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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

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第270話 王国と帝国

翌朝、まだ朝日が昇ったばかりの頃、レオンは使用人に案内され、食堂へ向かっていた。

今日は、王国と帝国の和平調停式。

両国の未来を左右する、重要な日である。

扉の前まで来ると、使用人が静かに扉を開けた。


「レオン辺境伯様、どうぞ」


「ありがとう」


レオンが食堂へ入ると、既にクニヒロとコトハが席に着いていた。


「おはようございます」


レオンが一礼すると、クニヒロも穏やかに頷く。


「おはようございます、昨夜はよくお休みになれましたか?」


「はい、お陰様でぐっすり眠れました」


「それは何よりです」


コトハも優しく微笑む。


「どうぞ、お掛けください」


レオンは席へ着いた。

朝食が運ばれてくる。

昨日と同じように、焼き魚、味噌汁、白い米、漬物が並ぶ。

レオンは自然と箸を手に取った。

クニヒロはその様子を静かに見守り、小さく微笑む。

やはり、見間違いではない。

箸を持つ姿も、魚の食べ方も、あまりにも自然だった。

そんな中、食堂の扉が静かに開く。

全員の視線が、そちらへ向いた。


「失礼いたします」


凛とした声が響く。

そこに立っていたのは、黒の振袖へ身を包んだミコトだった。

漆黒の振袖には、金と赤の糸で美しい花々が刺繍され、歩くたびに朝日を受けて静かに輝く。

深紅の帯が細い腰を引き締め、艶やかな黒髪は美しく結い上げられていた。

一本の金色の簪が、僅かに揺れる。

昨日の清楚な白い着物姿とは雰囲気が一変し、華やかで気品に満ちた姿は、同じ少女とは思えないほど美しかった。

落ち着いた所作に、レオンは思わず言葉を失う。

ミコトはレオンの前まで来ると、静かに一礼した。


「おはようございます、レオン辺境伯様」


レオンは我に返り、慌てて立ち上がる。


「お、おはよう、着物……凄く似合ってる」


素直な感想だった。

ミコトは一瞬だけ目を丸くし、すぐに小さく微笑む。


「ありがとうございます」


その頬が、ほんの少しだけ赤く染まった。

コトハはそんな二人を見ながら、嬉しそうに微笑む。


「その振袖は、ミコトが正式な場へ出る時だけ身に着ける、特別な一着なのです」


クニヒロも静かに頷いた。


「和平調停式は、帝国にとっても重要な式典です。将軍家の娘として、正装で臨みます」


レオンは、改めてミコトを見る。


「なるほど。確かに、その格好なら帝国の代表って感じがする」


ミコトは静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


その時、屋敷の外から馬車の止まる音が聞こえてきた。

使用人が食堂へ入り、一礼する。


「クニヒロ様、第二皇子ルーカス様がお迎えにいらっしゃいました」


食堂の空気が、少しだけ引き締まる。

いよいよ、王国と帝国、両国の未来を決める和平調停式が始まろうとしていた。

使用人の報告を聞くと、クニヒロは静かに立ち上がった。


「参りましょう」


「はい」


レオンも席を立つ。

食堂を出ると、屋敷の正面には皇族の紋章が入った豪華な馬車が止まっていた。

その傍らには、正装へ着替えたルーカスが静かに立っている。

白を基調とした帝国皇族の礼装。

銀の刺繍が施された上着。

腰には、昨日ガレオンの工房から戻ってきた剣が下げられていた。

レオンはその姿を見ると、笑みを浮かべる。


「剣……戻ってきたんだな」


ルーカスは腰へ視線を落とし、小さく頷く。


「ああ、今朝受け取った」


「そうか、また今度、王国式と教国式でも決着を付けよう」


「ああ、約束だ」


短いやり取りだった。

だが、互いにその約束を忘れてはいなかった。

ルーカスはクニヒロへ向き直る。


「将軍、迎えに来た」


クニヒロは静かに頷く。


「ご足労ありがとうございます」


「それでは皆様、馬車へお乗りください」


レオン、ミコト、クニヒロ、コトハの順で馬車へ乗り込む。

ルーカスも最後に乗車すると、御者が手綱を握った。


「出発いたします」


馬車はゆっくりと走り出す。

窓の外には、朝の帝都が広がっていた。

店を開く商人。

行き交う住民。

巡回する帝国兵。

その姿を眺めながら、レオンは静かに口を開く。


「今日は、帝都全体が静かだな」


ルーカスが答える。


「和平調停式を知っている者も多い。皆、今日は無事に終わることを願っている」


レオンは、窓の外へ視線を向けた。

王国と帝国、未来では争うことになってしまう、二つの国。

その未来が、今日の調停式で大きく変わる。

自然と気持ちも引き締まる。

やがて馬車は大通りを抜け、巨大な城門の前で速度を落とした。

白く巨大な城壁。

天高くそびえる皇城。

帝国の中心にして、皇帝が治める場所だった。

衛兵達は馬車を見るなり、一斉に敬礼する。

重厚な城門がゆっくりと開かれ、馬車は皇城の中へと進んでいく。

王国と帝国の新たな歴史が刻まれる場所へ、レオン達は静かに足を踏み入れた。

馬車は、皇城の中庭で静かに止まった。

御者が扉を開ける。


「ご到着いたしました」


ルーカスが先に馬車を降りる。

続いて、レオン、クニヒロ、コトハ、ミコトの順に降り立った。

皇城の中庭には、既に多くの兵士達が整列している。

その姿は微動だにせず、静寂だけが辺りを包んでいた。


「こちらです」


ルーカスが先頭に立ち、廊下を歩き始める。

磨き上げられた白い床。

天井には豪華な装飾。

壁には、歴代皇帝の肖像画が飾られていた。

王城とはまた違う、帝国らしい荘厳な雰囲気だった。

しばらく歩くと、大きな両開きの扉が見えてくる。

扉の前には、近衛兵が二人立っていた。

ルーカスの姿を見ると、同時に敬礼する。


「第二皇子殿下」


ルーカスは静かに頷いた。


「開けろ」


「はっ!」


重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。

その先には、広い謁見の間が広がっていた。

赤い絨毯が真っ直ぐ奥まで伸び、左右には帝国の重臣達が並んでいる。

最奥には、一段高い玉座。

そこには既に、皇帝ジーカス・ヴァルハイトが腰掛けていた。

その右には、第一皇子ジークハルト。

左には、教国を代表してエミルが立っている。

エミルはレオンの姿を見ると、柔らかく微笑み、小さく会釈した。

レオンも軽く頷き返す。

その様子を見たルーカスが、口を開く。


「父上、レオン辺境伯をお連れしました」


皇帝は穏やかに頷く。


「ご苦労だった」


そして、レオンへ視線を向ける。


「レオン・ノルディア辺境伯。遠路遥々、よく来てくれた」


レオンは一歩前へ進み、胸へ手を当て、一礼する。


「お招きいただき、ありがとうございます。本日は、和平調停に参りました」


皇帝は満足そうに頷いた。


「うむ……では、始めよう。今日という日が、王国のノルディアと帝国、両国の新たな歴史の始まりとなることを願っている」


その一言で、謁見の間の空気が一変する。

誰もが表情を引き締めた。

長く続いた両国の歴史に、新たな一ページが刻まれようとしていた。

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