきフクロウのモニュメント。正直なところ俺はこれがこの世界にある、というだけで大分衝撃だった。
学院から一歩外に出てみて驚いたのだが、この世界はあの学院だけが特異点みたいな状態らしかった。要は「学院以外は元居た世界と全く変わらない」ということだ。
池袋もあれば渋谷もある。秋葉原にだって足を伸ばすことが出来る。あのどでかい敷地を擁する学院が都内にある、というのにも驚いたけど、その最寄り駅が、池袋から電車で一本のところだったのはもっと驚いた。
多分俺の生きていた現実世界じゃああいう広大な土地を持った学院っていうのは十中八九田舎にしかない。そもそも土地代が高すぎてペイ出来ないからだ。流石転生先の世界。そんなことは関係ない。そこにしびれたり憧れたりは特にしないけれども。
「ごめんなさい、遅れちゃって」
「ごめんごめん、遅れた」
声が聞こえる。振り向くとそこには私服姿の美咲と虎子がいた。
「ううん。全然、今来たところ」
別にそんなことはない。そんなことはないがそういうことにしておく。それがマナーってものな気がするから。別に待ってても退屈しなかったしね。この世界と元の世界に差はあるのかとか、そんなことを考えていたらすぐだったから。
(しかし……これは、なるほどね……)
改めて二人の私服を見て思う。
これは確かに俺に頼むはずだと思う。
美咲の服装を一言で表現するなら「ふんわりお嬢様」という感じだった。あれは……なんていうんだろう。俺には女物の洋服に関する語彙が欠落しているから、上手く説明できないけど、黒のブラウス?だろうか。それにふんわりとした白いレース生地のスカート。手にはこじゃれたハンドバッグを持っている。あの学院に通うくらいだ。きっと有名なブランドのものに違いない。
対して、虎子の服装は一言で表現するなら「男勝りな姉貴分」という塩梅だった。上はオレンジのパーカーで下は青のジーンズ。そこに斜め掛けのショルダーバッグ、という取り合わせ。
パーカーはフルジップで、割とそのジッパーが開き気味だったので、中に来ているものもちらりと見えたのだが、どうやら柄シャツの様だった。
こちらは割と、俺が(しかも笹木華としてではなくて、佐々木小太郎として)着たとしても違和感がない感じで、着こなしとしてもそんなに問題は無い、と思う。
……思うんだけど、この好みで、美咲の服を選んでも多分、気に入っては貰えないと思う。それくらい対照的な二人だった。
でもね、覚えておくといいよ。百合っていうのは割と「彼氏っぽい方」と「彼女っぽい方」がいるから、こういう方がいいんだ。やっぱり幼馴染レズカップルじゃないか(確信)
と、俺はそんな妄想をしていると、美咲が、
「それじゃ、行きましょ?」
と、ナチュラルに俺の手を取ってくる。それを見た虎子が、
「あっ」
あっ、じゃない。
なんだ今の反応は。見たぞ。明らかに「なんで華の手を握るんだよ」みたいな顔をしていたのを。聞いたぞ。虚をつかれた感じの「残念そうな声」を。やっぱり脈はあるんじゃないか。
もし美咲が虎子のことを恋愛として好きならばこれはかなりいい兆候だ。ただ、そうなってくると、今日の俺は完全にお邪魔虫になる。どうしようか。頃合いを見て、用事があるとか言って退散しようか。でもあんまり露骨にやっちゃうとそれはそれで嫌な奴っぽいし、難しいところだ。
「うーん」
悩む。そんな俺の手を美咲が引っ張る。先ほど嫉妬の目線(※華の勝手な想像です)を飛ばしていた虎子は、美咲と手をつなぐのは諦めたのか、反対側の隣を確保していた。ただし、手はつながない。うーん、もどかしい。
次回更新は明後日(10/12)の0時です。




