第005話 そうだ、魔王を狩りに行こう!
「説明ってのはなんのだ?」
「これよ、これ! 私の下腹部についているこの呪印のことよ!」
それかとギオニスは言うと、オークの呪印について話し始めた。
オークの呪印とは、秘技の一つで、知能ある相手を屈服させるために使うためにある。
と言ってもその手段は原始的だ。
本能に訴えかけ、相手を服従させる。
その本能と言うのが性欲だ。
なぜ、性欲なのだとギオニスに問いかけられても彼自身「昔からそうだった」としか説明できない。
が、これがやはり効果が高い。
呪印をつけたオークの命令と共に相手の身体中に快感が走る。
その快楽は常人では一発で反抗する気が失うほどだ。
どれだけ気を強く持っていても、殆どの生き物は最後には命令をねだるほどになる。
理性ある者にとって本能に溺れたそれを見せつけることは対象だけでなくそれに関連する者たちの尊厳を簡単に踏みにじる。
「エンラがお前がまともで驚いていたのはそういうわけだ」
「ほぅ……」
リリアはその言葉に眉をピクリと動かした。
完全に怒っているのが分かる。
なぜだろうか。
そんな言葉を口にしたら多分一瞬で斬り殺される。
それもこれも、エンラが最後に残した言葉だ。
《淫乱の姫騎士》リリア。
どう聞いても冗談にしか聞こえない言葉。
それが、大真面目に脅威と判断され、今まさに吹聴されようとしている。
「で、私が淫乱だと?
貴様はまだいい! 《暴食の王》?
そのままじゃないか! 何で、私は《淫乱》なんだ!」
怒ってばかりのリリアには差し詰め《憤怒》の方が似合っている。
と、そんなこと言ったら火に油なのは自覚しているので、口を開かない。
「まぁ、普通はオークの呪印を付けられたら廃人になるからなぁ」
「くっ……」
ギオニスの言葉にリリアは悔しそうに唇を噛む。
リリアがそれに耐えきれているのは、戦闘後でギオニス自身の力が下がっていることなのか、リリアの耐性が強いのか。
原因は分からないが、彼女はまだ正常でいる。
「で、どうする?」
ギオニスはリリアにそう尋ねた。
「お前の処遇か? そうだな。まずは身体中を斬りつけてだな――」
「違う。魔王のことだ」
「ふんっ」
ギオニスの言葉を聞いて、リリアは氷の剣を消した。
「あいつが言っていたな。
この悲劇を生み出したのは魔王だって」
結果として、オークとエルフが争ったのは偶然だったが、それでも魔王はその原因を作った。
ギオニスとしても許されるはずがなかった。
「俺はそいつを許さない」
「私もよ。
そいつを斬り捨てないと、民も浮かばれないわ。
それにだ――」
リリアは口を閉じた。
「あぁ、そうだな。
淫乱剣士の汚名を晴らしに行かないとダメだな」
ギオニスが笑ってそう言うと、リリアはキッと睨みつけた。
「誰のせいだと思っているのよ! 誰の!
早くこの呪印を消してよ!」
「それが……その……なんだ……」
ギオニスが申し訳なさそうに口籠った。
「……ないんだ」
「はぁ?」
「その……あれだ……相手に絶望と後悔を植え付けるためのやつだから、わざわざ、解除方法まで考えていないっぽいんだ」
「なんですって!」
「ま、まぁ、今から考えるから」
その言葉にリリアは絶望の表情を浮かべた。
ギオニスは申し訳なさそうな表情を浮かべると、戦闘態勢を解除した。
許してくれとリリアを見ると、リリアはなんとも言えない表情でギオニスを見た。
「リリアは今からどうする?」
「大森林を出るんでしょ?
なら、焼けてほとんどなくなってるかもしれないけど、まだ残っている装備を用意しておきたいわ」
「あぁ、俺もだ。
これからどれほどの旅か分からんしな」
「分かったわ。じゃあ、一刻ほどしたらここで落ち合いましょう」
ギオニスはリリアと別れると、オークの村に戻った。
焼け落ちた家。そこにあった家具や農具は無残にも壊れ、もうそれが何であったかは分からなかった。
弱肉強食は大森林の摂理ではあるが、それでも容易に受け止められるものではなかった。
自分を慕ってくれた者、まだ戦士になる前の幼い子どもたち。
魔王を許してはおけない。
その風景をもう一度胸に刻み込んだ。
自分の部屋に戻ると、いくつかの武器と服を選んだ。
長旅だろう。保存のきく食料といくつかの服。
友の亡骸は数日もしないうちに大森林が土へと還すだろう。
ギオニスは物言わぬ彼らに別れを告げるとリリアの待つ場所へと歩いていった。
泉のそばに着くと、意外にもリリアが先にそこで待っていた。
「用意はいいのか?」
「えぇ、旅の支度は軽い方がいいからね。
それに……」
「……そうたな」
言葉の詰まったリリアにギオニスは優しく首肯した。
本当なら彼らを埋葬したい。
が、その場にいるとどうしても押さえきれない気持ちが溢れてくる。
憎きエルフに復讐を果たしたい。
切っ掛けを作ったのは魔王だが、最終的に殺し合ったのは、他でもない目の前のエルフたちだ。
エルフの魔法に剣戟の音。それがまだ耳から離れない。
その湧き上がる気持ちを理性で押さえつける。
敵は魔王だ。エルフではない。
彼女も同じだろう。
オークに復讐を果たしたい。
だから、その場からいち早く離れたかった。
ひと目の別れと共に。
「行くか」
「そうね。まずは、魔王退治よ」
まずは……か。
ギオニスは、リリアの言葉に頷いた。
気持ちを切り替えて、ギオニスとリリアは村を離れ、大森林の外に向かって歩き出した。
>> 第006話 這いつくばれ! メス豚が!




