45.いわゆるイメチェンってやつ。
「服を選ぶのに付き合って欲しい?」
「そう。駄目かしら?」
週末の休み時間。美咲に呼び出された俺はそんな相談を受けていた。
「えっと……また、なんで私に?」
「えっと、ね。普段は誰かと一緒にってことはないんだけど、たまには気分でも変えようかなって」
なるほど。
要するに「自分以外のセンスで選ばれた服が着たい」ということだ。考えは分からなくはない。俺も自分で選んだ服はびっくりするほど同じような色と作りばっかりで、見るに見かねた“アイツ”が選んでくれたこともあったもんな。ん?アイツ?アイツって誰だ?まあいいや。
話は分かった。が、それなら、
「えっと…虎子は?」
美咲は両の人差し指で小さくバッテンを作り、
「駄目。虎子だけだと、全然見当違いのものを選びそうだから」
「あぁ……」
ごめんよ。ホントは「そんなことないよ。虎子だってきっといいものを選んでくれるよ」と言ってあげたいんだけど、この場合は流石にそうはいかないと思うんだ。
まだ付き合いは浅いけど、虎子と美咲のセンスが真逆だろうということはこの俺でも容易に想像がつく。
もしかしたら虎子は虎子で自らの趣味の範囲でセンスのいい私服を着ているのかもしれない。
が、それが美咲の好みに合致するかと言われれば多分ノーだ。不思議なもんだ。恋愛的な相性はばっちりの幼馴染百合カップル(※華の勝手な感想です)なのに、好みは全然違うんだから。だからこそ惹かれるものがあるのかもしれないけどね。
ただ、そうなると、俺と美咲が二人でデートに出かけるという展開になる。別に美咲のことが嫌いなわけではないし。そういう女友達とのお出かけと言うフレーズはなかなかに心がときめくものではある。
あるんだけど、それをやってしまうと虎子が嫉妬するのはまあ間違いないし、二人の関係性に余計なヒビを入れてしまうかもしれない。それはよくない。非常によくない。俺を巡って二人が争うなんて展開はもう要らないんだ。既に美術部から熱烈な勧誘を受けている身だ。これ以上余計なことをしないようにしたいところだ。
一方で、美咲の「虎子のセンスだと自分とかけ離れ過ぎているから」という考えも理解は出来る。そんなわけで、
「それなら、さ。折角だから、虎子の服も選んであげるといいんじゃないかな。ね?」
という折衷案を出した。もちろん、嘘ではない。
嘘ではないが、本当のところは虎子と美咲のデートを眺めたいからという欲求があるからに他ならない。
そもそも俺いるのかな?虎子に選んでもらえばいいじゃん。イメージ変えたいってんならなおさら。冒険するのが怖いってのは分かるけど。彼氏の色に染まってみるのもいいと思うよ(※華の勝手な彼氏彼女設定です)。
俺の提案を受けた美咲は「うーん」と少し悩み、
「そう、ね。虎子もきっと華ちゃん…………と一緒に遊びに行きたいでしょうし、仲間外れにするのは良くないわよね」
なんだろう。なんで途中一回言葉に詰まったんだろう。
まあいいや。話がうまくまとまるならそれで十分だ。これであとは、途中から半分背景と化して二人を見守ればいい。服を選ぶときは……難しいかもしれないけど。
途中で用事を思い出して……っていうのは少し無理があるか。本当は二人だけのデートみたいな形に持っていきたいんだけど、それを作ろうとすると、必然的に俺が一人だけ帰るという状況を作らないといけない。なんだったらアテナに頼んでアリバイ作りに協力してもらうか。アテナと用事があるってことにして。
いや、駄目だ。
それをやるとただでさえ「友達以上のものを感じる気がする」という評価を受けている(と思われる)俺とアテナの間柄に更によからぬ設定が追加されかねない。うん。やっぱり基本は二人と一緒に行動しつつも、要所では背景に徹する。それでいこう。
「そうだよ。それに、私も虎子と仲良くなりたいし」
と、何気なく告げると、
「虎子と……仲良く」
美咲が何とも言い難い表情のまま活動を停止してしまった。やっぱりもっと仲良くなりたいのかな?それとも、俺が横取りするんじゃないかって思っちゃったのか。
大丈夫。俺はそんな無粋なことはしない。百合は眺めるものだ。間に割り込もうなんて考えちゃ駄目なんだよ。それはね、ギルティ―なんだ。
やがて、再起動した美咲が、
「そう、ね。仲良くなれるといいわよね」
と、続ける。その顔はハリボテみたいな笑顔だった。
なんだろう。
もしかして、あれだろうか。恋愛感情はあるんだけど、踏み込み切れずにいるんだろうか。
もしそうだとしたら、その悩みは聞いてあげたいところだ。俺や彼方みたいな百合好きならともかく、基本的に女性は女性に恋をしないものだという考えの方がマジョリティ―だ。
最近はやれLGBTだのジェンダーだのと言って、様々な価値観が認められつつあるみたいだけど、実際にはまだまだ主流ではないし、オープンにすることには抵抗を感じても決しておかしくはない。
美咲と虎子の仲が良いのは傍から見ていても分かるし、俺からすればお似合いの百合カップルにしか見えないんだけど、当人たちがそう思っているとは限らない。虎子は単純に親友としての関係性を望んでいる可能性だって少なくはないはずだ。
もし、告白でもしようものなら、その関係性を壊すことになるかもしれない。踏み込むというのはそれを承知の上でやる、かなり勇気のいる行為なんだろう。
俺に出来ることがあるかは分からない。もしかしたら、余計なお世話かもしれないし、力不足になってしまうかもしれない。だって、俺は悩みを分かってあげられるようになる、んだから。
※次回更新は明日(10/10)の0時です。




