名古屋の家
テレビに映る家族は、だいたい四人だった。
父親、母親、息子、そしてその姉とか、弟とか。
でも、俺は気が付いたころからお母さんと二人きりだった。
友達を作るのは自分にとって簡単だった。いつも公園にいる子供たちに話しかけるだけで彼らは俺を遊びに入れて、みんなで鬼ごっこなんかをした。
でも、その子供たちとは二度と会うことはなかった。
時間に追われるように、俺とお母さんは立ち止まることを知らなかった。
本当に、一生の家になるだろうと願っていた家に引っ越したとき、その時俺は嬉しくてたまらなかった。
でも、長くはなかった。
朝早く起きるのが癖になってしまった俺は長いガラスの階段を片足だけ使って下りていく。
食卓のある場所は解放感のある部屋になっていて、中庭が見えるよう、ガラス張りになっている。
食卓の前にはあまり広いとは言えないキッチンに、裏庭につながる扉があった。
普段はなぜか玄関を使わず、家に入る時は裏庭の扉から入っていた。
駐車場にいつも止められていた車の色を忘れてしまうほど、記憶は曖昧になってしまった。
それでもよく覚えているのは、お母さんと一緒にその家で過ごした時間だった。
太陽が空に昇っている間、俺とお母さん二人の家だった。夜遅くになると、たまに”お父さん”が来てお母さんにキスをし、自分の部屋に急いでいった。
仕事で忙しいと言って、俺と接しようとはしなかった。
彼と一緒に出かけた経験も、一緒に普通の話をした経験もない。俺にとって彼はそこにいただけの人だった。
お父さんが帰ってくる頃には、俺はいつも寝ていた。だから、別に毎日夜遅く彼の顔を見ていたわけじゃない。
もう、いないのは慣れてしまった。
中庭で遊ぶのはとても面白かった。緑の芝生にはいつもおもちゃが散らばっていて、中庭から家の中を眺めたり、シャボン玉で遊んだりして時間を潰した。
外にはフェンスはなく、壁一帯が薔薇の花に包まれていた。
まるで、アリスインワンダーランドという実写の映画で見た光景で、いつも面白がって見ていた。
”源さん”と呼ばれるあの頃のお父さんは、食卓の隣にある本棚をいつもいじくりまわっていた。
俺がそこに近づき、何があったのかを見てみるとお母さんは
「壊さないように気を付けてね」
とだけ注意し、キッチンに戻った。
本棚にはマッドマックスやバットマン、スパイダーマン、ハリーポッターのDVDが並んでいて、全てが俺にとってどれも宝物みたいに光って見えた。
お母さんに頼んで、バットマンを見ようとした。
昔からスパイダーマンのファンだった俺にはすでに、ポルトガル語版の映画があったので日本語版には興味がなかった。
でも、バットマンは違った。バットマンは話に聞くが、一度も読んだことも、見たこともなかった。
日本語だから、理解できるはずがなかったが、それでも観た。
荒い画質の映画で、そこには傘を持ったペンギン男が汚い歯を見せつけているシーンをよく覚えている。
別に気に入ったわけじゃなかった。映画も、理解できたわけじゃなかった。
でもなんだか、その映画だけは自分のものにしてみたいと思った。




