表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/137

35.ドクター・イハラ、襲来。

「だか……………く体調……………て~………でしょ~☆」


「いいで…………じゃない。もし君が本当に調子が悪かったなら、そんな……た声は出ないはずだろう。違うか?」


「…ったり~☆」


「全く…………ほら、帰った帰った!」


「ちぇ~☆」


 目が覚めた。


 それと同時に耳に声が届いてきた。誰だろう。一人は保健室の先生で間違いないと思うけれど、もう一人が分からない。会話の内容は全て聞き取ることは出来なかったが、どうももう一人の方が保健室から追い出されたようだ。仮病の生徒か何かだったのだろうか。


 段々と意識がはっきりしてくる。


 仮病が駄目、ということは、俺もアウトなんじゃないか。いくら数が多いとはいっても保健室のベッドは有限だ。本当に体調を崩してやってくる生徒の邪魔になるんじゃないだろうか。


 幸い今はさっきまでとは比べ物にならないくらい頭がすっきりしている。何時間寝ていたのかも分からないけど、これなら授業中に居眠りをかますことも、うっかり「俺」というフレーズを使ってしまうということも無いだろう。


 戻ろう。


 そう思って、ベッドを出ようとしたその時、


「さて、そろそろ起きたかな、可愛い可愛い新入生君」


 バッ!


 カーテンが一気に開け放たれる。随分と遮光性に優れたものだったらしい。視界が一気に明るくなり、思わず目を覆う。髪で隠れていてもまぶしいものはまぶしいのだ。


「おっと、すまない。まぶしかったか」


 少しして、目が慣れてきたので、隠していた手をどかす。するとそこには、


「…………誰?」


 保険医らしき人物が立っていた。


 らしき、というのには理由がある。なにせ恰好が変人性のオンパレードなのだ。


 目には一世紀前の英国紳士がつけていそうなオラクル。白衣こそ羽織っているが、その下にはなぜか競泳水着を着ていた。その上に羽織った白衣は明らかにオーバーサイズのもので、ところどころに汚れが目立つ。ポケットにはボールペンやらなんやらが適当に差し込まれ、肩には聴診器がかかっていた。


 やや暗めの紫色をした髪は「手入れがめんどくさいから取り合えず伸ばした」というレベルで長く、ところどころがはねっかえっているのは、天然パーマなのかただの寝癖なのか区別がつきづらいレベルで暴れ放題だ。恐らく白衣が無ければ保険医ではなく不審者として認識し、急いで逃げ出していたと思う。


 そんないかにも怪しい風貌の女性は、誇るようにオラクルをくいっと上げる仕草をし、


「私か?私はドクター・イハラ。天才医師だ」


 自分で言うのか、天才って。



                   ◇



「随分ぐっすりと寝ていたぞ。よほど睡眠不足だったんだろう。駄目だぞ、年頃の女の子が。老いというのは油断しているとあっという間に来るからな」


 ドクター・イハラは見た目の印象とは裏腹に、かなりまともな人だった。


 本名は伊原(いはら)未来(みらい)。白百合女学院高等部の校医を務めているらしい。


 後に彼方(かなた)に話を聞いたところ、風貌は間違いなく変人だけど、腕は確かで、本来ならばいち私立高校の校医に落ち着くような人物ではないという。


 若くして海外に渡り、医学を学んでいたものの、周りの研究者と対立するような形で日本に帰国。帰国した先でも問題を起こし、旧知に導かれるようにして、白百合学院に赴任した……というのが大まかな略歴らしい。


 もっとも、その略歴も噂話の域を出ない上に、人によっていうことがまちまちなので、話半分で聞いておいてほしい、とのことなのだった。


「もう時間が時間だ、今から教室に戻ってという訳にもいかんだろう。今日はこのまま帰るといい。なあに、体調不良で一日療養させたことにしておくから安心しておけ」


 そう。


 俺としては「ちょっと寝て、なんとか活動できるレベルにする」という気持ちでベッドにもぐりこんだのだが、そのままぐっすりと夢の世界をさまよい、気が付いたら、既に昼休みも終わり、午後の授業が始まった時間になってしまっていたのだった。流石に、一時間も寝ていないだけのことはある。


 未来は手元の用紙に何かを書き込みながら、


「にしても、また随分長い間寝ていたが、どうしてそんなに寝不足になったんだ?アブノーマルな自慰行為に夢中になって、ついつい夜通し夢中になってしまったか?」


 真顔でなんてことを聞いてくるんだこの人は。


「ルームメイトもいるんで、したくても無理だと思いますよ?」


 そんな言葉を聞いた未来は勝手に盛り上がり、


「なんと!おちおち自慰行為も出来ないと!それはいけない。今すぐしていきなさい。幸い今、ここには私と君しかいない。見られるのが恥ずかしいというのなら、カーテンの向こうに行ってくれてもいいぞ?それともあれか?見られる方が興奮するタイプか?それなら私が観察してもいいぞ?そうか!道具が必要か。何がいい?バ○ブか?ロー○ーか?アナルビー○もあるぞ!」


 いやいやいやいや。


 なんで俺がそんな欲求不満みたいになってるんだ。いや、しないわけではないけどね。うん。でも、ここではしないよ?


「あの……別に大丈夫ですから。ただ、ちょっと考えごとをしてて眠れなかっただけなので」


 それを聞いても未来はなお半信半疑といった具合に、


「そうか?我慢は良くないぞ?君みたいな子は性欲をため込みやすいからな。そうして大学でヤリ○ンに引っ掛かって、セ○クスだけ上手い女にならない為にも、正しい性欲の発散をだな」


「大丈夫です、大丈夫ですから」


 両手で制する。


 前言撤回。やっぱり変人だった。


 見た目にしてはまともだし、全て俺を心配してくれているのは間違いないとは思うんだけど、そのベクトルがおかしい。そもそも水泳の授業でもないのに競泳水着を着ている時点でまともなわけがなかったな。うん。きっとあれだろう。暑いからとかそんな理由だろう。この学院に所属すると暑さで服装がおかしくなる病気にでも罹ってしまうのだろうか。

次回更新は明日(9/25)の0時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ