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第004話 淫乱の姫騎士爆誕

 鈍い音共に炎よりも赤い血が空に舞い上がった。

 口ぎられた腕を押さえたエンラは叫び声を上げながら地上に落ちた。


「何なんだよ。お前ら!

 バイモスはどうした! ハイーダはどこだ!」


 勝ちを確信してから一転。魔法ごと腕を食いちぎられたエンラはその不幸を呪うように声を上げる。


「そいつらは、俺とリリアが殺したよ」

「ふざけるな! 俺様の軍の中で最も強い奴らだぞそんな簡単に――」

「俺たちを舐めるなよ」


 ギオニスの低い声にエンラが押し黙る。

 自分たちも、リリアたちもタイミングさえ悪くなければこんな悲劇は起きなかった。

 リリアが軽やかに地面に着地すると怒り顔で近づいてきた。

 が、どうも様子がおかしい。


「ギオニス! 何をした!」

「ん?」


 リリアはなぜか胸と下腹部を押さえている。

 その太ももには透明な液体が一本の線を引いていた。

 ギオニスが不思議そうな顔をするとリリアの機嫌が更に悪くなる。


「こ、ここが、疼くんだ!

 貴様のアレだろ!」


 そう言うと、服の上から子宮を、いや、呪印があった場所を押さえる。

 それを見て、今更ながらにリリアを呪印をつけたことを思い出した。


「後で説明してやる。

 今はこいつだ」

「いつ……オークがきた……?」


 エンラは恨めしそうにギオニスを見た。


「いつって、最初からいただろ?」

「あのヒトがオークか。

 そうか……そういう事か……」


 ギオニスとエンラが話している間もリリアは落ち着かなさそうにそわそわしている。

 エンラはリリアを見ると怪訝そうに呟いた。


「この気配……あのエルフ、呪印持ちだな?」

「あぁ」


 リリアの代わりにギオニスが頷いた。

 相手を屈服させるために使ったオークの呪印。

 お互いの誤解が原因だが、不幸にもリリアにそれをつけてしまった。


「オークの呪印。いや、呪淫か。よく平気でいられるな……お前ら何者だ?」

「《暴食の王》オーク族長ギオニス」

「せ、《千剣の姫騎士》リリア……ん……だ」

「くっくっくっ、やはりな!」


 リリアが名乗る前に、エンラが、大きく笑いだした。


「ジェドー!! 聞こえているか!

 こいつらがあの七つの大罪だ!」

「何のことだ!?」


 困惑したギオニスだが、もう、エンラにはギオニスの声が入ってきていなかった。


「道理でオークの呪印淫をつけられて平気でいられるわけだ!

 《暴食の王》のギオニス! 《淫乱の姫騎士》リリア! この名を魔王様に届けろ! 絶対にだ!」 

「お前、今なんと――」


 リリアの叫び虚しく、エンラがそう叫んだ瞬間、エンラの影が動き出し、それが地面を這うように離れていった。

 どうやら、ジェドーと言われたものはエンラの影に隠れていたみたいだ。


「リリア、逃がすな!」

「当たり前だ!」

「おいおい、お前らの相手は俺様だろう?」

 

 リリアが、飛び出そうとしたその瞬間、エンラの身体が赤く光り巨大な魔法陣を目の前に描いた。


「俺様の最大の魔法で――」

「死ね」


 リリアがその一言共に剣を横に薙いだ。

 その瞬間、魔法陣ごとエンラの身体が二つに分かれた。


「おま……魔法陣ごと……だと」

「私の剣に切れないものなどないわ」

「くそっ! 道連れだ!!」


 エンラの命が急速に魔力に変換されていく。

 ひと目でわかるほどの強力な魔力溜まり。

 魔法と言えない魔法。

 ただ無秩序に魔力が炎へと変換されていく。

 

「こいつ――」


 それが自爆の魔法だと気づいたのは一瞬。

 言葉が言い終わらない内に、目の前に全てが炎に彩られた。

 耳を劈くような爆音は静寂さを超え、爆風と炎熱が皮膚を焼く。

 自己犠牲の魔法。

 その魔法は数あれど、命を消費する魔法はどれもが桁違いの威力だ。

 エンラの滅炎も例には漏れず、魔法耐性があるオークの皮膚を焦がしていく。


 数瞬が数刻に感じるほどの時間が過ぎた。


 ギオニスが、ゆっくり顔を上げるとあれほど緑豊かだった一帯が、吹き飛び土塊だけになっていた。


 その横で氷の障壁に包まれたリリアが冷たい目でその爆心地を見ていた。


「やっぱり殺したか」


 実力差がありすぎた。

 どれだけ弱っていようともリリアはエルフの姫であり最強の騎士だ。

 何かしら情報を聞き出したかったが、仕方がない。

 ギオニス自身、エンラが切られたのを見て多少の溜飲が下がった。


「悪い?」

「いや、どの道、俺も我慢できなかった」


 エンラの腕を食いちぎった瞬間、押さえていた感情が爆発したのを感じた。

 おそらくリリアが斬らなければ、数瞬もないうちに自分が喰い殺していたに違いない。

 

「それより――」


 リリアはエンラに向けていた切っ先を今度はギオニスに向けた。


「説明してもらおうかしら?」


 リリアの顔には怒りとも違う何とも読み取りにくい不思議な表情を浮かべていた。



>> 第005話 そうだ、魔王を狩りに行こう!

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