第257話 帝国の武具店
スルガ邸を出ると
ミコトはレオンの半歩前を歩き始めた
「それでは帝都をご案内いたします」
「よろしく頼む」
春の風が帝都を優しく吹き抜ける
石畳の大通りには今日も多くの人々が行き交っていた
商人の呼び込み
荷馬車の車輪の音
子供達の笑い声
そして遠くからは規則正しく金属を打つ音が聞こえてくる
カンッ
カンッ
カンッ
レオンは音のする方へ視線を向けた
「あの音は?」
ミコトも同じ方向を見る
「あちらが鍛冶街です 帝国で最も多くの鍛冶師が集まる場所になります 武具店もこの街の中にありますので今日はまずそちらをご案内いたします」
「楽しみだな」
レオンは素直に笑った
しばらく歩くと辺りの景色が少しずつ変わっていく
武具店
鍛冶場
鉄材を扱う店
あちこちで真っ赤に熱せられた鉄が打たれ
火花が舞い 職人達は汗を流しながら黙々と槌を振るっていた
帝国でも有数の職人街らしい活気だった
「凄いな……」
レオンは思わず辺りを見回す
「ノルディアとはまた違う雰囲気だ」
「帝都には優秀な鍛冶師が数多くおります 帝国各地から依頼が集まるため自然とこの街も発展いたしました」
二人は鍛冶街でも一際大きな武具店へ入る
店内には整然と武器が並べられていた
直剣
槍
斧
大盾
弓
見たことのない武器まで数多く並んでいる
レオンは興味深そうに店内を見回した
「凄い品揃えだな 王都でもここまで多くは見たことがない」
ミコトは静かに頷いた
「帝国は武器の種類も多いですから」
そう言うと 一本の武器を手に取った
細く 僅かに反りのある片刃の剣だった
「こちらは刀です 私達スルガ家や帝国東部の兵達が主に使用しております」
レオンは刀身を見つめる
滑らかな反り 片刃ならではの美しい形
前世の記憶が自然と蘇る
(刀か……)
日本で何度も映像や資料で見た武器
この世界で実物を見る日が来るとは思わなかった
「王国の剣とは全然違うな」
「はい 片刃で反りがあるため 斬撃に優れております 私達の剣術も刀に合わせて受け継がれてきました」
レオンは静かに頷いた
「綺麗な武器だ」
ミコトは刀を元の場所へ戻す
続いて一本の剣を手に取った
真っ直ぐに伸びた細身の刀身
両刃で王国の剣より少し長い
柄も長く作られており 片手で扱える造りになっていた
「こちらが 帝国で最も一般的に使われている剣です ルーカス殿下もこの形の剣を使用されています」
レオンは剣を見て頷いた
「確かにルーカスもゼムもこんな剣だったな」
「斬ることも 突くこともでき 片手でも扱える様になっており 帝国騎士団で最も多く使われている剣です 帝国式剣術もこの剣を基準としております」
「なるほど」
レオンは納得したように頷く
「だから帝国式はあれだけ自由に戦えるのか」
ミコトは微笑み 剣を元の場所へ戻した
そして 隣に飾られていた一本の武器を手に取る
刀とも帝国剣とも違う
刃が大きく前方へ湾曲した独特な形だった
「こちらはケペシュです アメラン家や帝国南部の兵達が主に使用しております」
レオンは興味深そうに見つめる
「随分変わった形だな」
「はい 斬るだけではなく 相手の武器や盾を引っ掛けることもできます」
「南部で独自に発展した武器です」
レオンは店内を見回した
「同じ帝国なのに使う武器まで全然違うんだな」
ミコトは穏やかに微笑む
「はい 帝国は様々な文化が集まってできた国です そのため地域によって武器も戦い方も異なります」
レオンは感心したように頷いた
「だから帝国には こんなに色々な武器があるのか」
「はい それも帝国の魅力の一つです」
その時だった
店の奥から一人の初老の店主がゆっくりと歩み寄ってきた
その視線レオンの腰に下げられた一振りの剣へ向けられていた
初老の店主はレオンの前まで歩み寄ると深々と頭を下げた
「突然お声を掛けてしまい申し訳ございません……一つお願いがございます」
レオンは首を傾げる
「何でしょう?」
店主の視線はやはりレオンの腰の剣へ向けられていた
「あの剣を……少し拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
レオンは少し驚いたがすぐに剣を鞘ごと外す
「構いません」
「ありがとうございます」
店主は両手で丁寧に受け取る
まるで宝物を扱うような慎重さだった
ゆっくりと鞘から剣を抜く
シャリン……
澄んだ音が店内へ響く
店主は刀身を見た瞬間 息を呑んだ
「これは……」
手が僅かに震える
刃紋
刀身の輝き
鍛え方
柄の造り
どれも見覚えがあった
「間違いありません……ガレオン様の剣です」
その一言で近くにいた客や職人達も思わず振り返る
「ガレオンだって?」
「まさか……」
小さなどよめきが店内へ広がった
レオンは静かに頷く
「ルーカスから頂いた剣です」
店主は何度も頷きながら刀身を見つめる
「素晴らしい……まさかこれ程の剣をこの目で拝見できる日が来るとは……」
しばらく見つめた後
丁寧に剣を鞘へ納めレオンへ返した
「ありがとうございます 大変貴重なものを拝見させていただきました」
レオンは剣を腰へ戻す
「何か知っているんですか?」
店主は少し申し訳なさそうに笑った
「申し訳ございません ガレオン様の後期の作品であることまでは分かります なのでそれ以上のことは私ではお答えできません」
レオンは首を傾げた
「そうなんですか?」
店主は静かに頷く
「はい もし詳しいお話をお聞きになりたいのでしたら ガレオンの工房を訪ねられることをおすすめいたします」
ミコトも小さく頷いた
「私もそのつもりでした」
店主は続ける
「現在は 一番弟子のマルト様が工房を受け継がれております ガレオン様のお名前こそ継がれませんでしたが 今でも『ガレオンの工房』の名で続いております」
店主はレオンを方へ向き話を続けた
「マルト様は 現在 帝国で最も腕が良いと評判の鍛冶師です そして 師であるガレオン様を最もよく知るお方でもあります」
レオンは少し嬉しそうに笑った
「そうか それならぜひ行ってみたいな」
ミコトも微笑む
「では参りましょう 工房はここからそう遠くありません」
レオンは店主へ一礼した
「ありがとうございました」
店主も深く頭を下げる
「こちらこそ またのお越しをお待ちしております」
二人は武具店を後にした
鍛冶街には今日も絶え間なく鉄を打つ音が響いている
その音を聞きながらレオンとミコトはガレオンの工房へ向かって歩き始めた




