約束
「悩みを、分かってあげられる人になれるといいね」
それが、母の口癖だった。
今思い出してみても、母親との思い出の大半は、病院の一室だった。当時は「ちょっと病気がちだから、入院することが多い」くらいに思っていたし、実際にその認識自体は間違っていなかったと思う。母は病気がちだったし、入院することも多かった。
では何が間違っていたのか。
答えは単純だ。その入院が、根治という形で終わるかどうか、というところだ。
「悩み?」
「そう。悩み。小太郎はない?「うーん、困ったなー」って時」
「ある。授業中分からないのにさされると困ったなーって思う」
母はぷっと噴き出して、
「それは大変だ」
「うん、大変」
仕切り直すように、
「そんな、困ったな―ってことが起きたとき、誰かが助けてくれたら、どう思う?」
「嬉しい。凄く嬉しい」
「でしょ?だからね、小太郎。そういう「困ったな―」ってなってる人の気持ちを分かってあげて、力になってあげられるようになれたら、お母さん、嬉しいなって」
そんな言葉に俺は力強く頷いて、
「なる。約束するよ」
「ホントにー?」
「いいよ。ゆびきりげんまん、してもいい」
それから俺と母は、じゃれるようにして指切りをして、約束をした。
悩みを分かってあげられる人に。
それが母の最初で、そして、
最期の、願いだった。




